黒剣の魔王

ニムル

第23話/祖から今代への教授

 ソイヤッ!

 俺はジャンヌの取り出したもう一本の軍旗を持ち、ひたすらにクトゥルフが召喚を続けている『深きものども』を蹂躙していた。

「っしゃァ、やっぱ俺達のステージだ! って言って軍旗持って振ったからね、やっぱ次は大砲だよね!」

 よくわからない理論が展開されているけど多分これは特撮好きな人しかわからないネタだと思う。

「カモーンッヌ、東郷平八郎!」

『こんな戦争もどきの茶番に付き合えと? 笑わせてくれる。三秒で終わらせてやる』

「うんうん、そのいきだよとーごーさんっ!」

『ん?』

「とーごーさんっ!」

『……お前の記憶は共有しているから言わんとすることはわかるが、俺はあんな重火器を大量装備した勇者ではない』

「……ちっ、ノリわりぃな」

『ふ、二人とも喧嘩しないでくださいぃ!?』

 東郷は、はぁ、とため息をつくと右手を掲げて戦艦を呼び出した。失礼だよね、仮にも自分を呼び出したご主人様に対して。だからおっさん達は嫌いなのさ。

『『三笠』『浪速』』

 東郷が巨大な2戦艦を呼び出した。

『……お前如きと知識を共有していたら、まぁこうなるか』

「失礼だね、オッサンのことなんて歴史の授業でやった範囲くらいしか抑えてないよ。僕はあの某提督シュミレーションはやってないしね」

『言い訳がましいな。ただ知識がないだけだろう。今度誰かしらに享受してもらうといい』

「あんたら俺と知識共有してんだから対してIQ変わんねーよ」

『ま、まぁまぁ。落ち着いてくださいお二人とも。早くあいつら蹴散らしちゃいましょう?』

 ……ジャンヌさんごもっとも。

『水がないとこいつらは走らんぞ?』

「待ってそれ相手にも有利になるんだけど」

『お前が選択を誤ったせいだ。陸戦の時は大山を頼れとあれほど』

「いやー、大山さんにはなんか派手さが足りないかなー、なんて」


 存在を忘れていただけなんだけどね。

「俺一人だとこのフィールド水埋めできないし、もう一人呼ぶか」

『よばれずとびでてドドドドーン!』

「うん呼んでない。今から呼ぶとこなのは確かだったけどさ、なに? 神様クラスになると呼び出し関係なく出てくるの? ヘスティアたんもそうだったけど」

『縛りがゆるくなるだけだドン』

「何その語尾?」

『音ゲー、とか言うやつの登場人物だドン』

「うん、分かるけど、そんなことばっかりやってると俺らの存在が消されるからやめようか」

『という訳でポセイドンッちゃんだゾ!』

 はい、ギリシア系統は本当にめんどくさいです。ギリシアのオッサン達は本当にめんどくさいです。

『水で埋めればいいんだゾ?』

「……もういいや。うん、埋めて」

『……こやつは苦手だ』

『……私も反りが合わないというか』

 ……茶番のあいだにも深きものどもを二人が倒してくれていたので助かった。

『ほい、埋めたゾ!』

「あとは東郷さん蹂躙お願い。俺は本体とケリつけてくるから」

『……はぁ。お前のことも苦手だ』

「……俺もだよ」

『あのぉ、わ、私は……?』

「ちょっと一緒に本体のところに来て欲しいな」

『分かりました』

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 彼が召喚魔法を使えるだなんて聞いていないし、無詠唱だなんてありえない。

 遠征の時に見たことのない人形の魔物が大量にいたと聞いたが、まさか彼が召喚した彼らのことだったのではないだろうか?

 いくらでも呼び出せる事ができ一人一人があの強さなのであれば、僕に彼に勝つことは不可能。

 そもそもこれほどの力を持っていながらなぜすぐ決着をつけに来ない?

