『愛してるゲーム』に負けたらキスするなんて先輩のバカ!

みりん

11 もう一生、先輩には敵わない気がします。

 タクシーが帝国ホテルに着く。3時2分! 信号に引っかかっちゃったせいだ。焦りでお金を払うのももどかしく、運転手さんに叫ぶようにお礼を言うと、あたしはダッシュで正面入り口からメインロビーに駆け込む。ランデブーラウンジは向かって左側にあった。

 落ち着いてて、かつ華やかなラウンジの雰囲気に圧倒される。そこにいる人達は皆スーツやワンピースにジャケットという出で立ちで、部屋着のデニムとTシャツ、すっぴんのまま汗だくの自分とは、世界が違うみたい。

 でも、今はそれどころじゃない。

 奏多先輩はどこ――!?

 外聞もなくキョロキョロと辺りを見回して、やっと奏多先輩を見つけた。金髪だから、遠くからでもすぐわかる。

「奏多先輩!」

 あたしは、急いで駆け寄った。

 すると、奏多先輩は驚いて目を見開いた。

「――梨花!? お前、なんでこんなところに」

 奏多先輩の横には、同じく驚いて固まっている気の弱そうなおじさんが座っていた。きっと奏多先輩のお父さんだ。だって奏多先輩に似て美形だもん。その対面には、白のワンピースを着た竜崎茜さんとたぶんそのお父さんが座っている。竜崎さんのお父さんはオールバックで強面だ。美形の茜さんと似てるところは、つり目なところくらいだろうか。竜崎さん達も驚いてあたしの顔をまじまじと見ている。

 足が震えて来た。けど、ここまで来たら、もう後には引けない。あたしは、ポーチからごそごそと宝くじを取り出すと、皆に見えるように突きつけた。叫ぶ。

「こ、ここに3億円あります! だから、このお見合いはなしにしてください!」

 あっけにとられて、ポカンとしている四人に向かって、あたしはなおも言い募る。

「あたし、宝くじに当たったんです! だから、あたしだって3億円用意できます! 奏多先輩の会社の借金をこれで返済してください! そしたら、奏多先輩は竜崎さんと婚約しなくてすみます! このお見合い、なしに出来ます!」

「はあ!? なんてこと言いますのっ!? この婚約はもう決定事項、今更そんな訳のわからないこと言われても貴方には関係のないことですわ! それに、本当にその宝くじとやらは本物ですの!?」

 竜崎茜さんは、あたしの手から当たりくじを奪うと、くじを調べ始めた。

 さあ、いくらでも調べなさいよ。本物なんだからね!

 しかし、竜崎茜さんは当たりくじを見たとたん、にたりと勝ち誇ったように笑った。

「あーら、このくじ、去年のものじゃありませんか! ほら、ここ。ご覧になって。日付も読めないおバカさんは早々にお引取りになって下さらない!?」

 そんなはずは!

 あたしは突き返された当たりくじを受け取って、慌てて日付を確認する。本当だ。確かに去年の日付になってる!

 そこで、思い出す。今年はまだファイリングせずに財布の中に入れたままだったこと。フォルダの一番後ろに入れてたから無条件で今年のものだと勘違いしてしまったのだ。

 そんな――!

 あたしは、その場にへたり込む。

「奏多様もこんな愚かな子、いい加減愛想がつきましたわね。ねえ、奏多様――奏多様!?」

 竜崎茜さんが奏多先輩を見やった時、奏多先輩はお腹を抱えて俯いていた。小刻みに震えている。かと思うと、盛大に笑い始めた。笑いすぎてむせてしまい、慌ててレモンの浮かんだアイスティーを飲むと、それでもまだ笑っている。

「奏多先輩?」

「あ――っかしい。涙出るわ。やっぱ、梨花には敵わないな!」

 ひとしきり笑って涙を拭った後、奏多先輩は真面目な顔をして竜崎さんのお父さんに向かい合った。

「すみません。この婚約は、なかったことにして下さい」

「なっ!? 奏多様まで何をおっしゃっているのです!」

 竜崎茜さんがヒステリックに叫ぶ。しかし、奏多先輩は動じない。

「実は、借金返済の目処がつきまして。僕が趣味でやってる株でようやくまとまった資金が貯まりました。ですので、融資の件もお断りさせて頂きます」

「そんな!?」

 茜さんが叫ぶ。茜さんのお父さんはむっつりと黙ったままだ。そして、先輩はダメ押しとばかりに、はっきりと宣言した。

「それに俺、今日ここにTシャツすっぴんで駆けつけてくれた梨花のことを愛しているんです! だから、申し訳ないけど、茜さんとは結婚出来ません!」

 そう言って、頭を下げた奏多先輩。

 え? いま、なんて言ったの? 聞き間違いじゃないよね!?

