『愛してるゲーム』に負けたらキスするなんて先輩のバカ!

みりん

10 日曜日は、あっという間にやって来た。

 日曜日は、あっという間にやって来た。

 あの後、一樹部長から心配するメールと着信がたくさん来ていることに気付いて、その流れでいろいろ話したら、お見合いのことについても色々教えてくれた。帝国ホテルのランデブーラウンジで3時から、らしい。お見合いと言っても、竜崎さんと奏多先輩はもう付き合ってるから、婚約の念押しが目的の両家の顔合わせらしい。

 あたしは、自分の部屋のベッドにごろんと横になって天井を仰いだ。

 ちょうどその時、階下からお母さんの声が届く。

「梨花―? お昼ご飯出来たわよー! おそうめん! 早く降りてこないと先に食べちゃうわよー!」

「いらなーい!」

 大声で叫ぶと、なんか文句言う声が聞こえてきたけど、無視する。ほんと、こういう時のん気なお母さんの声聞くとイライラするよね。あの人、なんにも悩みなさそうで。あたしがこんな思いしてるなんて、想像も出来ないだろうな。相談したところで、3億なんてうちにあるはずもなく、奏多先輩を助け出すことは出来ない。

 そう、あたしにはどうすることも出来ない。

 それは分かってる。

 けど、だからと言って、奏多先輩を諦めることもできなくて、だからこうして泣いているのだ。

 あたしは盛大に鼻をかんで、くずかごに投げ捨てた。けど、丸めたティッシュは見事的を外し、床に転がる。もうっ! 仕方がないから立ち上がり、ゴミをゴミ箱に捨てた。このくだり、何度やったことか。奏多先輩にフラれてからは、毎週、毎日のようにやっている。

 せっかく起き上がったんだから、とあたしはノートパソコンを準備し、勉強机に座った。ワードを開いて、USBメモリーから書きかけの小説を呼び出す。

 せっかく先輩とプラネタリウムに取材まで行った前作は、フラれて泣きながら書いたせいで、幸せな主人公の感情がまったく伝わってこないと酷評を受けた。

 だから、今回はリベンジで、やっぱりハッピーエンドの恋物語を書こうと思っているんだ。けど、なかなかプロットがまとまらない。

 現代ものにしちゃうと、いまの自分の気持ちが投影されすぎてしまいそうだから、中世ヨーロッパの架空の国が舞台のお姫様と騎士の恋物語にしようかなと思ったんだけど、考えていくうちにお姫様の政略結婚が決まってしまい、あたしのやる気ゲージが底まで擦り切れてしまった。

 なんでそうなっちゃうかな、あたしの発想。

 お姫様って、奏多先輩のこと!?

 違うよ。そんなつもりじゃなかったのに。でも、小説の中でくらい、お姫様を助けたい。どうしたら、お姫様を助けられるだろう。ライバルであるお姫様の政略結婚の相手は、隣国の王子様で、お姫様と騎士の国を乗っ取ろうと企んでいる。騎士がお姫様と結ばれるには、隣の国と戦争に勝ってお姫様を取り返すしかないよね。きっと騎士は、勇敢に戦うと思う。主人公だから、無双できるくらい強いに決まってる。だけど隣国の王子も負けてはいなくて、呪いをかけて姫から騎士の記憶をなくしてしまう。だけど、最後は騎士の愛の力が勝って、お姫様と騎士は結ばれ、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

 どうかな。童話みたいになっちゃった。

 まあいいや、締切もあるし、これで書いてみよう。

 ……あたしも、この騎士みたいに、無双できるくらい強かったら、竜崎さんに勝って先輩を助け出すことができるのかな。

 あたしが、この現実世界で無双するって、どういうことだろう。モテるってことかな? でも、スタイルも顔も竜崎さんに負けてると思う。あたしは、おもむろに自分の胸に両手を重ねてみる。なんの膨らみも感じない。そのくせ、ブラの感触だけはしっかり伝わってきた。うう。分かってはいたけどっ。

 ていうか、そうじゃないよね! じゃあ、お金? お金持ちは無双できそうだなー。竜崎さんはお金持ちだ。3億もの融資ができるなんて、只者じゃない。3億、3億かあ。サラリーマンの生涯賃金が2,7億円だったっけ。あたしには一生縁がないやあ。

 現実世界で無双するなんて、無理だよ。

 あたし、何にも戦えないまま、負けちゃってる。そして、それを覆すことなんて、出来ないんだ。

 せめて、小説の中だけでも、騎士とお姫様を幸せに……。だめだあ。画面がぼやけて手が止まってしまっている。書けない。

 あたしは諦めて、ノートパソコンの電源を落とした。

 1階に降りて、リビングのソファに座り、テレビのリモコンをいじる。二時間もののミステリーの再放送がやっていたので、それでも見ようかな。今は恋愛のことなんて考えたくない。もう2時かあ。あと1時間でお見合いが始まる……。じゃなくて、考えないようにしないと。

 あたしは、テレビに集中しようと努めた。

 ちょうど、被害者の遺体を発見したところから見れたから、話も最後まで分かりそう。ぼーっと画面を見ていたら、お母さんも隣に座って見始めた。

「梨花がミステリー特番見るなんて、珍しいわねえ。小説は書かなくていいの?」

「うるさいなあ! たまにはいいでしょ!」

 イライラしてきつく言うと、お母さんはびっくりしたように首をすくめた。

「あら怖い。イライラしてると肌によくないわよ。って、梨花、どうしたの?」

 お母さんが何か言ってるけど、あたしは思わず立ち上がり、テレビ画面を食い入るように見つめていた。

『ロト7、10億円! なんで買わなかったんだー!』

 テレビ画面の中で、俳優さんが泣いている。

「梨花? ロト? 宝くじ見てるの? 当たったらお母さんはハワイ旅行に行きたいわ――て、梨花!?」

 お母さんが呼び止めるのも聞かず、あたしは急いで階段を上がり、自室へ飛び込むと、引き出しの中を探った。

 あたしは、1冊のバインダーを開くと、クリアポケットのページをめくり、一番最後のページからチケットを取り出す。

 あった!

 サマービッグ! 1等は確か5億円!

 毎年宝くじを買ってはこうしてファイリングして大切に保存している。あたしの密かな趣味。

 急いでスマフォを起動して、当選番号を確認する。忘れてた。今年もちゃんと買ってたことも。当選番号確認することも!

 番号を確認する。

 いきなり1等を確認した。

 127694。

 127694!

 6桁の番号が、合ってる――!?

 あたしは腰を抜かして、ベッドに座り込んだ。

「当たった! 5億! 当たった!」

 あたしは時計を見る。まだ2時半。

 最寄駅まで自転車こげば5分。東京駅まではJRの快速線に乗れば20分強。そこから帝国ホテルまではタクシーで5分。30分もあればお見合い会場に着ける。間に合う!

 あたしは当選クジをポーチに突っ込むと、財布とスマフォだけ持って家を飛び出した。自転車に乗って駅までの道を急ぐ。

 間に合う! 間に合うんだ!

 奏多先輩を助けられる!

 迷いなんてなかった。

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