『愛してるゲーム』に負けたらキスするなんて先輩のバカ!

みりん

2 これはお詫びであって、デートではないんだから。

 部会後の飲み会終わり、駅まで皆で歩いて帰る。

 あたしは勇気を出して、先輩に話しかけた。同期の友達、瑠美ちゃんと瞳ちゃんが気をきかせて他の先輩達を誘導して、二人きりにしてくれた。

「あの、奏多先輩。コーヒーのシミ大丈夫ですか?」

「あ? なに? まだ気にしてんの? 今日一日くらいどうってことないよ。それとも、もっ回『愛してるゲーム』したいの?」

「なっ! 違いますよっ! だって瑠美ちゃんが先輩のロンT1万円するって教えてくれて……」

 1万円は高いよ。あたしのほっぺにチューが1万円の価値があるとは思えないし……。

「やっぱり、ちゃんとお詫びしますよ! 何か欲しいものとかありませんか?」

 先輩は、困ったように眉をひそめた。

「気にしいだなあ、梨花は。それに俺、今欲しいもの無いんだよなあ」

「そんなこと言わずに! iTunesカードにします!? それとも、映画のチケットとか!?」

 あたしが食い下がると、先輩は考え込む。

「課金はなあ。この前したばっかだし。今はいいよ。映画かあ……映画。そうだな、映画いいかも。その代わり、一人で行くの嫌だから、お前も一緒に来るなら映画のチケットもらってやってもいいぜ?」

「ええ!? あたしも一緒ですか!?」

「嫌ならいいよ。何もしなくて」

「い、いえ! 嫌じゃないです! わかりました。じゃあ、それでお詫びとさせて頂きます!」

「んじゃ、今週の日曜日ね。ちょうど『zou』が始まるじゃん。あれ見よう!」

「え、『zou』って、猟奇ホラーの超大作の!?」

「うん。嫌なら良いんだぜ? 別に俺は行かなくても」

「い、行きます! 行きますよ! お金のことはちゃんとしなくちゃ気持ち悪いですから!」

「じゃ、楽しみにしてるから」

 にこっと爽やかに微笑むと、奏多先輩は改札を通り抜けて、部長達の輪の中に戻っていった。あたしはといえば、慌ててバッグの中から定期を探し始める。

 わあん。皆待って!

 幸い電車はまだ来てないみたいだから大丈夫かな。

 でも、どうしよう。ホラーはまあいいとしても、猟奇系は苦手なんだけど! しかもあれ、怖いって評判のやつじゃん……。先輩ほんとにホラー好きなんだから。うわあ。ほんとどうしよう。とりあえず、お詫びは受け取ってもらえたけど、でもこんな予定じゃなかったのにっ!

♡ ♡ ♡

 問題の日曜日。

 げっそりとするあたしとは対照的に、ご満悦の先輩は、スタバのカウンター席で隣り合わせで座っていた。

 キャラメルフラペチーノをかき回しながら、あたしは溜息をついた。

「楽しんで頂けましたか?」

 様子を伺うと、先輩は、にっこり爽やかな笑顔で答える。

「うん! 最高だったな! あの、主人公がジェイソンから逃げ回るシーン! 特に噛ませ犬のライバルがジェイソンに腕を切り落とされてゾンビ化するところなんて、爆笑だった!」

 ひい。やめて~。思い出すと寒気が!

