『愛してるゲーム』に負けたらキスするなんて先輩のバカ!

みりん

8 連れて行ってあげるから、勝手に行動しちゃダメだよ?

「政略結婚!?」

 あたし、瑠美ちゃん、瞳ちゃんの三人が驚いて一樹部長の顔を凝視すると、一樹部長はうんと頷いて話し始めた。

「実はあいつのオヤジさんの会社が倒産しそうで。詳しくは教えてくれなかったけど、不動産賃貸業をしているらしいんだ。それで、とにかく三億の借金が出来たらしい。どこの銀行も貸してくれない中、その三億円の融資をしてくれたのが、竜崎さん家の会社らしいんだ」

 え? え? 借金?

 突然始まった一樹部長の話しに頭がついて行かない。

「で、その三億の融資の条件が、奏多との婚約だったんだよ。でも、本当はあいつ、梨花ちゃんのことずっと好きだったんだ。映画へ行く時も、プラネタリウムが決まった時も、僕がどれだけノロケを聞かされたことか。だから、絶対に梨花ちゃんをもてあそぼうとした訳じゃないからね。だから、許してやって。あと、出来れば、もう会わないとかも言わないであげて」

 申し訳なさそうにそう言った一樹先輩の言葉が何度も頭の中で繰り返される。

 でも、本当はあいつ、梨花ちゃんのこと好きだったんだ。

 奏多先輩が、あたしのこと好きだった? 本当に? じゃあ、からかってた訳じゃなかったの?

「ない! ないわー! 借金男なんて、余計にない!」

 瑠美ちゃんと瞳ちゃんが何か言ってるのも全然耳に入らなかった。他の部員達も次々とやって来て、今日の部会が始まっても、あたしはいつにもまして、上の空のまま――奏多先輩のことばかり考えていた。

 なんだか、もやもやする。

 奏多先輩から、直接本当のこと、知りたい!

 あたしはいても立ってもいられなくなって、部会の休憩中、瑠美ちゃんと瞳ちゃんがお手洗いに行ってる間に、一樹部長にこっそりと尋ねた。

「あの、今日この後、奏多先輩がどこにいるか分かりますか?」

 一樹先輩は、驚いた顔で答える。

「会いにいく気!? 無理だよ。梨花ちゃんは知らないだろうけど、あいつ渋谷にあるマッシュルームパーティーってヤバいクラブでバーテンのバイトしてるんだ。時給がいいから少しでも借金の返済に充てたいって。危険だから、絶対女の子一人で行っちゃダメだよ!?」

「そうですか……。ありがとうございます!」

 一樹部長に頭を下げて、あたしは部会が終わったらさっそく行こうと心に決める。席に戻ろうとすると、一樹部長に引き止められた。

「待って、梨花ちゃん! 行くんだったら、僕も一緒に行くよ!」

 あたしは、驚いて一樹部長を振り返る。

「ごめん。変なこと言った僕のせいだ。そのせいで梨花ちゃんに何かあったら、僕が奏多と瑠美ちゃん、瞳ちゃんに殺されちゃうよ。……いや、僕自身も、梨花ちゃんが心配だ。連れて行ってあげるから、勝手に行動しちゃダメだよ?」

 そんなのご迷惑になります。って、断ろうと思ったけど、出来なかった。正直、クラブにすら行ったことのないあたしは、マッシュルームパーティーに行くのが怖かったみたい。

「――はい。ありがとうございます」

 結局あたしは、一樹部長の優しさに甘えることにして、なんとかその日の部会を乗り切った。

♡ ♡ ♡

 ハチ公口から道玄坂方面に向かったクラブ密集地から少し外れたところに、奏多先輩がバイトしているというマッシュルームパーティーはあった。

 一樹部長に案内されてネオンの光る店内に入ると、爆音のBGMが流れていて、すぐ横にいる一樹部長の声も聞き取れないほどだ。人もすごく多い。このクラブは1000人収容できるらしい。客層は20代中心だけど、一応18歳から入場可なんだって。あたしは誕生日が4月で良かった。ギリギリで入れないところだったよ。

「梨花ちゃん! まずは、ロッカーに荷物を預けるよ!」

「はいー? 聞こえませーん!」

 一樹部長は、諦めたのか、手招きをしてあたしを奥の方へ案内した。そこにはたくさんのロッカーが並んでいて、人が押し合いへし合いロッカーに荷物をギュウギュウに詰めている。どのロッカーも鍵が閉まっていたけど、足元になんとか一つだけ空いてるロッカーが見つかったので、そこに荷物を詰め込む。今が夏休みでよかった。講義のノートとかを持ち歩いていたら、絶対ロッカーに入りきらなかったよ。

 なんとか荷物を詰め終え立ち上がる。あれ? 一樹部長はどこ? 見当たらないので、仕方なくロッカールームから出る。しかし、薄暗い上に人が多すぎて、一樹部長の姿が見当たらない。げ。はぐれちゃった!?

