大和戦争 - Die was War -
『帝國での来訪者』
雪太が神力を得てから約一週間が経過し、徐々に氷の扱いにも慣れてきた。というより、慣れさせられたと言った方が適切かもしれない。毎日、朝から晩までスノーの特訓に付き合わされていていたのだ。他の皆はアメノーシに見てもらっていたが、雪太だけがスノーの我儘によって隔離されていたというわけだ。
それには、仲間からも同情の目で見られていた。
「雪太は大変だね~」
「郡山君、お疲れ様~」
などと、部屋に戻る度に春也や由佳から言われた。正直うんざりしてきて、逃げ出したくなる。スノーは何故、こんなにも自分に構うのか。雪太には皆目分からなかった。
次の日も、建物を出るとスノーが待っていた。
「遅かったな」
「悪いが、今日はこいつらと一緒にやる」
雪太は、近くにいる春也達を見ながら言った。しかし春也も分かっているのか、
「雪太。せっかく誘ってくれてるんだから、行くべきだと思うよ」
と、余計な助言をする。それを聞いてスノーは、更に調子に乗ったように笑い、雪太の腕を引っ張った。とても八歳とは思えない力の強さに、少し引いた。
いつもは森の中で修行するのだが、この日は森を通り抜け、屋敷へと向かった。雪太は不思議に思いながらも、スノーの後に続いた。
屋敷に着くと、スノーは雪太を座敷に上げた。未だに、スノーの行動が読めない。何をしようとしているのか、今ひとつ掴めないのだ。スノーは部屋の襖を開けた。
そこには子連れの夫婦、そしてウヅメの姿もあった。
「スノー様、用事って雪太様を連れてくることだったのですね!」
雪太を見ると、ウヅメは嬉しそうに言った。しかし、まだよく状況が分からない。一体今から、何が始まるというのか。ウヅメに案内され、雪太は夫婦の前に座った。すると、夫婦の間にいた少女が挨拶してきた。
「初めまして。私、クシハダと申します」
クシハダという少女は、丁寧に頭を下げた。それにつられ、雪太も軽く礼をする。歳は、スノーと同じくらいだろうか。しかし、スノーよりもしっかりしていて、よくできた娘のようだ。以前、スノーが幼馴染の話をしていたが、彼女がその幼馴染なのだろうと雪太は推測した。
そして今度は、夫婦も雪太に挨拶をする。
「クシハダの父、イカヅチと申します」
「母のカナヅチです。スノー様のご友人と聞いて、お会いするのをたいへん楽しみにしておりました」
この夫婦は、雪太をスノーの友人だと思っているらしい。しかし、スノーは雪太のことを奴隷だと思っており、何でも言うことをきく下僕だと思っているのだ。
「こいつは、神力も持ってるんだぜ!」
スノーが二人に言うと、イカヅチとカナヅチは雪太に対し、驚きの目を向ける。神力を持つ者は、帝國の中でもかなり珍しいのだ。それ故に、驚くのも無理はない。
「雪太様は、異国からの召喚者だとお聞きしました。あちらの世界は、どのようなところなのですか?」
イカヅチが興味深そうな目で、雪太にきいてくる。不意をつくように質問され、雪太は何と答えればよいか分からなかった。普段何となく生活していた世界だから、急にどんなところかと尋ねられても、答えられるはずもない。
「ここと違って……、建物が密集している世界です」
雪太は、思いついたことを話した。夫婦二人は、また驚いた目で顔を見合わせている。驚くほどのことでもなさそうだが、それでもこの国の人間には想像もつかないのだろう。
次に、
「他に、何があるのですか?」
と、今度はカナヅチが尋ねてきた。それについても、雪太は適当に答える。
「自動車とかが、走ってますね」
「自動車……? それは、生き物か何かですか?」
ミスってしまった、と雪太は後悔した。この国には、自動車がないようだ。
「いや、生き物じゃなくて……、乗り物です」
雪太が説明すると二人は納得したような表情をするが、まだ何かまでは分かっていないだろう。仕方なく、雪太は自動車について二人に詳しく話した。二人は目を輝かせながら、その話を興味津々に聞いていた。クシハダも、黙って雪太の話に耳を傾けていた。
