【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(35)
「――な、何者だ!」
やけに豪勢な天幕に近づいたところで、これまた金や銀などで華美に装飾されたハーフプレートメイルを着た男たちが叫びながら出てくる。
それぞれが、俺の姿を見た途端、腰から剣を抜いて切っ先を向けてくるが――、
「何かとは失礼だな。お前たちが、俺に喧嘩を売ってきたんだろう? まぁ、部隊は壊滅したがな」
男たちの視線が、周囲の光景を確認したところで揺れる。
「――先ほどの轟音と振動……、何かあったと思っていたが――、ま、まさか……、我らの100万の軍が――」
「たった今、倒したところだ」
「ば、ばかな……。こんな馬鹿な事があっていいのか……」
どうやら目の前で起きたことを直接見せられても理解できないようだ。
「やれやれ――」
付き合い切れないな。
とりあえず、国王とやらに会うとするか。
「――ま、まて! そこから先に進むな! ここから先は……」
「国王がいるんだろう? だから、その国王に会いに来たんだから、進むなという忠告は聞けないな。どうしても停めたいなら、その手に持っている武器でするんだな。ただしー―、俺に斬りかかって来るって事は殺されても文句は言うなよ?」
俺の言葉に――。
威圧にすらならない事実を述べただけで、貴族であろう20代から30歳半ばの5人の男たちが腰を抜かす。
「戦う気概すらないのか。これなら、一般の兵士や冒険者やウラヌス十字軍の方が、まだマシだったな」
溜息と共に天幕を開けると、40歳半ばの男が俺へと視線を向けてくる。
「お前が、エルフガーデンに攻撃を仕掛けてきて貴族達に平民への圧制を指示したユゼウ王国の国王エルンペイアか?」
「そうだが――、貴様は何者だ? ここに居るのが――」
最後まで言い切る前に風刃の魔法で首を斬り飛ばす。
その瞬間、天幕の中は血の色で染まるが、飛んできた血飛沫は全て魔法で塞いだ。
「――さて」
「ひ、ひぃ――」
天幕から出てきた俺を恐怖の対象でしか見てこない貴族達。
その様子から、もうエルフガーデンに攻めてくることはないだろうな。
「貴様らのトップは、俺が殺した。これで戦いは終わりだ。――だが……、国王の弔いということで戦うのなら、これからは殲滅戦になるがどうする?」
「……わ、わ、わかりました。す、すぐに軍を招集して撤退します」
「そうか。今度、エルフガーデンに攻めてくることがあったら、その時は貴様ら5人の首が飛ぶと覚悟しておけよ?」
俺の脅しに5人の貴族が首肯を繰り返す。
「エリンフィート」
「ユウマ、貴方……」
「何だ?」
「何でもないけど……、ここまでする必要があったの?」
「何事も中途半端は良くないからな」
何とも言えない表情をしたエリンフィートが歩き出した俺の後ろを付いてくる。
まったく色々と面倒なことだな。
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