【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(38)




 ――さて、どうしたものか……。
 正直、まだ心の中では裏切られたことに対しての気持ちというか整理は上手く出来ていない。
 これが、最初から敵対していると分かっていたなら割り切ることは簡単だったんだが……。
 それでも――。

 先ほど、妹はユリーシャとイノンを殺せばいいと言っていた事を踏まえると安易に行動を決めることは良くない。
 俺は魔王という存在をよくは知らない。
 それでも、俺の謎知識は魔王というのは残虐なモノだという事だけは提示してくる。
 つまり、他者の命を奪うことに躊躇しない可能性もあるという事。

 ――なら、俺は行うことは決まっている。

 俺は、妹を守る為に村を出た。
 そして、妹を魔王にするつもりはない。
 それなら正しいかどうかは分からないが俺が行動を見せることで妹に対して物事を教える必要がある。

 まったく兄というのは大変なものだな。

「お兄ちゃん?」

 俺は無意識の内に妹の頭を撫でていた。
 その事に――、妹の言葉で気が付く。

「アリアは可愛いな」
「えへへー」

 妹が笑顔を見せてくる。
 それを見て決心はついた。



 イノンが経営していた宿屋を冒険者ギルドへと改築した建造物。
 その中庭に到着したところで、俺は妹と共に階段を降りていく。
 
「アリア」
「どうしたの? お兄ちゃん」
「アリアが俺を迎えに来たということは、二人は――」
「まだ寝ているの」
「そうか」

 ユリーシャの中に巣食っていた従属神ルーグレンスの討伐は成った。
 だが、目を覚まさないという事は何かトラブルが起きたと見て間違いない。

 ダンジョン内に続く階段を降りていき――、空間の歪みを超えたところで周囲の景色が一変する。
 
「ここって、お兄ちゃんが作ったダンジョンなの?」
「――ん? どうしてだ?」
「だって、お兄ちゃんを感じるの……」

 たしかに、俺が攻略したダンジョンコアを使って作ったダンジョンではあるが――、そのことは妹には言っていないはず。
 それに、俺の力を感じるって……、どういうことだ?
 妹は魔法を使うことは出来ない。
 だが――、魔王としての力――、魔物などを従属させることが出来る力なんかは他との干渉に寄るから、それで感知したのか?

「そうなのか?」
「そうなの!」

 俺のあとを付いてくるようにして階段を降りてくる妹は元気よく返答してくる。
 そうしていると、降りていた階段は終わり――、ダンジョン内の通路に到着した。

「リネラスや、イノンにユリーシャが寝ているであろう場所まで急ぎ足で向かったところで数人のエルフ達が俺達の前に立つが――。

「ユウマさん。外のことは――」
「一通り目途は立った。それよりも3人の容態は?」
「はい。ユウマさんが出て行ってからと言う物、反応は一切変わりません」
「ふむ……」

 そうなると何らかの問題があるのか……。

「お兄ちゃん?」
「アリア、俺は3人の意識世界に向かう。何かあったらエリンフィートに聞くように」
「う、うん……」

 納得いかなそうな表情で妹は頷く。
 いまはそれでいい。
 俺は、頷き返しながら右手をリネラスの額に当てる。
 そして――、3人が見ているであろう精神世界へと旅立つ。




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