黒剣の魔王
第38話/巨神イタカ2
銀が大きく刀を横に薙ぐと、そこに空気を操って姿を隠していたイタカの姿が現れた。
「さぁ、かかってこいよデカブツ」
銀は余裕を持って目の前のイタカに話しかけるが、イタカからの反応は何一つとしてなかった。
自意識を一切感じさせないその巨体の動きは、なにか不穏なものを感じさせる。
左右別々に蠢くその不気味な双眼は、辺りを見回して今、どうしてこのような状況になったのか、それを起こしたのは誰なのかという答えを必死に探しているように見えた。
「おい、ジロジロ見回してないでかかってこいよ」
その声に反応して、イタカの顔がのっそりと銀の方向へ動く。
途端に訪れた強烈な風に体を煽られ、ステラとアルバは何も出来ずに洞窟の中へと避難し、事の顛末を見守ろうとする。
自分たちは何も出来なかった。戦える力があるのに誰も守れず、怖気付いて逃げてしまった。そんな感情が頭の中を支配して、自身を虐げることを止めさせない。
もうやめて、もうやめて、と頭の中で思考がぐるぐると巡り、終いにはただ黙って仲間の剣士が巨人と戦う姿を見つめることしか出来なかった。
『問おう。貴様が黒剣を引き継ぎし魔王か?』
とてつもなく低い声、ゆったりとした口調で放たれたその言葉がイタカの口から放たれたものだと理解するのに少しの時間を要したが、それと同時にあの巨体で知能があることに誰もが恐怖を感じた。
圧倒的パワーを誇り、強大な魔法を扱え、それに準ずる知能をも兼ね備えている。こんな厄介な相手、普通の人間だったら相手にすることは無いし、それ以前に出会った瞬間に風に舞い上げられ、地面に叩きつけられてぺしゃんこになってしまうだろう。
それくらいやつは恐ろしい存在で、地球のその存在を知るもの全てが畏怖した、信仰の歴では真新しい神だ。
どれだけ人をこけにしようと、腐っても神である。自身を進行する生き物たち以上の知能程度なら兼ね備えていた。
「俺は魔王じゃあない。だが知っておいて損は無い。俺はここでお前を狩るモノのだ」
『戯れ言を。貴様のような我々を進行するし可能のないようなものなど取るに足らんわ。苦しませずに葬ってやるから土中で眠るといい』
彼はこのようなセリフを吐きながらも、内心感心していた。神である自分に反抗しうる人間がいたことに。
普通の神ならば、特に彼の所属するクトゥルフ神話の神たちならば、彼のその発言に対して憤りを感じて即刻彼に対して攻撃を仕掛けていただろう。
しかし、イタカは違った。自分の起こした風にも屈せず、自分の放つ威圧感にも気圧されずに勝負を挑んできたものなど今まで一人としていない。
神の中では半端な知能しかなかったイタカは、とても人間らしい思考を持っていた。故に、彼が自分に勝負を挑んだことに対しての最低限の敬意として『苦しませずに葬る』という選択肢を選んだのだ。
「すまないな、生憎そこまで簡単にやられるほど、俺は弱くない」
『そうか』
本来の目的を早く達成しなくてはならないことを思い出し、イタカは素早く彼を葬ろうと暴風魔法を発動させた。
『巨神霧影』
あたりが濃いきりに包まれ、イタカの巨影が霧にいくつも映る。
その全てが魔力で実態を得た人形であり、イタカの忠実な僕だ。
イタカがその僕たちに命令をしようとした時、異変は起こった。
一瞬にして霧が晴れ、周囲は晴天に包まれる。激しく揺らめく陽炎が、イタカに今の状況を教えていた。
『貴様、まさか……』
「そのまさかだ。俺は『クトゥグア』をこの体に降ろした」
イタカの霧は、属性でいうと風を示しているのだが、そんなことはお構い無しとばかりにイタカの魔法を完全に消したその灼熱は、未だに赤々と銀の周囲と彼の剣が通った軌道を燃やし続けていた。
『下等生物如きが神らの力を手に入れたというか!』
自分の主も似たような力で自分をこの世界に呼び出したことはイタカも知っていた。
しかし、自分の主は自分の力をここまで引き出すことは出来なかった。
この人間は強い。自分では敵わない可能性が高い。
先程まで優勢に立っていたつもりでいたイタカは、その現実を突きつけられた時、初めて恐怖というものを感じた。
この世に生を受けてからというもの、偉大なる父と同じように下等生物から崇拝され、神として存在してきた彼の地位を脅かすものは同じ神しかいない。
それがただの人間に奪われるということは、自分が下等生物よりも下であり、父の下にいた者達よりも下の存在であることを意味する。それは屈辱であり、敬愛する父に切り捨てられるという恐怖を意味していた。
『や、やめろぉ! 我は、か、下等生物なんぞに負けるわけには行かないのだ!』
暴れ狂い、ありったけの魔力を込めてそこら中に風をまき散らすイタカ。その姿は最早、極限状態まで追い込まれた草食動物であり、それを攻撃する銀の姿は狩りをする肉食動物そのものだった。
銀は、ゆっくりと刀を持ち上げて体の前に構えた。
「すまないな。俺もお前みたいな雑魚に負けるわけには行かないんだ」
低い声でそうそっと宣言すると、銀の全身から再び炎が立ち上る。
「『火葬焔』」
『や、やめろぉ! 我は、我はまだ死にたくなぃッ!』
全てを焼き尽くす行ける炎、終わる命を見届ける黒き龍、改心し民の心を引き付けた英雄王。
その3体の力を集めた火の一太刀は、音も立てずに静かに巨神を焼き尽くす。
「ごめんけど、俺も死にたくないんだわ」
ゆっくりと燃え尽きていくその命を背に、銀は戦いの最前線へと向かっていった。