話し終えると、二人は拍手をした。こんな話は初めてだ、是非とも行ってみたい、そんな言葉が飛び出した。一方、スノーは退屈そうに欠伸をしていた。興味がないこと、まる分かりだ。
「いやぁ、今日は実に興味深い話を聞かせていただきました。また機会があれば、お話をお聞かせください」
イカヅチがそう挨拶すると、三人は帰っていった。それを見送りながら、
「とてもよいお顔をされておられましたね」
と、ウヅメが感想を述べた。結局、あの三人はただ遊びに来ただけだったのだろうか。雪太は、それが最後まで分からなかった。雪太が何気に後ろを振り返ると、またスノーの姿が見えなくなっていた。雪太に構ってもらえなかったので、拗ねてしまったのだろうか。
しかし、これも雪太にとっては好都合だった。雪太には、寄りたい場所があったからだ。帰る際、ある部屋に立ち寄った。そこはスノーの姉、アマテルの部屋だ。雪太は、彼女の顔をまだ知らない。この世界に来た時には、すでに引きこもってしまった後だった。
しばらくはここに来る機会がなかったが、最近は少し余裕ができたということもあり、時々こうして足を運んでいるのだ。雪太は部屋の外から、中にいるアマテルに話しかけた。
「今日、スノーの幼馴染が来てた。両親が俺達の住んでた世界について聞いてきたから、詳しく教えたら目を輝かせてたぜ」
そうすると、襖の隙間から一枚の紙が出てきた。雪太はそれを手に取ると、その紙にはこう書かれてあった。
『それは、イカヅチ様とカナヅチ様ですね。あの方達はとても好奇心が強いので、一度気になり始めたら、とことん追求なさってくるので、お気をつけください』
確かに、雪太も二人を納得させるのにかなりの時間を費やした。それでも、真剣に話を聞いてくれていたので、雪太にとってもそれなりに話し甲斐があった。
雪太は話題を変えて、アマテルに尋ねてみた。
「最近、調子はどうだ? 今日は天気がいいから、たまには外に出てみないか」
しかし、返事は返ってこない。紙も出てこない。それほど、アマテルは自分に自信が持てなくなったのだろうか。
アマテルが引きこもってしまった原因は、スノーにある。スノーの悪戯が酷く、帝國の人々に迷惑をかけ続けた結果、当時世話役だったアマテルが自分の部屋に閉じこもってしまったのだ。彼女を部屋から連れ出す方法はないかと、雪太はここのところそればかりを考えている。
すると、不意に誰かの気配を感じ、振り向くとそこにはツキヨミの姿があった。
「来ていたのか」
「あ、はい。すみません」
「謝ることはない。姉上のことを思って、今日も来てくれたのだろう。感謝している」
ツキヨミも、初めて会った時よりは笑顔を見せてくれるようになった。その日もまた、穏やかな笑顔で雪太に言った。笑うと、女性らしく、可愛らしくなる。雪太は、そう感じた。
ツキヨミは雪太の隣に腰を下ろすと、話を始める。
「せっかく来てもらっている君に、このようなことを言うのは気が引けるが……、姉上はまだ以前のような心を取り戻せていない。スノーの行いを自分のせいにして、自分を悪者にしてしまっている。姉上は、大切なスノーのことを庇っておられるのだ」
ツキヨミの話を聞きながら雪太は、アマテルに同情した。本当に、スノーのことが好きなのだということは明白だ。ならば、スノーをここに連れてきて謝らせるしかない。
「ツキヨミさん。スノーをここに連れてきます」
ツキヨミも、雪太が何をしようとしているのか分かったのか、歩いていこうとする彼を呼び止めた。
「待て。君の行動に水を差すようで申し訳ないのだが、スノーはまだ、原因が自分にあることを理解していない。姉上の部屋を守っているのも、そのせいだ」
ツキヨミは立ち上がると、雪太の肩にポンと手を置き、向こうへ歩いていってしまった。雪太は突然、遣る瀬無い気持ちになった。アマテルが、哀れに思えて仕方がない。スノーに、本当のことを伝えなければならない。しかし、相手に悪気がないのであればどう伝えればよいのだろう。考えれば考えるほど、分からくなっていった。