 売り子のへそ出しお姉さんから女性は無料だと言うジュースをもらい、あたしは辺りを見回す。バンバン鳴るBGMがお腹に響くなあ。すごい。よーく聞くと、実は知ってる曲だ、これ。人気の曲をクラブ用にアレンジしてあるんだね。お客さんも皆飛んだり跳ねたり踊ってる。DJの人もすごいし、舞台みたいに一段高くなってるところでは、プロのダンサーらしき人もすごいダンスを披露してる。

 音楽とダンスに合わせて、スモークがたかれたり、ストロボライトが回転し、刻一刻と色を変えるレーザー光線が辺りを照らす。

 ここがクラブ! 初めて来たけど、確かにここは楽しいかも。ハマる子の気持ちも分かる。でも、今日あたしはクラブを楽しみに来たんじゃなくて、奏多先輩に会いに来たんだ。会って、奏多先輩と少しでいいから話しがしたい。

 思ったよりもうるさいから、こんなとこでちゃんと話しが出来るかとか、全然考えてなかったけど……。でも、せめてひと目だけでも会って……とにかく、会いたいよ。

 あたしは、もらったジュースを一気にあおると、ビンを持ったまま、ダンスフロアへと足を踏み入れた。奏多先輩のいるであろうバーカウンターは、ロッカーと真反対のフロアを横切ったところにあるからだ。

「――はれ?」

 あたしは、足がもつれて、思わず近くにいた人に掴まってしまう。

「すみませんっ!」

 慌てて謝ると、その男の人は茶髪で人懐こい笑みを浮かべ、あたしの背中をなでた。っわ。自分で掴まっておきながら、そっちに触られるのはなんかやだな。

「いいよいいよ。大丈夫―!? きみー! もしかして、酔っちゃったー!?」

 耳元で大声で叫ばれて、なんとか声を聞き取れたけど、この人、何言ってるの? お酒も飲んでないのに、酔っ払う訳ないじゃない。

「っきゃ!」

 人並みにぶつかって、よろけて茶髪のお兄さんの胸に顔から突っ込んでしまった。

「わー、足がくがくじゃーん。お水もらいに行こっかー!」

 耳元で叫ばれて、あたしはなんとか頷いた。お兄さんに支えてもらって、なんとかバーカウンターの方へとたどり着くけど、椅子なんてないからバーカウンターにもたれる。

 奏多先輩っ。

 でも、見回しても、知らない黒髪のお兄さんがいるだけだ。

「いまー! お水もらってあげたからねー!」

 茶髪のお兄さんは、相変わらず耳元で叫ぶ。顔近いよー。音がうるさいから仕方ないけどさー! あと、背中をがっちり抱えられて、なんだか、抱きしめられているみたい。人が多すぎるから、くっついちゃうのも仕方ないかもしれない。けど、いやだ。なんだか頭もクラクラして来たし、怖い。怖くなって来た。どうしよう。こんなところで、知らない人にこんなにくっつかれて、一樹部長とははぐれちゃうし、奏多先輩もいないし、あたし、何してるんだろう!

 とりあえず、この人から離れたい!

「あの、もう大丈夫ですからっ!」

 あたしが茶髪のお兄さんの胸を押すと、お兄さんはものすごい力で抱きしめてきて、それどころか、お尻を触って来た!

「やっ! 何するんですか!?」

「えー? なんてー? 聞こえないよー? もうすぐお水来るから、じっとしてようねー!」

 お兄さんは、耳元でわざとらしく叫びながら、お尻を触るのをやめてくれない。

 いやだ! 誰か、助けて! 怖い!

「お客様、嫌がってるじゃないですか。やめて下さい」

 その時、聞き覚えのある低い声が聞こえて、あたしは声のした方を見た。

「奏多先輩っ!」

 茶髪のお兄さんは、奏多先輩に腕をねじり上げられたのと、あたしが奏多先輩と顔見知りだということを察して、舌打ちをしながら去っていった。

 あたしは、あまりにもほっとして、足元から崩れ落ちる。

「梨花!」

 奏多先輩が駆け寄ってくれて、あたしと目があった。

 金髪で、長めのさらさらとした前髪。同じく染めたと言ってた金の眉、少し色素の薄い黒の瞳。少し大きめの薄い唇。ああ、奏多先輩だあ。

「梨花、お前、こんなところで何やってるんだよ。しかも、お前、まさか酔ってる!?」

 奏多先輩、奏多先輩、奏多先輩!

 すきですっ!

 あたしは、思わず、膝をつく奏多先輩に抱きついた。

「すきです、奏多先輩! 忘れようとしたけど、やっぱり、あたし――」

 そこまで言うのがやっとだった。あたしの意識は、そこで途切れた。

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