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大和戦争 - Die was War -

葉之和駆刃

『開幕の合図』

全部隊合同トーナメント

一日目組合せ

(一試合目)五條勇太 対 添上麻依

(二試合目)香芝健一朗 対 西京子

(三試合目)朱雀あかね 対 西和清

(四試合目)郡山雪太 対 平城光河

(五試合目)二階堂瑛 対 広陵崇



 一回戦は二日に渡って行われ、ともに午前に二試合、午後に三試合という日程である。雪太の初戦の相手は、同じ第六線の光河だった。心のどこかで、同じ部隊に所属している生徒とは一回戦では当たらないと思い込んでいた。だが、よくよく見てみると、三試合目と五試合目も同じ部隊同士の対決だ。
 自分以外は全員敵、という認識を雪太は持ち合わせていなかった。この時に初めて、それを思い知らされた気がした。

 呆然としている雪太の肩に、また手が添えられる。振り返ると、そこにはいつもの春也の顔があった。春也は童顔の口許を綻ばせながら、

「いやぁ、この展開は俺も想像してなかったよ。まぁ、驚きは人生には付き物だけどね」

 雪太は何も返さず、目の前の石碑に表示されている組合せ表をまじまじと見つめた。驚いたといえば、もう一つある。一回戦を戦わず二回戦に進める生徒の名前の中に、第一線に属する者の名前が一つもなかったことだ。
 一回戦を戦わないのは、不参加を除いて六人。春也の予言では、その中に第一線のメンバーがごっそり入るはずだった。しかし蓋を開けてみれば、第一線メンバーの名前はすべて初日と二日目のところにあったのだ。
 因みに、二回戦から戦う生徒は王寺ひかり、橿原藍、北みさと、高田亜梨沙、高取国才、登美紗矢香という何とも言いがたい面々であった。珍しく、春屋の予想は外れたのだ。

 それからの五日間、雪太は剣を振るった。トーナメントの組合せが発表されたその日に倉庫に剣を取りに行き、その長剣を朝から晩まで振り続けた。相手が傷つくことなど気にしている余裕などなかった。誰もいない場所で、ただ只管に剣を振っていたのだ。


 五日後の朝、生徒二十九名は庭内にある大きな広場に集められた。不参加の生徒も呼ばれ、ツキヨミから確認のルール説明が行われた。

 生徒同士が一対一で戦い、どちらかが立てなくなる、降参する、持っている武器を手放す、ということがあった時点で勝敗が決まる。また、制限時間も設定されており、五分以内に決着がつかなければ審判の判断によって勝敗の優劣が下される。尚、審判はツキヨミ自身が務めるとのことだった。

 雪太はその説明の間中、視線を巡らせてスノーの姿を探したが、やはり彼女はいなかった。まだ部屋で寝ているのだろうか……という不安が、これからの戦いに向ける決意よりも雪太の中で膨張しつつあったのだ。

 闘技場は円形で、直径が五十メートルほどもあり、その周りは一定間隔おきに杭で囲まれ、縄が巡らされている。その中に対戦する二人の生徒が入り、向かい合う。残りの生徒は、闘技場の周りの好きな場所で観戦できるということだった。

 初日の一試合目は、第三線の五條と第六線の麻依の対戦だ。雪太は、第六線のメンバー達と一箇所に固まり、麻依の健闘を祈っていた。

「麻依ちゃん、頑張って!」

 由佳が麻依の背中に声援を送る。その声を聞いて麻依は振り向き、ゆっくり頷くとまた前に向き直る。二人は互いの距離が十メートルほどになった時、同時に足を止めた。同時に剣を鞘から抜く。このトーナメントで使用される武器は、全部が今は使われていないものだ。だが、どれも本物なのである。
 また、傷ついた者は主に同じ部隊の『他動治癒』の仏力を持つ者に癒やしてもらえる。

 麻依の初戦の相手は、所属部隊で言えば格上の相手だ。
 五條は男子としては平均的な身長だが、細身で運動部というわけでもない。右手には鉄剣を強く握りしめている。一方、麻依は手にしているのは短剣だが、元陸上部で俊足の持ち主だ。

