記憶共有的異世界物語

さも_samo

第13話:正体不明の不安

「いやいや、召喚者がいるんだろ?そんな旅できるほどの時間転生させ続ける事が出来る人間がいるのか?」

気付くとおしゃれなバーに居た。
目の前には空のグラスコップが置いてあったが、目の前にいる老人が不思議そうな視線を俺に向けている。

白髪のウルフカット。
白黒のピシッとしまったシャツ。
ものすごい貫禄を感じる老人。

.....

俊介の奴、どうして人の体に憑依しているタイミングでそういう事言っちゃうかな...。

「冗談ですよ冗談。俺の名前はシュンヤ。昔少しだけ王国騎士をやってた人間です」

「どっちだよ」

老人は特に怒る様子もなく、にこやかに対応してくれたのだが、俊介は一体どうやってこの老人を見つけたのだろう。
俊介の記憶の中に【馬場さん】と呼ばれるバーのマスターがいるのだが、どう見たってその人そのものじゃないか。

まるで誰かに運命を【いじられている】んじゃないかと思う程に貴重な出会いを繰り返している。

バリッシュさんに馬場さん。ナエラに奈恵。いくらなんでも揃いすぎだ。

ここまで来ると、何かが【起こっている】と認めざるを得ないし、認めないと先に進まない。
仮にミレイ・ノルヴァがその神パワー的な何かで俺等の運命をいじってるというのであれば迷惑な限りだが、それもそれで受け入れれば沢山の発見ができるだろう。

エルフの被害者はこれで3組に増えたってわけだ。
俺と俊介。バリッシュさんと馬場さん。ナエラと奈恵。

これが本当にエルフの被害者なのかどうかは分からない。
でもそう【仮定】すればかなり先が見える。
色々な条件が変わる。

「ところでシュンヤってあの禁忌の書撲滅団の?」

「そうですが、知ってるんですか?禁忌の書撲滅団」

「あぁ、孫が昔お世話になってね。人質として取られていたんだけど、君達に助けられたんだ。あの時は本当に助かったよ」

「いえ、まぁそれを職にしているので...」

なんというかちょっと嫌な予感がしている。
バリッシュさんの孫....まさかその孫でさえ対になる人間なのではないだろうか?

待て、被害妄想はやめろ。
やってけなくなる。

「それにしても君達はどんな訓練をしているんだい?狙った敵組織をあんな効率的に倒せるなんてそうある事じゃないよ?」

「いえ、訓練ってのは特には...」

「訓練なしであの実力?軽く化物だね」

ハハハと乾いた笑いを見せたバリッシュさんの言葉に敵意は感じなく。ただ普通に孫の命の恩人と話すような話し方だった。

訓練...か。
普通に訓練などしていない。
ただ彼等が優秀すぎるだけだ。
そもそも禁忌の書撲滅団に関してはいつの間にか気付いたら出来ていて、俺はそこのリーダーをやっていた。ってだけで、今日の今日まで組織的に動いた事など一度もない。

これで良くもまぁここまで知名度が上がったものだと驚くのと同時に、統制を全くとっていない組織が組織として認識されている事に驚きを隠せない。
それこそ周りからはガキの遊び程度にしか思われていないものだとばかり思っていた。

禁忌の書撲滅団が組織的に動いた場合。どれほどの力を発揮させられるだろうか?
いや、組織化した瞬間に彼らの才能は死ぬだろう。
彼らの力にリミッターをかけるような事はしたくない。

でもそうすることで憑依やエルフの一件に決着をつけやすくなる可能性がある事を否定することは出来ない。

彼らの才能を殺しても十分お釣りが来るほどの価値がその一件にあることは確かだろう。
なにせ神の世界に触れた存在を調べるのだから。
言い方を変えるなら、生まれた時から神に監視され管理されている人間が、その原因を断とうとしているのだ。普通に考えるなら相当特質な経験が出来ること間違いなしだ。

職業柄戦闘が多い人生を送っているが、戦闘において大事なのはその場にどれほど素早く対応出来るか。これに尽きる。
だからこそ普通の人生を歩むだけでは手に入らない何か【コレ】と言える経験をするのはとても価値のあることだ。

敵を知り、柔軟に対応する。
よかった。基本は変わらない。

「ドリンク美味しかったです。また来ていいですか?」

「あぁ、また何かあったときにでも来るといいさ。店が潰れてない限りいつでも待つよ」

そう言ってバリッシュさんはニコニコと俺を送り出してくれた。
カランカランとなる鐘の音に俺はどうも不吉なモノを感じ、正体不明の不安に包まれたが気のせいなのだろうと放置することにした。

人間、神経質になるとありとあらゆるものが不安の種に見えたり聞こえたりするものだ。

落ち着け。


さて、そろそろ俊介は俺が調べ上げたエルフの情報に一通り目を通した頃だろうか。

そして気づいてるだろうか。



俺がここまで神経質になってる理由を。

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