【書籍化作品】無名の最強魔法師
記憶の竪琴(32)
「全軍!」
ベイツが手を上げると共に、後方から数百人のレザーアーマーを着た兵士が駆け寄り片膝をつくと弓矢を番えてくる。
それは、クロスボウであり――、
「放て!」
――ベイツの手が振り下ろされると同時に数百もの矢が風を切り飛来してくるが――、エリンフィートの方を見るとショックから立ち直れないのか呆然と立ち尽くしたまま。
まぁ、今まで国教として崇められていたのだから、その聖地を土足で踏みにじってくるような蛮勇を犯した連中を見て理解できないのは分からなくはない。
――だが!
「土壁!」
頭の中で、起きる現象――、即ち事象を想像すると同時に本来なら頭の中で編み込む魔法発動媒体である漢字を口に態々(わざわざ)出しながら魔法を発動させる。
矢が到達するまでの1秒にも満たない時間の間に、到達するであろう矢と俺とエリンフィートが経っている場所の間に土壁が作られる。
そして――、
「ば、馬鹿な!?」
「魔法発動の為の魔法陣を空中に展開していなかったぞ? どうなっているんだ!?」
「それどころか魔法の詠唱も聞こえ――」
クロスボウの矢が土壁に刺さる小さな音だけ連続して聞こえた後に、兵士達の戸惑いの声が辺りを支配する。
「ユウマ」
エリンフィートが、信じられないと言った表情で俺を見てくる。
そこには、普段の高慢でいけ好かない土地神の表情はない。
「エリンフィート、お前が何を考えているのかは分からないが、これが戦争であり戦いだ。そして戦争には利益が絡み合い、そして戦いには狂気が付き纏う。だから――」
俺はエリンフィートを囲うように鉄壁を作りだす。
エリンフィートは、自身を囲っていく鉄壁を見て――、「待って! ユウマ! 彼らは、ユゼウ王国の民なのよ?」と言ってくるが――、「お前にとっては、エルフ族が民じゃないのか?」と、俺は返しておく。
事実、コイツはエルフガーデンに住まうエルフを利用しエルフの為の国造りをしてきたのだから。
そこに人間が介在する所なんてまったくなかった。
「……それは……」
「それにな。お前にとっては、お前を崇拝するユゼウ王国の民かも知れないが――、俺にとって只の敵に過ぎない」
俺は断定する。
敵は殲滅する。
――そう、殲滅し禍根を残さないことが自分の身を守るためになる。
俺は、そうアライ村で痛感した。
俺が、アライ村の北で――、生者の森でウラヌス十字軍を殲滅しておけば――、何の憂いも無かった。
何の被害も周辺の村にも、俺の身内にも影響することはなかった。
――だから!
「お前が、何を言おうとアイツらは俺に敵対した。それ以上でも、それ以外でもない」
俺は、エリンフィートが邪魔をしないようにと――、そして彼女に害が加わらないようにと金属製の壁で彼女の周囲を覆ったあと――、先ほど作り出した壁を破壊し抜刀して近づいてくる兵士達へと視線を向ける。
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