雪太が屋敷の敷地を出ようとした時、どこからか笛のような音色が聴こえてくる。近くで祭りでもやっているのだろうか。少し気になった雪太は、そこへ行ってみることにした。
それには、仲間からも同情の目で見られていた。
「雪太は大変だね~」
「郡山君、お疲れ様~」
などと、部屋に戻る度に春也や由佳から言われた。正直うんざりしてきて、逃げ出したくなる。スノーは何故、こんなにも自分に構うのか。雪太には皆目分からなかった。
次の日も、建物を出るとスノーが待っていた。
「遅かったな」
「悪いが、今日はこいつらと一緒にやる」
雪太は、近くにいる春也達を見ながら言った。しかし春也も分かっているのか、
「雪太。せっかく誘ってくれてるんだから、行くべきだと思うよ」
と、余計な助言をする。それを聞いてスノーは、更に調子に乗ったように笑い、雪太の腕を引っ張った。とても八歳とは思えない力の強さに、少し引いた。
いつもは森の中で修行するのだが、この日は森を通り抜け、屋敷へと向かった。雪太は不思議に思いながらも、スノーの後に続いた。
屋敷に着くと、スノーは雪太を座敷に上げた。未だに、スノーの行動が読めない。何をしようとしているのか、今ひとつ掴めないのだ。スノーは部屋の襖を開けた。
そこには子連れの夫婦、そしてウヅメの姿もあった。
「スノー様、用事って雪太様を連れてくることだったのですね!」
雪太を見ると、ウヅメは嬉しそうに言った。しかし、まだよく状況が分からない。一体今から、何が始まるというのか。ウヅメに案内され、雪太は夫婦の前に座った。すると、夫婦の間にいた少女が挨拶してきた。
「初めまして。私、クシハダと申します」
クシハダという少女は、丁寧に頭を下げた。それにつられ、雪太も軽く礼をする。歳は、スノーと同じくらいだろうか。しかし、スノーよりもしっかりしていて、よくできた娘のようだ。以前、スノーが幼馴染の話をしていたが、彼女がその幼馴染なのだろうと雪太は推測した。
そして今度は、夫婦も雪太に挨拶をする。
「クシハダの父、イカヅチと申します」
「母のカナヅチです。スノー様のご友人と聞いて、お会いするのをたいへん楽しみにしておりました」
この夫婦は、雪太をスノーの友人だと思っているらしい。しかし、スノーは雪太のことを奴隷だと思っており、何でも言うことをきく下僕だと思っているのだ。
「こいつは、神力も持ってるんだぜ!」
スノーが二人に言うと、イカヅチとカナヅチは雪太に対し、驚きの目を向ける。神力を持つ者は、帝國の中でもかなり珍しいのだ。それ故に、驚くのも無理はない。
「雪太様は、異国からの召喚者だとお聞きしました。あちらの世界は、どのようなところなのですか?」
イカヅチが興味深そうな目で、雪太にきいてくる。不意をつくように質問され、雪太は何と答えればよいか分からなかった。普段何となく生活していた世界だから、急にどんなところかと尋ねられても、答えられるはずもない。
「ここと違って……、建物が密集している世界です」
雪太は、思いついたことを話した。夫婦二人は、また驚いた目で顔を見合わせている。驚くほどのことでもなさそうだが、それでもこの国の人間には想像もつかないのだろう。
次に、
「他に、何があるのですか?」
と、今度はカナヅチが尋ねてきた。それについても、雪太は適当に答える。
「自動車とかが、走ってますね」
「自動車……? それは、生き物か何かですか?」
ミスってしまった、と雪太は後悔した。この国には、自動車がないようだ。
「いや、生き物じゃなくて……、乗り物です」
雪太が説明すると二人は納得したような表情をするが、まだ何かまでは分かっていないだろう。仕方なく、雪太は自動車について二人に詳しく話した。二人は目を輝かせながら、その話を興味津々に聞いていた。クシハダも、黙って雪太の話に耳を傾けていた。
話し終えると、二人は拍手をした。こんな話は初めてだ、是非とも行ってみたい、そんな言葉が飛び出した。一方、スノーは退屈そうに欠伸をしていた。興味がないこと、まる分かりだ。
