【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(31)



 仕方なく立ったまま待つ。
 これが戦意があるのなら攻撃を加えることも出来たが――、さすがに戦う意思がない者と剣を交えることはできない。

「まさか……、これが世界の理が変革されると――、エリンフィートが言っていたことか?」
「ハァハァハァ……、そう……です」

 どうやら、走って追いかけてきたのか振り返ると肩で息をしているエリンフィートが立っていた。

「追いかけてきたのか?」
「もちろん……です。それより――、どうやら最悪の事態は回避できそうですね」

 安堵の言葉がエリンフィートの口から洩れるが――。

「何を言っている?」
「――え?」
「いまは相手に戦う意思が無いから攻撃を仕掛けていないだけで、相手が攻撃を仕掛けてくるのなら容赦なく叩く」
「あなたは……」
「勘違いするなよ? 世界の理が、どんなに変わろうとエルンペイアと、それに追従し権力を使い弱者を食い物にしたという事実は変わらないからな。俺から言わせてもらえば、どんなに世界の理が変わろうと――、人間の本質は変わらない。基本的にな……」
「そんなことは……」
「無いと言い切れるのか?」

 探索(サーチ)の魔法を発動させながらエリンフィートと話をしていると、色が灰色から敵対の赤へと変わっていく映像が脳裏に映り込む。
 どうやら、話し合いをした結果――、俺の敵になるのは決定したようだな。

「それは……」
「エリンフィート、お前だって人間の醜悪ぶりは見ているんだろう? 同胞が殺されて――、そして人間は人間同士で憎しみ合い殺し合う。そこに正義なんてない。ただ――、自分達の欲望が存在するだけだ。だから――」

 俺は飛んできた矢を素手で受け止める。

「こういう事も平気で人間はする」
「ユウマ……」

 ――さて、エリンフィートと話すことはもうない。
 それより……。

「ベイツ、俺に向けて矢が飛んできたが――、これは宣戦布告ってことでいいんだな?」

 兵士の間から割って姿を現した男に視線を向けながら確認する。

「よく避けたものだ。エルンペイア様は、エルフガーデンとエルブンガストの惨状を見てエルフを殲滅することに事に決めた」
「――だ、そうだ」

 俺はエリンフィートへ話を振るが――、「嘘でしょう? ここは、国教のエリンフィートが治めている聖地なのに……」と、ショックを受けているようだが……、俺にとっては想定の範囲内。

「エルフを殲滅ってことは、亜人種族などを認めない――、そういうことか? そして、偶々――、大群を抱えているから実行に移そうと考えている――、そういうところか?」
「貴様……」

 どうやら遠からずと言ったところのようだな。
 まぁ、俺が為政者なら国内の有力な言う事を聞かない部族は滅ぼすからな。
 今までエルフガーデンが見逃されていた方が特殊のようなものだ。


 
 

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