【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(34)




 しばらく、上空で滞空し眼下を見下ろし――、膨大な濁流がユゼウ王国軍の大半を呑み込んだところで魔法を解除する。
 それと同時に、魔力で作られた水はあっという間に拡散していき引いていく。
 盆地であったのなら、しばらく水は残り続けていたと思うが、斜面になっている影響からか濁流にのみ込まれた兵士と水だけが流れていくと、その場には踝までの水たまりが残る。

 地面の上に降り立ったあとは、残りのユゼウ王国軍の方へと視線を向けるが――、誰もが剣や槍を手に持ったまま動こうとはしない。
 ただ、俺の方を見てくるのみ。

「――さて」

 エリンフィートを、泥濘の上に下したあとは敵の本陣へと向かう。

「――ち、ちかづくな!」

 圧倒的な魔法力を見せつけた事で恐怖に駆られたのか、豪奢な鎧に身を包んだ指揮官であろう人物が俺の方へと槍の穂先を向けながら叫んでくる。
 その言葉は、恐慌すら含んでいるようにも思えるが――、

「先に、手を出してきたのはお前らの方だろう?」
「――き、貴様は! 貴様は! 一体!」

 男の言葉に俺は足を止める。

「俺の名はユウマ! 魔法を司る魔王ユウマだ!」
「……ま、まおう……。こ、これが――、巫女姫様が、仰られていた……、化け物め!」

 震える声で指揮官と思われる男が呟くと、男が手を上げる。

「神聖魔法で封印しろ!」

 男の言葉と同時に、無数の魔法陣が空中に展開されていく。
 それらは見た事が魔法の形であったが――、一瞬で魔法陣に組み込まれている魔法文字を視るが見た事がない魔法形式。
 
 ――だが。

「この魔法は、魔王を封印する魔法だ! 我らの力となって働いてもらうと――」

 最後まで言い切る前に男の体が横一閃に真っ二つに分かたれる。
 そして――、少し遅れて辺りには血がまき散らされた。

「ひぃいいいい。ローデイル大司教様が!」
「大司教?」

 白で統一されていたプレートメイルを着ていたから神殿騎士か何かだと思っていたが――、どうやら神官だったようだ。
 まぁ、これから殺す奴の情報なんて俺には関係ないがな。

 俺は正面に展開されている魔法陣へと視線を向けると同時に、殆どの兵士が白のプレートメイルや神官服を着ていることを確認。
 おそらく前線は、利用していたユゼウ王国軍を利用して消耗を避けていたのだろう。

 だが――、どちらにしても……。

「さっきの魔王を封印すると言った魔法。それを――」

 俺の妹に使って、俺の妹に手を出すというのなら! こちらも手を抜くことはしない。

「流星!」

 地表から数万キロメートルの上空に、無数の直径数センチほどの鉱石を作りだすと同時に、音速を超えた速度で地表目掛けて降下させる。
 そして――、俺を含めたウラヌス教国の連中を、大地ごと吹き飛ばしていく。
 少しの後に残ったは、ユゼウ王国軍の本陣の天幕だけであった。
 
「――さて、国王に会いにいくとするか」


 

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