「あはは。それは良かったです……」

 すると、先輩は、改まるように口を開いた。

「ありがとな。俺、映画は映画館で誰かと一緒に見たい派なんだけど、ホラーもの一緒に見てくれるヤツいなくて」

「ええ? 嘘ですよ。テニサーの女の子達とか、先輩が頼めば皆喜んでついて来てくれますよ」

「あー。あいつらはダメ。なんだかんだ皆彼氏付きだから。デートとかして後で面倒に巻き込まれると面倒」

「デ、デート」

「そう。男の嫉妬は怖いぜー。俺は楽しいからあいつらと遊んでも良いんだけど、そうすると何故か俺が悪者になって友達減るからなー。寝る訳でもなし。皆小心だと思わん?」

「そりゃ、彼女が知らない人とデートなんかしたら嫌ですよ。敵を作って当たり前です!」

「ふ~ん。じゃあ、梨花ちゃんは俺とこんなところに二人きりなのは、彼氏がいないから出来るってことで合ってる?」

 奏多先輩があたしを覗き込んで来る。

「わ、悪かったですね! どうせ彼氏なんていないですよ!」

 自分でも、顔が赤らむのがわかった。もうやだあたし、赤面症。二人きりって単語に意識してどうする。これはお詫びであって、デートではないんだから。

 ほら、先輩がニヤニヤしてるう。

 どうせあたしが彼氏いなくて可哀想だから楽しいんだ。ほんとどS。超楽しそう。

 話変えよう。

「あの、先輩が一人で映画見るの嫌って言うの、あたしも共感です。あたしもおひとり様とかすっごく苦手で、小説書くための取材でデートっぽい場所に行きたいと思ってもなかなか行けなかったりします。行きたいと思った時に限って友達が忙しかったりして。やっぱり、ぼっちって思われるの嫌ですよね」

 愛想笑いで誤魔化すと、先輩は感心したようにあたしを見た。

「取材かあ。気合入ってるねえ」

「はい、まあ。想像で書けるのもあると思うんですけど、やっぱり、現代もの書くとなると、ある程度経験値積まなきゃどうにもならないこともあると思うんで」

「まあ、そうかもね。俺は俺らの代が人数足りなくて、一樹に幽霊部員でも良いからって無理やり入れられた口だから、特例として読み専なんで、小説書いたことないんだけど。やっぱ書くのに苦労してるんだなあ。すげえよ」

 一樹っていうのは、部長のことだ。

「苦労っていうか、ただ好きで書いてるだけなんですけどね」

 感心されて、あたしは照れて俯いた。ほんと、まだまだ下手だけど。好きで書いてるから悩むのも楽しいっていうか。感心されるようなことじゃない。

「で? 今はどこに行きたいと思ってるの?」

「今ですか? 今は、科学館に行きたいです。あたし、プラネタリウムって行ったことなくて。でも、次の短編はどうしてもプラネタリウムを題材に使いたいんです」

 星座物語をミックスさせた天体観測部のラブストーリーを書きたいんだよねー。やっぱ、だったらデート先はプラネタリウムしかないと思わない? 思うよねー。夜中に出歩くのもいいけど、それはクライマックスにとっておくの。ぷくく。あー楽しい。

「いいよ。俺、取材付き合うよ」

 あたしは妄想していたので、先輩がはじめ何を言ったのか分からなかった。

「へ? 今なんて?」

「だから、プラネタリウムに行きたいけど、一人は嫌なんだろ? だったらその取材、俺が付き合ってやるって言ってんの。いつにする?」

「え、え、え! 良いんですか!?」

「だから、良いって言ってるだろ? 俺、来週は無理だけど、再来週の土曜なら空いてるわ。梨花は?」

 あたしは、慌てて鞄から手帳を取り出し確認する。

「あ、空いてます」

「じゃあ、決まりな」

「へ? あ、はい。ありがとうございます!」

 うそ。マジ? 先輩が、奏多先輩が取材について来てくれるなんて!

 こんなこと想像も出来なかった! ラッキー!? ええ!? やだ、どうしよう!

 先輩は、固辞したのにスタバも奢ってくれるし、変なとこ優しい。普段意地悪だから、少しの親切も優しく感じてしまうだけ? じゃ、ないよね。これは……!

 やったあ。取材に行けるのも嬉しいけど。

 それよりも、また、おやすみの日に先輩に会える!

「ほんとに、ありがとうございます!」

 あたしは、ホラーの怖さも吹っ飛んで、満面の笑みで先輩に頭を下げた。

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