「添上さんは足が速いからね。他の生徒と合わせても、多分一番か二番なんじゃないかな」

 雪太の隣で春也が言った。雪太としても、同じ部隊の仲間として勝ち進んでほしい。だが、自分が戦うかもしれないことを考えると、心から応援してよいのか悩んでしまう。由佳は一生懸命に声援を送っているが、彼女は戦うことをどう思っているのだろう、とふと雪太は疑問を感じてしまった。

 審判のツキヨミも闘技場の中に入り、二人の間に立った。二人が向かい合ってしばらくすると、男によって銅鑼が鳴らされ、鐘の音が高らかに響いた。皆、これが開幕の合図だと悟るのに時間はかからなかっただろう。

 音が鳴るとすぐさま、地を蹴ったのは麻依だった。俊足を活かし、五條に急接近する。だが、すぐ前まで来た時に麻依は違和感を覚えた。五條の眼鏡の奥にある瞳が、笑っていたのだ。

(どうして……攻撃してこないの……?)

 麻依が自身の短剣で五條の足を突こうとした時、五條は跳ね上がった。五メートルほど軽く跳躍し、空中で徐に剣を振り被る。麻依も咄嗟に後退すると、五條の振り下ろした剣が地面を激しく切り裂いた。地面に深い亀裂が入り、砂埃が舞い上がる。視界がぼやけ、それによって麻依は目を細めた。その隙を逃さず、五條は砂埃の中に身を隠しながら疾走してくる。

 振り上げられた長剣が振り落とされ、麻依はそれをなんとか受け止めた。火花が散る。皆が見守る中、麻依は五條の攻撃を押し返そうと必死に抗った。しかし、五條は身じろぎもせず、それどころか余裕の笑みすら浮かべている。

「やるな……でもな、いいこと教えてやるよ」

 眼鏡の奥の瞳が、爛々と光る。麻依はその先のことを察し、足にぐっと力を入れてその場に留まろうとした。しかし、五條の押す力は次第に強さを増していく。

「脚が速いのだけは認めてやる。だがな……お前は所詮、女なんだよ!」

 五條の言葉と同時に、麻依は一気にはじかれて地面を転がった。その弾みに、相手の攻撃を受けていた短剣が手から離れてしまった。短剣もまた、金属音を響かせながら試合を観戦していた生徒達の元へと転がっていく。

 再び、銅鑼の音が鳴り響いた。試合終了の合図だ。皆が呆然と立ち竦む中、五條だけが悠然とした様子で剣を鞘に収める。直後、いち早く我に返った由佳が縄の仕切りを飛び越えて麻依のところに駆け寄った。

 しゃがみこんで両手で麻依の体を起こし、「大丈夫?」と問いかけるが、彼女はまだ放心状態のようで、何のいらえもなかった。続いて、雪太も春也と一緒に二人のところに駆け寄る。
 麻依はようやく状況を察知したのか、三人を見ながら口を開いた。

「ごめん……勝てなくて……第六線が頑張ってきたこと、誰よりも早く証明しようと思ってたのに……」

 麻依の言葉に、由佳は泣きながらぶんぶんと首を振る。

「いいの。麻依ちゃんが無事だっただけで……私は嬉しいよ。どこか怪我してない? 治してあげるから」

 由佳は第六線の中で唯一、『他動治癒』を解放させている。しかし、麻依は微笑を貫きながら首を振るのだった。

「大丈夫。どこも怪我してないよ」

 麻依はそう言うと勢いよく立ち上がってみせ、パンパンと制服についた土を払った。そしてツキヨミに一礼すると、闘技場の外に向かって歩いていった。雪太達もその後に続く。しかしその途中、こんな会話が耳に届いてきた。

「やっぱり、第六線は他の部隊のやつに一勝もできないんじゃね?」
「普通に考えてそうだろ、吉野以外のやつは全員立候補したらしいけど」
「まじかよ。本当に勝てると思ってんのかね」

 やはり、他の部隊からの目は以前とあまり変わっていないらしい。この固定観念を払拭する方法は、上の部隊の生徒と戦って勝つことしかないようだ。雪太の中では、言いしれぬ闘志が燃え盛り始めていた。


 二試合目には、第一線の京子が登場した。相手は、第四線の香芝。三つも格下の相手になるが、京子の表情は真剣そのものだった。
 香芝は男子としては小柄で、身軽な動きが得意だ。だが、京子は全生徒の中で一番低身長であり、二人の攻撃スタイルは似通っているといえた。

