機械仕掛けと墓荒らし
帰りは安心です
東側の庭には遊歩道が整備されている。昼間はここで入院患者達が思い思いに体を動かしている。もちろんこんな時間にほっつき歩いている者はいない。
トマウとスースは高い塀を乗り越え、庭に忍び込み、青臭い繁みの影から病院の様子をうかがう。ほぼ全ての部屋が消灯しているが、そうでない黄色の光の漏れている部屋では職員の立ち働いている様子が垣間見える。
「看護婦さんが病床を巡回するのはもう少し後の時間です。行くなら今だと思いますよ。あ!」
トマウは即座にスースの方を振り返り、スースの目線を追う。その先には、夜闇の向こうには犬型機骸の姿があった。闇の中、僅かな窓明かりを乱反射させ、猛然とこちらの方へと疾駆している。
「伏せろ」とトマウが言うが早いか真鍮の猛犬の方へと躍り出る。
その番犬は飛びかかり、顎を開き、牙の如く並ぶ鋭い金属片を剥き出しにしてトマウに噛みつこうとする。が、トマウは間一髪で躱し、曇ったナイフを首元に突き刺した。その一撃で犬型機骸は機能を停止する。
改めて見たその機骸は同じ犬型といえどエイハスよりも二回りは大きく、豹のようなしなやかな体形に加え、明らかに人の手による加工がなされていた。
「すみません。トマウさん」追って来たスースが息を荒げて謝る。「メエタオの事を忘れてました。夜は番犬として働いていると知っていたのに。死なせてしまいましたか?」
「いや、首元の伝達回路を切っただけだ。修理すれば直る」
メエタオはしきりに三つの眼球レンズを動かし、顎を開閉している。それ以外に動かせる部分はない。トマウが改めて病院の方へと歩みだした時、スースに呼び止められる。
「トマウさん。彼を修理してもよろしいでしょうか?」
トマウは少しいらついた様子で振り返る。
「何のために? 今急いでいるって事は分かってるか?」
「私のせいで彼は壊れてしまったからです。もちろん急いでいる事は分かっています。こんな事を言うのは勝手だという事も分かっていますが、元々私を連れてくるつもりはなかったのですよね」
確かに勝手極まりない台詞だとトマウは思った。
「依頼人が無事でなければ報酬を期待できないってのは分かるか?」
「もちろんです。それも分かっています。終わったらすぐに立ち去ります。大人しくトマウさんの事を待ってます。ついでにトマウさんの事も襲わないようにしておきます。帰りは安心です」
そう言いながら、トマウの許可を得る前からスースは既に番犬の首元を分解し始めていた。
「終わったらさっきの裏路地で待ってろ」
集中しているのか、スースから返事は得られなかった。トマウは仕事に戻る。
トマウとスースは高い塀を乗り越え、庭に忍び込み、青臭い繁みの影から病院の様子をうかがう。ほぼ全ての部屋が消灯しているが、そうでない黄色の光の漏れている部屋では職員の立ち働いている様子が垣間見える。
「看護婦さんが病床を巡回するのはもう少し後の時間です。行くなら今だと思いますよ。あ!」
トマウは即座にスースの方を振り返り、スースの目線を追う。その先には、夜闇の向こうには犬型機骸の姿があった。闇の中、僅かな窓明かりを乱反射させ、猛然とこちらの方へと疾駆している。
「伏せろ」とトマウが言うが早いか真鍮の猛犬の方へと躍り出る。
その番犬は飛びかかり、顎を開き、牙の如く並ぶ鋭い金属片を剥き出しにしてトマウに噛みつこうとする。が、トマウは間一髪で躱し、曇ったナイフを首元に突き刺した。その一撃で犬型機骸は機能を停止する。
改めて見たその機骸は同じ犬型といえどエイハスよりも二回りは大きく、豹のようなしなやかな体形に加え、明らかに人の手による加工がなされていた。
「すみません。トマウさん」追って来たスースが息を荒げて謝る。「メエタオの事を忘れてました。夜は番犬として働いていると知っていたのに。死なせてしまいましたか?」
「いや、首元の伝達回路を切っただけだ。修理すれば直る」
メエタオはしきりに三つの眼球レンズを動かし、顎を開閉している。それ以外に動かせる部分はない。トマウが改めて病院の方へと歩みだした時、スースに呼び止められる。
「トマウさん。彼を修理してもよろしいでしょうか?」
トマウは少しいらついた様子で振り返る。
「何のために? 今急いでいるって事は分かってるか?」
「私のせいで彼は壊れてしまったからです。もちろん急いでいる事は分かっています。こんな事を言うのは勝手だという事も分かっていますが、元々私を連れてくるつもりはなかったのですよね」
確かに勝手極まりない台詞だとトマウは思った。
「依頼人が無事でなければ報酬を期待できないってのは分かるか?」
「もちろんです。それも分かっています。終わったらすぐに立ち去ります。大人しくトマウさんの事を待ってます。ついでにトマウさんの事も襲わないようにしておきます。帰りは安心です」
そう言いながら、トマウの許可を得る前からスースは既に番犬の首元を分解し始めていた。
「終わったらさっきの裏路地で待ってろ」
集中しているのか、スースから返事は得られなかった。トマウは仕事に戻る。
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