 あたしは、急に身体中の血液が沸騰したかのように熱くなってしまった。

「茜、だから、悪いけどこれで別れよう。今までお前のわがままで付き合ってきたけど、もうそんな義理もないし。元気でなっ」

 先輩は一方的に言うと、有無を言わさない爽やかな笑顔のまま立ち上がる。

「オヤジ、後は頼んだぜ。梨花、逃げるぞ!」

 え、え、え?

 奏多先輩があたしの手を掴んで走り出した。あたしは混乱したまま、ヒステリックに叫ぶ茜さんと黙ったままのそのお父さん、そして困った顔の奏多先輩のお父さんを残して、その場を後にした。

。 。・゜♡゜・。 。・゜♡゜・。 。

 奏多先輩とあたしは、帝国ホテルの横にある日比谷公園まで走った。大噴水の前まで来てやっと先輩は掴んでいた手を離してくれた。

 奏多先輩は、あたしの息が整うまでしばらく待ってくれる。

 あたしは、息が整う間、ちらちらと奏多先輩を盗み見ては、ときめいていた。スーツ姿の奏多先輩、初めて見る。金髪だから、若干ホストっぽいけど、でもカッコイイ。

「あの、よかったんですか?」

 あたしが恐る恐る問いかけると、奏多先輩は首をかしげた。

「何が?」

「だって、抜け出して来ちゃったから」

 答えると、奏多先輩は、そんなこと、と笑った。

「いいんだよ。オヤジには出る前にしっかり言い含めてあるから。面倒な事後処理くらいやってもらわないと。腐っても社長だからな、なんとかするだろ」

 そうなのかもしれない。

「でも、あたしびっくりしましたよ。先輩、株なんかやってたんですね」

「ああ、株ね。最近始めたんだよ。というか、株を始めたのは本当だけど、実際増やしたのは俺じゃないから」

 あたしが首を傾げると、先輩はいたずらっぽく笑った。

「田中さんっていう凄腕のトレーダーに頼んだんだ。元金は俺の貯金、全財産200万で、それを2ヶ月で3億にしてもらったんだ。ステゴザウルスみたいな、イカついモヒカンの男なんだけど、見た目に反して東大出で頭がキレるんだ」

 ステゴサウルスみたいなモヒカンって、どこかで聞いたことある……。ああ! 瞳ちゃんがマッシュルームパーティーの前で先輩と一緒にいるところを見たっていう人だ! まさか、株のトレーダーさんだったなんて、絶対想像出来ないよ。奏多先輩、社会人との人脈作る系のイベサーとかにもよく顔を出してるのは知ってたけど、こんな人脈持ってるなんて、しかもお願いを聞いてもらえるほど親しい間柄なんて、やっぱり先輩ってすごい。

 あたしが感心しすぎて開いた口が塞がらないでいると、先輩は急に、にやにやと笑い始めた。どきり。久しぶりに見るこの顔は――奏多先輩があたしへのいじわるを思いついた時の顔だ。

「そういやさ、さっき、お前照れたよな?」

「え?」

「俺が愛してます! って告ったとき」

 にやにやした顔で先輩はあたしの顔を覗き込んでくる。

「な! だって! それは照れますよ! あんな公衆の面前で――」

 あんな、堂々と、あ、愛してますなんて――。そんなの照れるに決まってるじゃん!

「照れたらどうするんだっけ?」

 あたしは、耳が熱くなったことで、赤面症が発動したことを悟った。奏多先輩が、本当に楽しそうで困る。これ、答えなくちゃダメ?

「――――ほっぺにちゅう……」

 消え入るような声で答えると、奏多先輩は急に真面目な顔になって首をかしげた。

「嫌か?」

 瞳を見つめられて。そんなの、こんなの、反則です。あたしの気持ち、知ってるくせに。ずるいです。でも、先輩はあたしが答えるのを待っている。うう。

「嫌じゃ、ない。ですけど……」

「じゃ、目閉じて」

 言われてしまって、あたしはその声に心臓が握りつぶされそうにどきどきした。思わず目を閉じる。

 肩に手が置かれる。

 あたしは、その時を待った。

 ん?

 唇から、柔らかい感触が離れる。

 あたしは驚いて目を見開くと、奏多先輩の満面の笑みと出会った。

「い、いま、く、口に! 口にした!」

 奏多先輩はぺろりと唇を舐めると、爽やかに笑った。

「ごちそうさま。だって、俺たち両思いだろ?」

「~~~~っ! 心の準備がまだでした! 先輩のバカ!」

 もう一生、先輩には敵わない気がします。


♡おしまい♡

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