記憶共有的異世界物語

さも_samo

第18話:上乗せ

「なぁ、一つ聞いていいか?」

ミレイ・ノルヴァの説明が一通り終わり、辺は冷たい静寂に包まれた。
ミレイ・ノルヴァの冷たいその眼光は、僕等を凍らせるのに充分すぎるものだった。

「何?」

「さっきエルフの【予言】つったよな?エルフは一体誰の予言を預かっているんだ?」

「随分嫌な事に気づいたのね、その質問はそのまま貴方に返すわ俊介」

ミレイ・ノルヴァに凍らされたこの空気は、僕の思考を冷静なものにさせる事にも充分だった。

バーミアと地球を両方とも知っている存在。
僕やシュンヤの事を、僕等が生まれる前から熟知していた人物。

僕が生まれる【運命】を知っている人物....。

「おい、待て」

「気づいたのね、そう。エルフに予言を与えていたのは私。エルフ種族に禁忌を起こさせるのに十分すぎる動機を与えたのも私」

重く凍りのように冷たい空気に亀裂が入るのを感じた。
理解よりも先に反射的に体が動いた。

手が無意識のうちに頭に行き、気付くと頭を抱えていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

言葉なのかすらわからない叫びが体の底から絞り出された。
自分が何にショックを受けているのかすら分からなかった。
しかし体は理解していた。
だからこそ無意識が叫んだ。

無意識が叫んだ。

恐ろしい恐怖を、表現できない程の恐怖を。
記憶が【飛ぶ】レベルのビックショックを。

「落ち着いて俊介」

奈恵の声が聞こえた。
しかしその声は実に不明瞭で、右耳から入り左耳から抜けた。
気が狂いそうになる。というかもう狂ってる。

脳で状況を理解していないのに、体が理解し勝手に狂っている。
自分が置かれた絶望的な状況に、自分が詰んでチェック・メイトしまっている事実に。

「ミレイさんって言ったか、アンタ、なんでわざわざそんな事を?」

「神ってのはとても退屈なの。存在しているだけで神としての仕事は全て果たせちゃうし、崇められる神ってのは神の中でもほんの少し。そんな中エルフの連中は私の存在を【無価値】にしようとした。エルフの本当の恐ろしさってのはね、【占いの技術】なんかじゃない。【高度すぎる魔法技術】なの」

「で、つまりは自分の存在が無価値になるのが嫌だから俊介達の存在をバラして別の事に興味を持たせたと....嬢ちゃん、それはちと身勝手すぎやしねぇか?」

体が狂気そのものになっている中、馬場さんとミレイ・ノルヴァの会話は何故かハッキリ聞き取れた。
体が情報を必要としたからなのだろうか?

「最初は責任だってちゃんと取るつもりだった。俊介なんて男の子が生まれる運命なんて最初から存在しなかった、シュンヤとのリンクなんて言うのも私が作ったデタラメだった」

「でも、彼等はやってしまった。その強欲さ故に私の予言を一字一句正確に書き記し、まとめてしまった...私がエルフに渡した予言は俊介という男の子の存在と、地球の存在の2つだけだった。それ以上の情報を与える気なんて最初からなかったの」

「でも何故かしらね、彼等は私が渡した以上の情報をポンポン入手し出したの。まるで新しい【予言主】が現れたかのようにね」

ピタリ...と体の動きが止まった。
狂気に満ちていた体は完全にその動作を停止し、目はどこを見てるかわからず、ただひたすらに視覚、聴覚、嗅覚と言った情報をただただ体に流していた。

「ねぇ、ミレイさん。その新しい【予言主】って」

「私以外の誰かがエルフに情報を垂れ流している...でもそれは誰か一切分からなかった。情報量からして天界人かと思ったけれども、それにしては地球の事を知りすぎている...一番奇妙なのがその予言主は私が予言を続けているように振舞っていた事」

そこまで聞いて、僕の意識はあっという間に暗い闇の中へと誘われて行った。
しかし、最後に僕が見たミレイ・ノルヴァの口元は。



微かに笑っていた。






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