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ゼロ魔力の劣等種族

じんむ

第二十九話 和解

 目的はまだ分からないが、結界フラグは教頭によって破られ、結界を維持していた人教師やその他監視、警備にあたった教師たちは眠らされ、人によっては深手を負わされていた。学院長は学院長室で待機していたがいち早く異変を察知、迷わず影の部隊【シャドウ】を投下し、事態はなんとか収拾した。多くの生徒が既に脱落していたという事だけあり、生徒への被害は数件と少なかったが、予定されていた結果発表と表彰式は延期になり、学院は早速教頭の捜索に乗り出しているという。

 このことのすべてを生徒が知っているわけではない。混乱を招かないよう学院側が情報を規制しているらしい。生徒達には結界を張っている教師の不注意で結界の一部が崩れたと伝えられている。真実を知るのはその場に居合わせた俺とフラミィとエクレだけで、学院長からはくれぐれも口外しないように言われた。

 俺は部屋を出ると、オルニス寮前にある噴水広場に何を思うでもなく向かう。
 消灯時間ではないが、この時間から外に出る生徒などいないのかひっそりと静まり返っていた。
 噴水の飛沫が跳ね、揺れる水面を見れば、弥国でも見たことのある満月が煌々と夜空を照らしている。

「力を貸してくれ、ヒイラギ」

 一縷の望みをかけてヒイラギに呼び掛けてみるが、水鏡に映る自分の目の色に変化はない。
 俺は、またしてもヒイラギを守ることができなかったのか。

「クロヤ」

 ふと、俺の名を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、フラミィがこちらに歩いてきていた。

「どうした? まだ消灯時間には早いけど、かといって出歩く時間でもないだろ」
「まぁ、ちょっとな」

 しばらくお互い無言でいると、フラミィには珍しくどこか歯切れ悪く言葉を放った。

「その……なんだ。お前のあれ……碧眼って一体なんなんだ?」
「ああ……」

 まぁ別に隠すことでもないだろう。俺とヒイラギの関係や、能力の事、まだ弥国にいた時の事を話してやると、フラミィの表情に影が差す。

「……悪かった」
「なんでフラミィが謝る必要があるんだ?」
「俺ひでぇ事言ったろ。クロヤが天才だからさも努力もしてないように……」

 言われて、新人戦でしたフラミィとの話を思い出す。
 そういえば確かに言われてたような気がする。

「別に気にしてない。むしろ天才って言われて悪い気する奴いるのか?」
「それだけならいいかもしれないけどよ、俺が言ってたのは明らかな努力の否定だ」

 フラミィは申し訳なさそうに目を逸らす。
 確かに、とらえようによっちゃそうなるか。ただまぁ、あれは俺が力を変に使わなかったせいだし、そもそも他人からどう評されようと気にすること自体無意味だ。

「本当に気にするな。俺は何とも思ってない」
「それならいいけどさ……」

 しばしの沈黙が訪れるが、やがてフラミィがまっすぐな視線をこちらによこしてくる。

「こんな時で言うのもなんだけどよ、俺、やっぱケジメつけようと思うんだ」
「ケジメ?」
「エクレの事さ。正直に全部打ち明けて、その上でどうするか考える。確かに俺はずっと逃げてきたのは事実だ、でもエクレと仲良くいたいって気持ちにも偽りはねぇ」

 向けられた揺るぎない瞳に俺も失言していた事に気づく。

「俺こそ悪かった」
「は? クロヤこそなんで謝ってんだよ?」
「いや、エクレに嫌いになりたくない事を盾にして逃げてるみたいな事言っただろ。でも、エクレの事を思ってたのも事実なんだよな」

