【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(40)




「ふむ……」
 
 依頼書が貼られているボードの紙を見ながら俺は思わず苦笑する。
 
「おじちゃん、どうかしたの?」
「いや、何でもない」

 俺は、掲示板に貼られている白紙の依頼書をみながらリネラスの問いかけに答える。

「それより、フィンデイカ村の冒険者ギルドは24時間営業じゃなかったのか?」
「24時間?」

 幼少期のリネラスが首を傾げてくる。
 
「ずっと営業をしている事を言うんだが……、ギルド内を見る限り君しかいないよな?」
「うん。今は、急用があってお父さんと出かけているの」
「出かけている?」
「うん。大事な薬を作る為の材料を手に入れる為に冒険者の人と一緒にカレイドスコープの方へ行っているの」
「なるほど……」

 大事な薬か。
 それにしても、冒険者ギルド長が出かけるほど重要な事なのか?
 そんな話をリネラスから聞いた事がないが……。

「何の薬なんだ?」
「えっとね……、魔力を抑える薬だって言っていたの」
「ふむ……」 

 魔力を抑える薬か。
 そうなると魔力を過剰に持つ者がいると言う事になるが……。

「誰に使うかは聞いたのか?」
「えっとね。イノンに使うの!」
「イノン? それって……宿屋の娘の名前か?」
「うん? そうだよ」
「なるほど……」

 答えてくるリネラスを見ながら大まかの予測がつくが、どうしてこんな世界が構成されているのかまでは分からない。
 ただ一つ思い至るのは、リネラスとイノンには何らかの接点が存在している。
 そして、エリンフィートも言っていたが、この世界はリネラスを取り込んだ時点で何らかの目的を持っているという事。

「まったく面倒だな」

 思わず自分の後ろ頭を掻く。
 これが現実世界なら魔法をぶち込んで終わりにする事が出来るが、精神世界である以上、無暗に干渉するのは危険。
 下手をすれば最初からという無限ループに入ってしまう可能だってありうる。
 リネラスの時には何度、同じ現象が起きたことか。
 そこを踏まえると考えて行動しないとな……。

 俺が考え込んでいるとジッと俺を見てきたリネラスが2階へと上がっていく。

「お、おい!」

 思わずリネラスの後を追っていく。
 すると、2階も暗く灯りはついていない。

「光球」

 蛍をイメージした光の魔法を発動。
 頭上に直径10センチほどの光の玉が生成され空中にとどまると周囲を明るく照らす。

「とくに、これと言ったモノはないか」

 そう思ったところで部屋の奥――、扉が閉まっている部屋から物音が聞こえてくる。
 音を立てないようにして扉に近づいたあと、扉を開けると幼少期のリネラスが何やら分厚い本を捲りながら見ていた。
 彼女は、しきりに頷きながら足元に置かれている依頼書のような物を見ては本で調べものをしている素振りを見せている。


 


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品