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大和戦争 - Die was War -

葉之和駆刃

『美麗な踊り子』

 綺麗な音色だ。音に誘われるようにして、雪太はそこへ足を運んだ。屋敷の裏にも庭があり、そこで何やら笛の音色に合わせて踊っている女がいた。美しい着物を身に纏い、舞い踊っている。
 よくよく近づいてみてみると、なんとウヅメだったのだ。彼女に、こんな特技があるとは思わなかった。しばらく、雪太はそれに見とれていた。すると、ウヅメは雪太に気づき、音が止むと同時に近づいてきた。

「雪太様、ご覧になっていたのですね。お恥ずかしい……」

 ウヅメは、そう言って恥ずかしそうに顔を赤く染める。それにしても、ウヅメは何故、こんな場所で舞いなど踊っていたのだろう。不思議に思った雪太は、ウヅメに尋ねてみた。すると、彼女はこのように答えるのだ。

「スノー様がお好きなのですよ。私、ここにお仕えする前、好きで踊りを始めたのですが、それをスノー様の前で披露したところ、大層お気に召したようで」
「あんた、毎日ここで練習してるのか?」
「はい。私、やはり踊ることが好きなので。雪太様は、どう思われましたか?」

 不意をつくように、ウヅメが雪太に感想を求めてきた。雪太はわざとウヅメから目線を逸らし、

「綺麗だった……」

 と、一言言った。それを聞いてウヅメも安心したのか、柔らかな笑みを浮かべる。それを見て雪太は、胸が痛くなるのを覚えた。
 しかし、それだけでは終わらない。

「あの。もしよろしければ、これから二人だけでお話しませんか。先ほどはお客様が来ておられましたので、ゆっくりお話しできませんでしたから」

 二人きりでとなると、流石に緊張するだろう。ここは断ることが滴策だが、それよりも先にウヅメが雪太の手を握ってきたものだから、断るに断れなくなってしまった。
 仕方なく、雪太はウヅメとともに彼女の部屋に向かった。

 使用人でも、ちゃんと一人ひとりに部屋が設けられてあるようだ。雪太はウヅメの部屋を初めて見たが、戸棚など整理整頓されていて、スノーの部屋とはまるで大違いだ。

「散らかっていて落ち着かないと思いますが、お許しくださいませ」

 これで散らかっていると言うなら、スノーの部屋は一体どうなのだろうと雪太は思わず笑ってしまった。

「あの、どうされました?」
「いえ、何でも……」

 ウヅメが不思議そうにきいてくるので、雪太も適当に誤魔化した。そして、雪太の正面に彼女は腰を下ろした。

「あ、あの……。え……、と」

 彼女は目を泳がせながら、言いよどんでいる。何か話題を探しているようだ。それならば、誘わなければいいのにと、雪太は内心呆れ返ってしまった。それでも彼女の顔を見ていると、何故だか気持ちが落ち着くのだ。

「ごめんなさい……。私、あなた様とお話がしたくて……。いつも、スノー様のお相手をしていただいているので、とても助かってるんですよ。だから、そのお礼を言いたかったんです。ありがとうございます」
「一つ、きいてもいいか?」
「はい。何でしょう?」

 雪太はききたいことがあったのを思い出し、この機会にきくことにした。

「あいつの……、スノーの姉のことで……」
「アマテル様の、ことですか?」
「実際、スノーのせいで閉じこもったのに、なんで自分のせいだと思ってるんだ?」

 それを聞くと、ウヅメはしばらく間を置いた後に話し始めた。

「アマテル様は、とても心優しいお方です。それ故に、ご自分の妹のせいにしたくはないのでしょう。お元気な頃は、よく一緒に遊んでおられましたし」
「俺、あいつをあの部屋から外に連れ出したいんだ。何とかして、外の世界へ……」
「それは……、とても素晴らしいことだと思います!」

 ウヅメは笑顔で言ってくれたが、その顔はすぐに難しい表情へと変わる。

「しかし……、あの方のお心を開くのは難しいのではないでしょうか。以前、父君であるイーザ様が部屋の前でいくら説得しても、アマテル様は一向に部屋から出てこられませんでしたし」

 しかし、雪太には作戦があった。それを思いついたのは、ウヅメの踊りを見ていた時だ。

「ウヅメ、お前に頼みがある」
「私に……、頼みですか?」

 雪太の話を聞き、ウヅメは何のことか分からずに、ただキョトンとしている。それでも、雪太には何故かアマテルを外に出せるのは、この方法しかないという確信があったのだ。それをウヅメに伝えると、ウヅメは初め少し困っていたが、すぐに了承してくれた。