 あの時は、フラミィの気持ちなど一つも考慮せずに話していた。でも、こうして面と向かっているとやっぱりフラミィは友達思いの子なんだろうと確信した。

「へっ、別に俺だって気にしてねーよ。でもま、これでおあいこなわけだ」

 フラミィがにやりとすると、拳をこちらに突き出してきた。
 一体何だろうと眺めていると、フラミィがじれったそうに頭をかく。

「ほら早くお前も出せよ。俺の故郷に伝わる友情の挨拶だ」
「本当にそんなのがあるのか?」
「るせ、さっさと出しやがれ」

 強引に言ってくるので仕方なく俺も手を出すと、こつりと拳同士がぶつけられた。
 別段、何か特別な変化が起きたわけではないが、なぜか胸のあたりが少し暖かくなる。
 まぁ、こういうのもたまには悪くないか。
 ほんの少しだが滅入っていた気分が晴れると、少し先の木陰に人影を見つけた。
 本人はすぐに隠れたつもりだったかもしれないが、微妙に白銀の髪の毛を隠しきれてない。
 フラミィも存在に気付いたのか、白銀の尾を覗かせる木に向かって声を飛ばす。

「エクレだよな。出てきたらどうだ」

 まさか声をかけられると思ってなかったのか、髪のしっぽがぴくりと揺れる。
 ややあって、そろそろとエクレが木陰から顔を覗かせ遠慮がちに歩いてきた。

「俺、お前に言っとかなきゃならねー事があんだ」
「う、うん……」

 やはりあんな事があっては居心地が悪いんだろう。エクレの視線はフラミィに向かず下の方を向いている。

「エクレ、俺はたまにお前の強さがどうしても妬ましくなって悪く思う事がある」

 エクレもいい事を言われないのは予想していたのか、特に驚いた様子もなく悲しげに腕を抱き寄せ目を伏せるだけだ。

「でもよ、それ以上にエクレは俺の友達なんだ」

 エクレが顔を上げる。

「たまに俺はお前の強さにひがんじまうかもしれない、それでエクレが嫌な思いしちまう事もあるかもしれない。それでもよ、やっぱり俺からすりゃエクレは大事な友達なんだ」

 エクレの眼差しはまた伏せられるが、フラミィは続ける。

「勝手言ってんのは分かってる、でももしだ、もしもエクレが嫌じゃないっていうなら、許してくれるってんなら、俺はエクレを友達として、同時にライバルとして一緒にまたいさせてくれねーか?」

 フラミィは言い切ると、「もちろん断ってくれてもかまわねーけど……」と自信なさげに付け足す。
 エクレの顔は伏せられ、どういう顔をしているのか分からない。
 束の間の沈黙が訪れると、それを破るのはエクレの震えた小さな声だった。

「ばか……」
「え?」

 小さめだったからか、フラミィには聞き取れなかったらしい。

「もちろんいいに決まってる」

 エクレが顔を上げると、わずかに瞳は濡れているが、口元は微笑んでいた。
フラミィもまたほっとしたのか表情が柔らかくなると、おもむろに拳を差し出す。

「友情の挨拶だ」

 フラミィがにやりと笑うと、エクレもまた笑みを返し拳を突き出す。恐らく一度やったことがあるのだろう。

「あ、そうだ。どうせならクロヤもやろうぜ」

 これまた唐突な申し出だな。

「俺はさっきやったしいいだろ」
「こまけー事気にすんなって。男だろ?」
「いやでもな……」

 気恥ずかしさもあり、ここに俺が入ってもいいのかと気が咎めるのもあり渋っていると、エクレも口を開く。

「クロヤも」

 二人して言われて渋るのも忍びないか……。まぁ別に大したことじゃないからいいか。
 観念して俺も拳を出す。

「それじゃあ、これからもよろしくな」

 フラミィが言った瞬間だった。
 突如視界が銀色の砂嵐のようなものに覆われると、間を置かずして微かな痛みと共にどこかの光景が映し出される。
 新人戦の裏山よりも高い木が立ち並ぶ夜の空間に、いやらしい笑みを浮かべ、傍らにある何かの装置をいじりながらあの男、教頭が何かを見ている?

「どうしたクロヤ!?」

 ふと、誰かの焦燥交じりの声が聞こえた。
 同時に景色は元々いた噴水広場に戻っている。こちらを覗き込むフラミィがしゃがんでいることから俺は膝をついていたらしい。
 だけどそんな事はどうでもいい。

「なぁ、王都の近くに森とかあるか? 学院の裏山より大きい高木が立ち並んでいるような」

 恐らくあれはヒイラギの居場所だ。

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