 京子の武器は鉄刀、一方で香芝は麻依よりもやや長い短剣だ。二人は互いに向かい合い、息を詰める。二人の間に立ったツキヨミが右手を上げて合図を送ると、男が銅鑼を鳴らした。

 瞬間、香芝は地面を蹴った。そのまま、躊躇うことなく京子目がけて突き進んでくる。斜め下から振り上げられた剣先を、京子は鉄刀で受け止める。火花が散り、その衝撃で京子は少し後退した。
 性別の違いを証明するかのように、香芝の攻撃を受ける度に京子は少しずつ後ろに押されていく。香芝の攻撃は、次々と繰り出される。京子はそれらをすべて受け続ける。彼女は第一線であるのに対し、香芝は第四線。力の差で言えば、京子の方が勝っている。……そうでなければならないのだ。

 試合の様子を見ている第一線の面々――瑛と広陵からは京子に対し、「何やってるんだ」「それでも俺達の仲間か」などという声が飛ぶ。

 香芝の攻撃スピードはどんどん加速していき、京子も次第にそれを受け止めきれなくなる。いつまでも攻撃に転じようとしない京子に、第一線のメンバーは不安そうな表情を浮かべた。それを、雪太も少し離れたところから目撃していた。

 攻撃が五十連撃目くらいになった時、急に香芝の動きが鈍った。その隙を突き、京子は鉄刀でカウンターを食らわせた。香芝は咄嗟に身を横に反らせ、先が腰を掠る程度だった。香芝は転がるように、彼女から飛びしきる。片膝を着き、尋常ではない汗を流しながら荒々しい息を吐き、京子を見据えた。

 京子は涼しい顔で香芝に近づいていくと、口を開く。

「あなたの身体能力は優れている。その仏力も……きっとその運動神経によって解放されたのだと思うけど」

 京子の言葉を聞き、他の生徒達からはどよめきが沸き起こる。彼女は続けて、

「あなたの仏力は――おそらく『跳攻(ちょうこう)』。鼓動が速くなるに連れて、攻撃を繰り出すスピードが上がる。倉庫に置いてあった文献を読んだんだけど……それにはデメリットもあるらしいわ。少なくとも三十発目で敵を倒さないと、今度は自分に反動が来る。あなたはその力を解放したことを、同じ部隊の人を含め誰にも話していなかった……」

 香芝は胸を押さえながらなんとか立ち上がり、疲弊したような掠れた声を絞り出した。

「なんで……お前が……それを知ってる……」
「私も、みんなに解放したことを隠してた仏力があるから。私の仏力は……『読心(とくしん)』」

 京子が答えると、香芝の目には怒りにも似た色が浮かび上がった。

「貴様……!」

 歯を食いしばりながら香芝は唸ると、その場に倒れ込んだ。
 再び銅鑼が鳴らされ、京子の勝利が告げられた。しかし、皆は呆然と闘技場内の光景に目を奪われていた。

「おい、『読心』を解放させてるのって……確か全部隊の中で、榛原と高取だけだったよな」
「あぁ……まさかあいつも解放させてたなんて……!」

 広陵と瑛は自分達の部隊の人間が勝利したことよりも、京子に『読心』の力が備わっていることに驚いていた。

 『読心』は、敵の心を読む仏力。その力を解放させる者は帝國内においても稀ではあるが、得てしまえば戦線ではかなり重宝される仏力だ。

 京子は表情を崩さないまま、闘技場の外に出ていった。倒れた香芝に同じ第四線の藍が駆け寄り、仏力『他動治癒』で彼の身体を回復させていた。

 その一部始終を目の当たりにした雪太は、初めてあんな冷酷な京子を見たような気がした。彼女はいつも責任感が強く、現実世界では学級委員長として、クラスのために尽力してくれていた。京子もまた、この世界に来て変わってしまったのだろうか、という不安を雪太をさらに焦らしていた。

 だが、戦いは幕を開けたばかりだ。午後には、雪太も試合に出なければならない。自分の今の力を信じて、必ずスノーの護衛役を担うのだ。そうすることでしか、彼女のいるところへは帰っていけないのだから。

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