 雪太は部屋に帰る途中、スノーに会った。スノーは怒ったように、雪太を見つめている。そして、雪太の腹を強く蹴った。尻餅をついた雪太に馬乗りになると、スノーは言った。

「お前、さっきウヅメの部屋に行ったな! よくも、主を差し置いて!」

 どうやら、雪太がウヅメの部屋に入るのをスノーも見ていたらしい。雪太は仕方なく、スノーを宥めた。

「……悪かったな」

 雪太が立ち上がると、スノーの頭を撫でる。そして、続けて言った。

「さっき、お前の姉と話してきた」
「姉上と? 姉上は、おいらとしか話さないんだぞ!」
「声は聞いてないけど、声をかけたらちゃんと答えてくれた」
「え、どうやって?」

 これは、どうやって説明すればよいのだろう。雪太が質問した時、アマテルは紙を襖の隙間に潜らせてきた。その紙に、字が書いてあったのだ。崩し字ではなく、雪太にも読めるような文字だった。それにしても、何故アマテルは人間界の字を知っているのだろうか。雪太にとって、それだけが今は解けぬ疑問だった。

 雪太が大雑把に説明すると、スノーも納得してくれたようだ。

「なるほどな~。でも、もう行くなよ。あの部屋を守っているのは、おいらなんだから」

 スノーはやはり、アマテルが引きこもってしまった原因が自分にあると理解していないようだ。雪太は、思いきって教えることにした。スノーに反省してもらえば、アマテルも部屋の外に出てくるかもしれない。

「あのな、スノー。お前のせいで、あいつは部屋に閉じこもったんだぞ」

 それを聞くや否や、スノーの表情が変わる。まるで敵を見るように目を吊り上げ、雪太を睨んだ。

「おいらのせいだと? おいらは、姉上を守って差し上げてるだけだぞ! おいらは何もしていない!」
「けど、お前が我儘を言ったり、村の中を暴れ回ったから、あいつはそれを自分のせいだと思い込んでるんだ。だから、責任を感じて閉じこもってしまった」
「そんな……おいらはただ……」

 スノーから、いくつもの涙が零れ落ちる。気持ちを理解した雪太は、スノーに手を差し延べながら言った。

「今から、姉の部屋に行ってくれるか?」

 しかし、スノーはその手を払うのだった。

「大きなお世話だっ!」

 それだけ言うと、スノーは背を向けて駆け出し、瞬く間に見えなくなってしまった。あれだけ言っても尚、まだ認めようとしない。これ以上何を言っても無駄だと悟った雪太は、やはりあの方法しかないと思い、仲間に伝えるため部屋に戻ることにした。

 雪太以外の第六線メンバーはその日の訓練を終え、ちょうど部屋に戻ってきているところだった。ドアを開けると、真っ先に春也から皮肉交じりの言葉をかけられる。

「やあ、雪太。どうだった? 訓練は」
「あ、いや……」
「ずるいぞ、一人だけサボって」

 今度は、そう言いながら光河が雪太の足にしがみついてきた。サボっているというよりは、サボらされていると言った方がこの場合適切かもしれない。毎日のように、スノーが強制的に雪太を攫っていくからだ。

「まあ、仕方ないね。彼女、雪太のことがお気に入りみたいだし」

 また春也が、皮肉っぽく言った。それには、女子二人も同感のようだ。

「っていうか、郡山君って今のままでも充分強いしね」
「そうそう、認められてるってことだよね」

 褒められているのか、嫌味を言われているのか分かりやしない。雪太は、言わなければならないことを思い出し、皆に相談のつもりで言った。

「みんな、ちょっと聞いてくれ。頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?」

 皆、不思議そうに雪太を見てくる。急にそんなことを言われたのだから、無理もない。しかし、雪太は冷静に話を続ける。

「スノーの姉、アマテルが部屋に閉じこもりきりなのは知っているよな。その……彼女を、助け出したいんだ」

 ここにいる四人も、ツキヨミやアメノーシからアマテルのことは聞かされている。雪太は、どうにかしてアマテルを部屋の外に連れ出したかったのだ。その手伝いを、同じ部隊の者達にも頼むことにした。彼らなら、きっと協力してくれるだろう。そう信じて。

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