ゼロ魔力の劣等種族

じんむ

第二十五話 エクレvsフラミィ、再び


『そろそろ新人戦も佳境を迎えつつあります、ここで最終経過発表です! 百七十名いた新入生も現在の残り人数は四十七名。一位はクロヤ・シラヌイで3、85キロ! 二位はフラミィ・エネルケイアで2、3キロ! 三位はエクレ・セルウィルで2、28キロ! 四位は……』

 アナウンスによって順位がつらつらと読まれる。
 流石はエクレとフラミィ、二位、三位とお互いの力は拮抗しているようだ。

鋭葉シャナフ!」

 どこからともなく鋭い葉が飛んでくるので、刀で弾く。
 まだ俺に挑もうという人間がいるのか……。およそ十秒後、俺の死角から飛び出してくる。
 どこに敵がいるのか九秒間じっとしていると、案の定あらかじめ予測された地点から敵が飛び出し、槍で突っ込んできた。

 すかさず振り向き、刺突を流すと、槍使いは勢い余って前のめりになる。
 がら空きの背中に不如帰を振り下ろすと、槍使いは倒れ伏した。
 腕輪を取ると、魔鉱石の残量はたった六十グラム。大よそ俺を倒し一発逆転を狙いに来たのだろう。
 まぁあんな事を言われたらそうせざるを得ないのは納得だ。

 およそ二時間ほど前だったか、中間発表を終えたアナウンスがこんな事を言いだした。
――――魔物は狩りつくされました。
 道理でエミリー先生が裏切りについて釘を刺したわけだ。
 これが意味する事は一つ、『ポイントを得るならPKプレイヤーキルしか無いぞ』という事。

 その時俺は一位のフラミィに続き二位だった。
 それが不幸の始まりだ。俺が魔法を使えない弥国人だという事は知っているのか、ひっきりなしに俺を潰そうと人が襲ってくるようになったのだ。
 一応ここまで全て凌いできたので、おかげでダントツの一位となった。だが終始ヒイラギの力を使わなくてはならない上に連戦続きで、流石に体力が厳しくなってくる。

 勝ち続け、しばらくしてからマシにはなってきたものの、今みたいに奇襲をかけられる事もままある。さっきのは体術を仕掛けてきたからよかったものの、影から魔法を放たれ続けたらヒイラギの眼をもってしても躱しきれるか分からない。

「はぁ……」

 思わずため息が零れるが、あまりゆっくりとしていられない。
 そろそろ例の場所に行く時間だ。
 周囲を警戒し敵がいない事を確認すると、あらかじめフラミィに伝えた場所へと向かった。


 ♢ ♢ ♢


 待ち合わせ場所へ行くと、既にフラミィは来ているようだった。
 俺は悟られないよう音を立てないで移動する体術、無風之歩むふうのあゆみで木の陰に近づき、身を隠す。

「ったく、クロヤの奴遅くねーか?」

 ふと、フラミィの欠伸交じりの声が聞こえる。とりあえず俺の存在は悟られていないらしいので安心した。
 見つからないのよう細心の注意を払い覗き込むと、フラミィは芝の上で伸びをしていた。

 エクレとフラミィの戦い。俺としてはエクレが勝つと信じたいところだが、フラミィは強い。エクレによれば魔法ならフラミィにも対抗できたとは言っていたが、二人が離別してから幾らか年月は経っている。フラミィが当時より段違いに成長している可能性だってあるのだ。

 魔法についてはよく分からないが、俺との戦いの時、あれだけの炎を時間をかけずに発動できたフラミィはやっぱりすごいんじゃないかと思う。
 まぁ俺が悩んでも仕方が無い。戦うのはエクレだ。

 それに一週間前と今じゃ、エクレの剣術は段違いにレベルアップしているのは俺が一番よく知っている。新人戦の前日に至っては攻めの剣術、劫火之備ごうかのそなえの七割を攻略していた。あともう一週間あればエクレに劫火之備は完全に見切られ通用しなくなったかもしれない。
 これは常人にはあり得ない事。この一週間はまさに、エクレがどれほどの天才なのか思い知らされる一週間だった。
 まぁそれはさておいても、とにかく、今のエクレならフラミィに接近戦を仕掛けられても対抗できるはずだ。

 ここ一週間の出来事を思い出していると、不意に視界を閃光によって遮られた。
 見れば、芝生の一部が焦げ、フラミィの位置が後方へ飛躍している。

「随分な挨拶じゃねーか」

 薄ら笑いで言うフラミィに対峙するのは、白銀の髪を一つに結わえた少女。

「フラミィ、私と戦って」

 エクレだった。恐らく先ほどの閃光はエクレによる遠距離魔法によるものだろう。
 白銀の西洋剣サーベルの切っ先がフラミィへと向けられた。

「……確かエクレは三位だったっけか。なるほど、二位の俺に対して挑んでくるのは理には叶ってる」

 だが、とフラミィが挑戦的な笑みを浮かべる。

「おめぇが俺に勝てんのか?」

 フラミィが言うと、エクレの瞳が少し揺れる。

「模擬戦の時も負けたもんなぁ? 言っとくが、俺はまだ本気じゃなかったぜ? にも拘わらずエクレは敗北したのさ」

 エクレの視線が地面に向く。
 まさか戦意喪失したわけじゃないだろうな? フラミィもフラミィでエクレと戦いたくないのだろうか、好戦的なはずだがどことなく戦いを避けようとしているきらいがある。あるいは俺の気のせいか?
 違和感を抱いていると、エクレが小さくもはっきりとした声で言う。

「やっぱり、フラミィは私があまりに弱かったから嫌になった。きっと昔から無理して私を守ってくれてたんだと思う。それでいていつまでも成長しないから愛想をつかすのも無理ない」

 エクレの言葉に、フラミィは口を開きかけるが、押し黙る。
 きっとエクレが顔を上げ、力強い眼でエクレを見据えたからだろう。

「でも、私は昔とは違う。勝って、フラミィの友達に相応しくなったって証明する」

 エクレが剣を構えると、フラミィは視線をわずかに落とす。
 だが、フラミィはやがてダガーを顕現させると、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。

「いつか、こういう日が来るんじゃないかって思ってたよ……」

 一体何を思ってフラミィはそんな事を言ったのだろうか。
 しかし俺が答えを導く前に、一対の刃と一振りの刃が激突し、火花を散らした。



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