「いやぁ、今日は実に興味深い話を聞かせていただきました。また機会があれば、お話をお聞かせください」
イカヅチがそう挨拶すると、三人は帰っていった。それを見送りながら、
「とてもよいお顔をされておられましたね」
と、ウヅメが感想を述べた。結局、あの三人はただ遊びに来ただけだったのだろうか。雪太は、それが最後まで分からなかった。雪太が何気に後ろを振り返ると、またスノーの姿が見えなくなっていた。雪太に構ってもらえなかったので、拗ねてしまったのだろうか。
しかし、これも雪太にとっては好都合だった。雪太には、寄りたい場所があったからだ。帰る際、ある部屋に立ち寄った。そこはスノーの姉、アマテルの部屋だ。雪太は、彼女の顔をまだ知らない。この世界に来た時には、すでに引きこもってしまった後だった。
しばらくはここに来る機会がなかったが、最近は少し余裕ができたということもあり、時々こうして足を運んでいるのだ。雪太は部屋の外から、中にいるアマテルに話しかけた。
「今日、スノーの幼馴染が来てた。両親が俺達の住んでた世界について聞いてきたから、詳しく教えたら目を輝かせてたぜ」
そうすると、襖の隙間から一枚の紙が出てきた。雪太はそれを手に取ると、その紙にはこう書かれてあった。
『それは、イカヅチ様とカナヅチ様ですね。あの方達はとても好奇心が強いので、一度気になり始めたら、とことん追求なさってくるので、お気をつけください』
確かに、雪太も二人を納得させるのにかなりの時間を費やした。それでも、真剣に話を聞いてくれていたので、雪太にとってもそれなりに話し甲斐があった。
雪太は話題を変えて、アマテルに尋ねてみた。
「最近、調子はどうだ? 今日は天気がいいから、たまには外に出てみないか」
しかし、返事は返ってこない。紙も出てこない。それほど、アマテルは自分に自信が持てなくなったのだろうか。
アマテルが引きこもってしまった原因は、スノーにある。スノーの悪戯が酷く、帝國の人々に迷惑をかけ続けた結果、当時世話役だったアマテルが自分の部屋に閉じこもってしまったのだ。彼女を部屋から連れ出す方法はないかと、雪太はここのところそればかりを考えている。
すると、不意に誰かの気配を感じ、振り向くとそこにはツキヨミの姿があった。
「来ていたのか」
「あ、はい。すみません」
「謝ることはない。姉上のことを思って、今日も来てくれたのだろう。感謝している」
ツキヨミも、初めて会った時よりは笑顔を見せてくれるようになった。その日もまた、穏やかな笑顔で雪太に言った。笑うと、女性らしく、可愛らしくなる。雪太は、そう感じた。
ツキヨミは雪太の隣に腰を下ろすと、話を始める。
「せっかく来てもらっている君に、このようなことを言うのは気が引けるが……、姉上はまだ以前のような心を取り戻せていない。スノーの行いを自分のせいにして、自分を悪者にしてしまっている。姉上は、大切なスノーのことを庇っておられるのだ」
ツキヨミの話を聞きながら雪太は、アマテルに同情した。本当に、スノーのことが好きなのだということは明白だ。ならば、スノーをここに連れてきて謝らせるしかない。
「ツキヨミさん。スノーをここに連れてきます」
ツキヨミも、雪太が何をしようとしているのか分かったのか、歩いていこうとする彼を呼び止めた。
「待て。君の行動に水を差すようで申し訳ないのだが、スノーはまだ、原因が自分にあることを理解していない。姉上の部屋を守っているのも、そのせいだ」
ツキヨミは立ち上がると、雪太の肩にポンと手を置き、向こうへ歩いていってしまった。雪太は突然、遣る瀬無い気持ちになった。アマテルが、哀れに思えて仕方がない。スノーに、本当のことを伝えなければならない。しかし、相手に悪気がないのであればどう伝えればよいのだろう。考えれば考えるほど、分からくなっていった。
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