「さぁ、かかってこいよデカブツ」
銀は余裕を持って目の前のイタカに話しかけるが、イタカからの反応は何一つとしてなかった。
自意識を一切感じさせないその巨体の動きは、なにか不穏なものを感じさせる。
左右別々に蠢くその不気味な双眼は、辺りを見回して今、どうしてこのような状況になったのか、それを起こしたのは誰なのかという答えを必死に探しているように見えた。
「おい、ジロジロ見回してないでかかってこいよ」
その声に反応して、イタカの顔がのっそりと銀の方向へ動く。
途端に訪れた強烈な風に体を煽られ、ステラとアルバは何も出来ずに洞窟の中へと避難し、事の顛末を見守ろうとする。
自分たちは何も出来なかった。戦える力があるのに誰も守れず、怖気付いて逃げてしまった。そんな感情が頭の中を支配して、自身を虐げることを止めさせない。
もうやめて、もうやめて、と頭の中で思考がぐるぐると巡り、終いにはただ黙って仲間の剣士が巨人と戦う姿を見つめることしか出来なかった。
『問おう。貴様が黒剣を引き継ぎし魔王か?』
とてつもなく低い声、ゆったりとした口調で放たれたその言葉がイタカの口から放たれたものだと理解するのに少しの時間を要したが、それと同時にあの巨体で知能があることに誰もが恐怖を感じた。
圧倒的パワーを誇り、強大な魔法を扱え、それに準ずる知能をも兼ね備えている。こんな厄介な相手、普通の人間だったら相手にすることは無いし、それ以前に出会った瞬間に風に舞い上げられ、地面に叩きつけられてぺしゃんこになってしまうだろう。
それくらいやつは恐ろしい存在で、地球のその存在を知るもの全てが畏怖した、信仰の歴では真新しい神だ。
どれだけ人をこけにしようと、腐っても神である。自身を進行する生き物たち以上の知能程度なら兼ね備えていた。
「俺は魔王じゃあない。だが知っておいて損は無い。俺はここでお前を狩るモノのだ」
『戯れ言を。貴様のような我々を進行するし可能のないようなものなど取るに足らんわ。苦しませずに葬ってやるから土中で眠るといい』
彼はこのようなセリフを吐きながらも、内心感心していた。神である自分に反抗しうる人間がいたことに。
普通の神ならば、特に彼の所属するクトゥルフ神話の神たちならば、彼のその発言に対して憤りを感じて即刻彼に対して攻撃を仕掛けていただろう。
しかし、イタカは違った。自分の起こした風にも屈せず、自分の放つ威圧感にも気圧されずに勝負を挑んできたものなど今まで一人としていない。
神の中では半端な知能しかなかったイタカは、とても人間らしい思考を持っていた。故に、彼が自分に勝負を挑んだことに対しての最低限の敬意として『苦しませずに葬る』という選択肢を選んだのだ。
「すまないな、生憎そこまで簡単にやられるほど、俺は弱くない」
『そうか』
本来の目的を早く達成しなくてはならないことを思い出し、イタカは素早く彼を葬ろうと暴風魔法を発動させた。
『巨神霧影』
あたりが濃いきりに包まれ、イタカの巨影が霧にいくつも映る。
その全てが魔力で実態を得た人形であり、イタカの忠実な僕だ。
イタカがその僕たちに命令をしようとした時、異変は起こった。
一瞬にして霧が晴れ、周囲は晴天に包まれる。激しく揺らめく陽炎が、イタカに今の状況を教えていた。
『貴様、まさか……』
「そのまさかだ。俺は『クトゥグア』をこの体に降ろした」
イタカの霧は、属性でいうと風を示しているのだが、そんなことはお構い無しとばかりにイタカの魔法を完全に消したその灼熱は、未だに赤々と銀の周囲と彼の剣が通った軌道を燃やし続けていた。
『下等生物如きが神らの力を手に入れたというか!』
自分の主も似たような力で自分をこの世界に呼び出したことはイタカも知っていた。
しかし、自分の主は自分の力をここまで引き出すことは出来なかった。
この人間は強い。自分では敵わない可能性が高い。
先程まで優勢に立っていたつもりでいたイタカは、その現実を突きつけられた時、初めて恐怖というものを感じた。
この世に生を受けてからというもの、偉大なる父と同じように下等生物から崇拝され、神として存在してきた彼の地位を脅かすものは同じ神しかいない。
それがただの人間に奪われるということは、自分が下等生物よりも下であり、父の下にいた者達よりも下の存在であることを意味する。それは屈辱であり、敬愛する父に切り捨てられるという恐怖を意味していた。
『や、やめろぉ! 我は、か、下等生物なんぞに負けるわけには行かないのだ!』
暴れ狂い、ありったけの魔力を込めてそこら中に風をまき散らすイタカ。その姿は最早、極限状態まで追い込まれた草食動物であり、それを攻撃する銀の姿は狩りをする肉食動物そのものだった。
銀は、ゆっくりと刀を持ち上げて体の前に構えた。
「すまないな。俺もお前みたいな雑魚に負けるわけには行かないんだ」
低い声でそうそっと宣言すると、銀の全身から再び炎が立ち上る。
「『火葬焔』」
『や、やめろぉ! 我は、我はまだ死にたくなぃッ!』
全てを焼き尽くす行ける炎、終わる命を見届ける黒き龍、改心し民の心を引き付けた英雄王。
その3体の力を集めた火の一太刀は、音も立てずに静かに巨神を焼き尽くす。
「ごめんけど、俺も死にたくないんだわ」
ゆっくりと燃え尽きていくその命を背に、銀は戦いの最前線へと向かっていった。
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