 ……確実に遊ばれているのか、それか怒りをかったか。

 こちらの行動があまりにも単調で、まるで自分のことを舐められているかのように思って腹を立てている、と考えるのが妥当だろうか。

 何度も味わってきたこの屈辱。他人のことを寂しくおうことしか出来ない、力を持たないものの定め……

 自分はもうそこから脱していると思い込んでいた。かつて歴代最弱と言われたこの僕が、神の血が薄くなった僕が強者であるという幻想を抱くことなど許されないのか……

『マスター、あなたは確かにれきだいの中では一番かみのちが薄いです。しかし、それが理由になりますか? ほんとうの強さはかみであるかどうかなのですか? 特殊であるかどうかなのですか?』

「綺麗事をほざいて勝てる相手じゃない。更に今後王国のメンツを立てるためには、彼らに上から頼み事をするのが一番だった。だから僕はこの場を選んだんだ」

『マスター、あきらめるのはまだ早いのではないですか?』

「遅すぎたんだよ、気づくのに。異界の加護を受ける彼らに簡単に勝とうとするのは愚策だった。ただ、今更ここで負けおおせるなら王国のメンツは消えてなくなるようなものだ」

『むつかしいことはよく分かりませんが、とにかくあの人にたのみ事をすればいいんですよね?』

「……あぁ、だが遅す……」

「何が遅いってぇ?」

「!?」

 目の前には、巨大な鉄機獣に乗って深きものどもを蹂躙しているはずの、ここにいるはずのない魔王の姿だった。

『ぼくが霧でつれてきましたよ! マスター!』

「そういうこった。霧の中まで中継魔法は届かない。俺に頼みがあるならさっさと言っちまえよ。受けるかどうかは聞いてから考える」

『ダゴンくん、ありがとうね』

「うん、まさかそっちから来てくれるとは思わなかったよ!」

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 ことは数分前まで遡る。

 深きものどもたちの攻撃を交わしながらクトゥルフのところを目指して水上を滑走ていると、一人の深きものどもがこちらに声をかけてきた。

『ダゴン様からの伝言です。

『すてーじちゅうおうで霧に閉じこもってます。すきを見てマスターをそちらにとばすので、マスターのお願いを聞いてあげてください』と。

では私はこれで』

 そう言うと深きものどもは水の中に消えてしまった。

「……こっちから行くか。中央だな?」

 元からクトゥルフの願いは聞いてやるつもりでいた。大方、王はこちらのことをメインで俺に大会に参加させたのだろう。

 さて、引きこもりチキンプレイ中のイケメンさんに一声かけてあげますかね。

 という訳で空を飛んで中央まで来た結果(ジャンヌたんは俺の腰に捕まってた。萌。)、病みクトゥルフを目撃したわけだ。

 ここで話は現在時間に戻る。

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「まぁな。お前の立場も考えた上での処置だよ。ご主人様に後で「なんで俺のことを吹き飛ばしたー!」とか怒られたらかなわないだろ?」

『マスターはそんな事しないもん!』

「それは置いといて。イケメンさん、あんたの願いは大罪? とか言うやつを倒すためにクトゥルフを呼び出すことだろ?」

「は、はぁ」

 話の展開が早すぎて呆気に取られてついてこれないか

「呼び出してやる。付与なんてやったことないからわからないが、俺の魔力を貸してお前のところに神降ろししてやる」

「!? ほ、本当に行っているのか!?」

「俺が嘘つくわけないだろ? 失礼だな」

 まぁ嘘くらいつくけどね☆

「早速始めるぞ。ったく、レベルと適正値が足りててよかったぜ。条件揃ってなきゃ俺でも呼び出せなかったよ」

「た、たのむ! 頼みます!」

「あー、わかったわかった。黙ってろ」

「ああ」

「ー、クトゥルフ召喚、召喚タイプ付与」

 詠唱をし、クトゥルフにクトゥルフを付与するように設定をする。こいつら紛らわしいな……

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『我を呼びしものは貴様か?』

「俺じゃねぇよ?」

「私にございます、初代」

『ほう、貴様が今代の国家戦略級魔導師か』

「はっ」

『この場はなんの催しだ? 騒々しい。ここから出るぞ。私と同じ海の獣神の気が近づいてきている。今代よ、貴様に力を与えてやろう』

「さすが意識がリンクしている状態。理解が早いな」

『ではここから出るぞ』

 そう言うとクトゥルフ2人はステージから消え、残ったのはダゴンたちと俺たちだった。

 まぁ戦っていた本人がいなくなったわけで、戦線放棄なわけで、クトゥルフはかなりの支持率(?)を落としたようだ。

 あのイケメンならすぐ回復させると思うけど。

 そしてあっさり優勝をしてしまった俺に、魔王国建国の権利を王が授与し、何事もなく大会は終わった。

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