【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(43)




 よく見るとイノンには魔力が宿っているのが確認できる。
 それは、明らかに幼少期のイノンの魔力の器を超えているというのが分かる。

「イノン、大丈夫?」

 心配そうにイノンに語り掛けるユリーシャの言葉には優しさというモノが感じられるし、俺が知っているような傲慢不遜な態度は一切見受けられない。

「まずいわね。意識が殆どないから急がないと――」

 イノンの容態を幼いながらも冷静に見ていたリネラスの呟きに、ユリーシャは頷くが――、どこか躊躇しているというのが感じられる。

「ユリーシャ。早くしないと――」
「分かっているから」

 一瞬の時間も躊躇できないと感じたのか即断したユリーシャは両手をイノンの方に向ける。
 それと同時に、ドス黒い何かがイノンの身体から抜け出てくると同時にユリーシャの身体へと向かうが――、それを見たと同時に俺は扉を蹴破りユリーシャに向かっていた黒い液体を風刃で吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた液体と思っていた何らかの集合体は、イノンが寝ていた壁をブチ抜き外へと出ていく。

「え? 一体――、何が!?」
「ふぇ!?」

 いきなりの俺の出現に、ユリーシャもリネラスも目を大きく見開いて口を大きく開けていたが――、それをスルーして俺は宿の外へと出て、外へと吹き飛ばしたソレを見据える。

「――ば、ばかな……、我に干渉してきた……だと!? それよりも、この世界に来られるとは……、一体――何者だ! 貴様!」
「ああ、なるほど……」

 エルメキアが、何度か姿を変えていたから気が付かなかったが、俺が目の前に居るのに従属神ルーグレンスが気が付かないってことは、そういうことか。
 俺は意識的に自分の姿を相手に見せるように頭の中で念じる。
 すると、すぐに目の前の存在が不確かな水の塊のような奴は動揺の動きを見せる。

「き、きさま……、きさまはユウマ……だと!? 精神世界にまで干渉してくるとは、一体――、どんな魔法を!?」
「ふっ、言っただろう? 俺は魔王だと! 魔法の王にして魔王! その力を持ってすれば、この世界に来ることなぞ造作も無い事だ!」
「出鱈目すぎる……。何なのだ――、こいつは――」
「――さて! この俺を散々かき回してくれたんだ。そろそろ――」
「ま、待てっ!」
「――ん?」
「貴様! 我らがウラヌス教国と! そう! ウラヌス様の信者になるつもりは――」
「ないな」

 即断即決!
 そもそも俺の妹を殺そうとしている連中と手を組むなど最初から有り得ない。

「おのれ! おのれ! おのれ!」

 俺の目の前で何度も恨み節を叫ぶルーグレンス。
 その姿が、一瞬――、掻き消えるが、すぐに探索の魔法で位置を確認する。

「上空か? まさか――」

 外に出るつもりなのか?
 そうなると、いまのリネラスとイノンとユリーシャが寝ている場所には戦闘要員は殆どいない。

「まったく――」

 本来ならリネラスを一緒に連れて外に出ないと不味いが、いまはそんなことを言っている場合ではない。



コメント

  • 青花美来

    続きが楽しみです。

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  • ノベルバユーザー601714

    なろうで連載されてたのを読んでました。気に入ったので書籍版も買いました。

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