『愛してるゲーム』に負けたらキスするなんて先輩のバカ!

みりん

4 先輩がいつもと違うから、余計にどきどきしちゃって困ります。

 いよいよ、取材の当日を迎えて、待ち合わせ場所の改札前で待つあたしの心臓はさっきから早鐘のようにどきどきとしている。

 今日は、瑠美ちゃんと瞳ちゃんに選んでもらった小花柄のワンピースにクーラーの冷え予防のカーディガンにヒールというコーデにしてきた。瑠美ちゃん曰く、あたしみたいに背が低い子は、大柄のお花がどーんとのっているような服よりも、小花柄の方が良いんだって。おまけにこのワンピース、胸の下の辺りに切り替えがついているから、ウエストマークが高い位置になって、それも脚長効果があってスタイル良く見えるらしい。

 あと、瞳ちゃん曰くデートではスカートはミニが絶対条件らしい。皆、洋服ひとつ選ぶだけでこんなに戦略を練ってたんだね。知らなかった。

 とにかく、だから服はバッチリのはず。心配になって来て、あたしはバッグから手鏡を取り出す。うん。大丈夫。お化粧もOK。パンダにもなってないし、汗でよれてもない。

 髪型も、大丈夫なはず。ぼさぼさだった髪を結構バッサリいったから、うなじの辺りがすーすーして、緊張するけど、「お客さん、本田すずになりましたよー。可愛いですー」って言葉ももらったし。その言葉を信じよう。

 あたしは、そわそわしながらスマフォのボタンを押す。待ち受け画面が光って、時間が表示される。1時55分。待ち合わせの5分前になったみたい。もう、あたし早く来すぎだし。……あ、瑠美ちゃんと瞳ちゃんからLINE来てる。

「がんば(≧∇≦)/♡♡♡」
「帰ったら報告よろ\(^o^)/」

 えっと、「うん(>_<)ドキドキ」「りょ∩`・◇・」ハイッ!!」と。返事を打って送信ボタンを押したところで、人が近づく気配がしたので、あたしは顔を上げた。

「ごめん、待った?」

 そう言ったのはさらさらの金髪で、ネイビーの七分袖シャツにボーダーのTシャツをインして、真っ白のスキニージーンズを履きこなした背の高いイケメン。

「奏多先輩!」

 やっぱり、カッコいいよう。きゅんとするあたし。なんたって、会うのはあの映画の日以来二週間ぶりなのだ。先輩は一緒にとってる日本文学の講義を休んでたから。だから、よけいに会えて嬉しくなってしまう。

「いいえ。今来たところです」

 あたしはそう言ったけど、実は30分前に着いてました。あー、なんかこのやり取り、デートみたいじゃない? きゃー! デートだって。これは心優しい先輩が、小説の取材に付き合ってくれているだけで、あくまで取材なんだからね。まあ、でも取材が終わったら告白はする訳だけど。

「そっか。なら良かった。まだ開演までには時間あるけど、そろそろ行こっか」

 先輩は腕時計を見ながらそう言うと、すたすたと歩き出してしまった。

 あれ?

 先輩、何も言ってくれないの?

 あたし、こんなに露骨におしゃれして来たのに! メガネやめただけでもびっくりじゃない? 瑠美ちゃんや瞳ちゃんなんか、初めてコンタクトつけてきた日、最初あたしに気付いてくれなかったくらい驚いてくれたのに!

 男の人って、彼女が髪切っても気づかないってよく聞くけど、さすがにメガネの有無くらい認識してると思ってた。……あたしの格好が多少変わったところで、先輩にはそんなの全然興味ないのかな。なんか、ショック。

 ううん! 何か言ってもらえるかもって、そんな勝手に期待して、その期待が外れたからって機嫌損ねるなんて大人げないよね。うううー。めげないもん。

 あたしは、慌てて先輩の背中を追った。

♡ ♡ ♡

 あたし達が観る予定のは、3時開演のプラネタリウム。科学館の館内に入ってすぐチケットを買ったら、投影開始までまだ40分も時間があった。なので、館内を見て回ることにする。

 せっかくだからと予習がてら、宇宙関連の展示コーナーに足を向けた。

「あ、先輩! 見て下さい! ほら、こっちから見ると地球から見た星空だけど、横からみたら、全然違う星座に見えますよっ!」

 あたしは思わず先輩の袖を引っ張って、星座の展示物を指差す。地球側から見るとオリオン座。星と星の間に細い棒がついていて、星座の星の繋がりが分かりやすくなっているんだけど、それが違う角度から見ると、実は横に並んでるわけじゃなくて、地球から遠い星と近い星があったりするのがよく分かるようになっている立体模型だった。

「すごいすごいっ! 考えてみたら、当たり前ですよね。星座なんて、昔の人が夜空を見上げて、勝手に決めたものなんだから。でも、星座に奥行があるなんて、考えてもみなかったです!」

「そうだね。――そろそろ時間だよ。お手洗いとか大丈夫?」

「え、あ、はい。すみません。一応行っときます」

「そう。確か投影ドームの近くにあったはずだよ。行こう」

 先輩は言うなり、歩き始めてしまう。あたしは慌てて追いかける。

 なんか、先輩機嫌悪い? いつもだったら、もっと軽口ばかり言って来て、からかわれるはずなんだけど。『それくらい考えるだろう、ボケてるなあ』とかくらいは言いそうだと思うんだけどな。今日ずっと、話してるのあたしだけだよ。なんか無表情で、近寄りがたい雰囲気。あたし、先輩に何かしたかなあ?

 自問自答してみても、何も思いつかない。

 お手洗いから出ると、先輩は投影ドームの入り口で待っていてくれた。そろそろ10分前だから、ドーム内で座って待つことにしたあたし達は、中央のシートに座る。背もたれが少し倒れていて、寄りかかるとドームを見上げるような形になっている。

 冷房が効きすぎているから、カーディガンを羽織ったら、ミニスカートの足が丸出しで少し寒いな、ここ。太ももをこすってたら、先輩がシャツを脱いで渡してくれた。

「そんな短いスカートはいてくるからだ、ばか。寒いならこれ使って」

「え、でもそれじゃあ奏多先輩が寒くありませんか?」

「俺はいい。黙って使え」

「あ、はい。ありがとうございます……」

 怒ったように言われ、あたしは先輩の温もりが残っているシャツを受け取った。足にひざ掛けのように被せると、寒さは幾分和らいだ。ううん。和らいだどころか、ドキドキしすぎて体温急上昇だよ。ほっぺたまで熱い。その時、ドーム内の明かりが消えて、音楽が流れ出した。赤面してるのバレてないよね!? 

 ちらりと先輩の方を見ると、先輩は投影ドームを見上げていた。横顔、まつ毛長いなあ。ねえ、なんで今日はずっと黙ってるんですか? それに、普通に優しいのは何故? 先輩がいつもと違うから、余計にどきどきしちゃって困ります。今日この後告白するのに。どうしてくれるんですかっ!

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