黒剣の魔王

ニムル

第13話/宿命とケジメ

「貴様、何をしている?」

 2人の後ろに迫る影のその後ろに、刀を構えた男が立っている。

「な!? 貴様、元王国剣士『イチミヤ』か!?」

 影が慌てふためき、地面へと這いずり出てくる。

 素早い動きで地面へと飛び出したそれはこう名乗った。

「我が名はイストゥム・アルノーツェス。センシタリア王国の右大臣である!」

 その男が喋った音を聞き取り、姉ちゃんとの会話を途中で止めて洞窟の最終層へと転移。

 おい、イストゥム、うちの妹達に手出ししたら許さんぞ!

「って、一宮君の声がした時点でもう終わってるか」

 うん、ついた頃にはもう終わってた。こいつ弱すぎかよ。

 こいつが魔法を使えないようにこいつの手のひらにアンチ魔法陣を書いておく。

 そして、魔眼である可能性もあるので目隠しも忘れずに。

「一宮君、ありがとう。助かったよ」

「俺にとってもこいつは許せない相手だったから礼はいい。こいつは勇者と魔王が結んだ和平合意を裏切り、王に報告せずに魔王を攻撃させたクズだからな。その戦いで俺が世話になった先代も死んでしまった」

「こいつだけは許せなかったと……」

「他にもいるが、まぁ、そいつらはアルタイルが消してくれた」

「!? ハゲワシが?」

「ああ、あの人は先代の勇者の幼馴染みでな。王国のために尽力していたんだ。ただ、悪くないとはわかっていても、あの人のあのゴブリンへの恨みは消えないようだな……」

「スカコンティーのこと?」

「ああ。あいつは先の大戦でそこのクズに和平を持ち出し、その条件にクズは魔女の村に住む人間を全員殺すというものを出した。スカコンティーは和平のためにその村人を全員殺してゴブリンメイジの力で火葬した」

「……」

「だが、その村に住んでいた人の中にアルタイルの家族がいたんだ。そしてそこのクズは『家族がゴブリンに殺されてるぞ』ってアルタイルに報告しやがってな。状況証拠もすべて残っていてあいつがやったことは明確」

「……あいつ、ここのためにそんな汚れ仕事を」

「まぁ、和平の持ちかけ等はここであいつに聞いた事だがな」

「マジかよ、上のハゲワシを止めなくちゃいけないでしょ、それ!」

「あの人も多分もう知ってんだよ。それでも自分なりのケジメを付けたいんだよ、多分」

「そんなくだらん話はいいから私を話せっ! 私は王国の右大臣だぞ!? この程度のこと、人を数人処分すれば消えること。私がそんなことをしたという証拠はどこにある!? ないだろう? ないだろう!? フハハハハハ、見つけられないだろう? たしかにそれは私のやったことだが、貴様らが幾ら何を言おうと私に傷一つつけることは出来ん!」

「鎖国中心派でろくに国民のことも見てられない上にクズな大臣。そんなやつのいうことの方が誰も聞かねぇよ。猿轡さるぐつわつけて大人しくしてろ、うるせぇから」

「ごふっ、ぎっ、い、いあ''あ''ぁ!」

 鈍い吐瀉音と悲鳴が聞こえた後に、俺の魔法の岩がイストゥムの口に猿轡さるぐつわのように巻き付く。

「あの人は多分わかってても、一度恨んだ相手を憎まずにはいられない。それくらい真っ直ぐな人なんだ」

「要するに人の想いを踏みにじったコイツには制裁を。ってことだね」

「ああ」

「かぁっ!?」

 猿轡さるぐつわのせいで声にならない悲鳴しか挙げられないイストゥムを魚の池に放り込む。

 例のあの池だ。ゴブリンがやられたやつ。

 そのついでに猿轡さるぐつわを解除してやる。

「きっ、貴様っ! こんなことが許されると思っているのか!? 高々一魔族如きになにができる、貴様はこれから王国によって消されるのだ! フハハハハハ!」

 その時、姉ちゃんが上の階層から降りてきた。

「私が王国と魔王の和平を正式に結んできたよー、この会話も魔法で流しといたから」

「な!?」

「やっと自分の失言に気づいたか。猿轡さるぐつわは俺なりの優しさなんだぜ?」

「くっ、誰がそんなこと……があっ!? は、腹が魚に食い破られっ!?」

「あのままにしてたらお前はもっと暴露してたろ? まぁ、あとは牢屋で全て話せよ。勿論、お前が尽くしたとか言ってるな。あ、その魚に食われてる腹の部分、胃の中に魚は入れたままで無限再生魔法組んどいたから死ぬまでその苦痛は味わってくれよ?」

 これは実は一宮君からの兼ねてよりのお願いだった。

 勇者パーティは従者だけど一宮君は友人だからね。友人との約束はしっかり守るのさ。

「スカコンティーとハゲの戦いも終わったわよ」

「どうなった?」

「この会話の全てを聞いていたスカコンティーの全力の泣き土下座に気圧されて終わったわ......」

「......」

 案外しょうもない終わり方をしたな......なんかもう少しかっこいい終わり方なかったのか? いや、漢気が溢れてかっこよかったとかそんな感じなのか? 俺にはもうよくわからない......

 まぁ、詳しくはいずれスカコンティー達に聞こう。

 そんな事を考えながら、イストゥムを連れて一番上の階層まで歩く。

 なぜ歩くのかと言うと、まだ転移魔法の調整が効かず、自分ひとりなら場所の指定ができるが、他人を連れて転移できるほど上達できていないのである。

 そうしてイストゥムを王国軍の人達に引き渡す。

 捕虜として捕らえた人を解放することが和平の条件だったのでそちらも忘れずに。

 まぁ本当は半分とかにしたかったんだけど、姉ちゃんが「むさい男どもが増えてもねぇ......」とか言って捕虜を解放すると言ってしまったらしい......なんてことをしてくれるんだよ、全く。

 そうしてひと段落ついた一月後後、王国から早馬が届いた。因みに一宮君は二週間の間、王国経営の学園の臨時講師として先週から駆り出されている。

『王国と和平を結んだ軍として王国の誕生祭に参列してもらいたい。

そして鉱山資源の一部を分けて頂けると国の財政としてはありがたい。申し訳ないが当日に持ってきていただけないだろうか? 王国からの荷馬車は二日前からそちらに待機させておく。

先日いただいた資金のおかげで国は、イチミヤが言う所の『健康で文化的な最低限度の生活』とやらを国民全員が守れるほどに達した。これは自己的な解釈でなく、一宮に確認をとらせていただいた。

これを機に、更なる富国、そして街道等の整備をしていきたいと考えている。

魔物代表にスカコンティー氏も参列していただきたく思う。

国王
カノープス・リヴニプリス13世』

 この内容に王の名の刻印が押されている国書だ。これは行かないと和平を結んだ立場としてはまずいか......めんどくさいけど行くことにしよう。

 そう決めて王国の早馬に参列の返事を返した。

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