【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(39)




 一瞬の浮遊のあと、降り立った場所は見覚えのある場所。

「フィンデイカ村だよな……」

 周りを見渡せば、すでに日は沈んでおり噴水のある広場には光源が一切確認できない。
 以前に、リネラスと一緒に食べに行った食堂も明りが一切見えないことから、夜遅いという事だけは分かる。

「まずはリネラスに会うのが先決か」

 イノンやユリーシャの現状を確認しない限り、こちらとしても手を出しようがない。
 それに以前とは違い違和感がある。

 フィンデイカの村の中を散策する。
 中央広場から南に移動し――、冒険者ギルドのある方角へ――。

「そうか」

 違和感の正体に気がつく。
 それは、俺が通った通りが以前よりも雑多になっていたからだ。

「以前にフィンデイカ村に来た時は出店のような物は殆ど無かったよな……」

 それなのに、少し歩いただけで出店をした形跡が通りのあちらこちらに見られる。

「つまり、この世界は過去のフィンデイカの村を再現しているのか?」

 少なくとも俺が滞在した時間には、このような風景はなかった。
 ということは……別の誰かの記憶を核に、この世界は構成されているという事になるわけか。
 問題は、ソレが誰なのか? と言う事になるが――。
 思考していると、何時の間にか冒険者ギルド前に到着。

「たしか、リネラスは24時間営業とか言っていた気がするが……、どう考えても灯りは見えないし人が居る気配は……」
「おじちゃん?」

 唐突に――、忽然と真後ろから話しかけられた。
 振り返ると、そこにはエルフガーデンで見た事がある姿形の……幼少期のリネラスが立っている。

「……リネラス」
「どうして私の名前を知っているの?」

 ビンゴだ! 問題は、目の前にいるリネラスは俺の記憶を持っていないような話しぶりを見せたというところか。
 馬鹿正直に理由を答えてもいい。
 ただ、問題は……この世界の事情を知らないことだ。
 だが――、下手に手を出してループに入るのは避けたい。

 ――それに、リネラスは
「この町では有名だからな」
「そうなの?」
「ああ」

 相槌を打ちながら、俺の世界でのフィンデイカ村では有名人だったぞ? とは告げない。
 苦笑しながら彼女は冒険者ギルドの戸の鍵を開ける。

「もう夜遅いから換金はできないの」
「構わない」

 まずは依頼書を見るだけで全然違うからな。
 





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