【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(36)
エルブンガストから、エルフガーデンまで走って移動する。
それなりの距離もある事から、時間は掛かったが――、
「ようやく着いたな」
大軍と、従属神を相手にしていたからなのか、かなり疲れた。
それでも確認しないといけないことがある。
「ハァハァハァ――」
肩で息をしながら、俺のあとを追ってきたエリンフィート。
もう既に問題事は解決したというのに、どうして無理をしてまで俺の後を追ってきているのか……。
「エリンフィート、まだ何かあるのか?」
「何もないけど――」
「ないけど?」
「ユウマ、貴方――」
「――ん?」
何を言いたいのか聞き難そうに顔を俯かせているエリンフィートを見て俺は溜息をつく。
どうして、どいつもこいつも察してくださいという感じなのか。
「イノンとユリーシャに関して、どうするつもりなの? 敵対した相手には容赦はしないって言っていたわよね?」
「そうだな――で?」
「……でって……ユウマ、貴方――」
何となくエリンフィートが俺を追ってきた理由が分かった気がする。
俺が敵対する相手には、一切容赦しなかった場面を見てイノンはともかくユリーシャに至っては完全に敵だと判定していることを理解した上で、俺がユリーシャをどうするのか聞きたいのだろう。
――だが……。
「エリンフィート、お前はエルフの長でありユゼウ王国の――、エルフガーデンに住まう土地神だよな?」
「そうよ。それが、どうかしたの?」
「――いや」
俺は頭を左右に振る。
「お前には、人間同士の諍いは関係ないんじゃないのか? 前から、ずっとそういうスタンスだっただろう? ――なら、お前がイノンやユリーシャに関して気を掛ける必要はないと思うんだが?」
「はぁ……」
俺の言葉にエリンフィートが大きいく息を吐く。
「ユウマ、貴方は何も分かっていないわね。そんな顔をして――、そんな表情で! 妹のアリアちゃんの前に行くつもりなの?」
「何を言っている?」
此奴は何を言っている?
俺の表情が何だって?
俺はいつも通りだろうに――。
「自分では気が付かないなんて――、それだけの力を持っていて本当に――、愚かなのね……」
「黙れ――」
「黙らないわ。貴方の、その力は何のためにあるの?」
――何の為だと……?
そんなの! 決まっているだろうに!
仲間だと思っていた者に裏切られて――、そしてユゼウ王国軍とユリーシャが繋がっていた。
だから――。
「邪魔する者は――」
「そう。邪魔する者は全員殺すの? 本当に、魔王として生きるつもりなの? 貴方は、何のために魔王と語っているの?」
「それは――」
「それは何? 1000年前にも、貴方と同じような人がいたわ。――でも、その人は最後には、聖女と呼ばれるようになった。だけど――、貴方はどうなの? 貴方は――」
「黙れと言っている!」
俺は右手をエリンフィートに向ける。
「そう――、憎しみに囚われて命を奪うだけの殺戮者――、魔王になるつもりなのね。誰かに裏切られたという憎しみと怒りと悲しみを晴らす為だけに力を行使するつもりなのね」
此奴に、俺の何が分かる。
何が分かるというんだ!
「ユウマ、貴方が本当に守りたい者は、その力は――」
「……お、お兄ちゃん?」
唐突に背後から、妹の――、アリアの声が聞こえてきた。
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