【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(29)




「……なんてことを……」

 太陽光を収束させ作りあげた数万度の灼熱の光――、それが作りだした光景は前方に融解した大地の慣れの果て。
 それを見ながらエリンフィートは、呆然と呟く。

「ユウマ! 貴方、自分が何をしたのか分かっているの!」
「分かっている。敵対した相手を殺した。それだけのことだ」
「それだけって……」
「エリンフィート、お前は世界の理が変革されると言っていたが――、俺にはそんな事は一切関係ないことなんだよ」

 俺は、アライ村で起きた出来事を思い出す。
 最初にウラヌス教国の軍隊を森の中で見つけた時――、あの時に――、あの軍隊を殲滅しておけばアライ村が戦火に――、妹がウラヌス教国に目を付けられることは無かった。
 
 いまの俺がユゼウ王国に居て、妹が一緒に居て――、妹が両親から離れているのは――、全て、俺の甘い判断ミスが起こしたことだ。
 敵対する相手に自ら手を下す事もせずに、命を奪うこともしなかった結果――、アライ村を危険に晒した。
 それだけではなく周囲の村にも迷惑を掛けた。

 全ては、俺の甘い考えが――、俺の人の命を奪うのが嫌だと言う忌避感が生んだ……、その危機感の無さが引き起こした問題に過ぎない。

「ユウマ……」
「お前が、何を言おうと俺は、俺に敵対した者には手加減をするつもりはない。相手を生かして報復されないとは限らないだろう? もし――、それで本当に守りたい者を守れないなら、どんなに巨大な力を持っていても無意味だし意味がない。だから――」

 俺は一端、口を閉じる。
 そして……、

「お前は、俺に関与してくるな。お前にもエルフガーデンのエルフを守るという大前提があるんだろう?」
「そうだけど……」
「――なら、サマラ達の件は戦闘力だけ見れば、もう問題ないだろう? もう、俺の力は必要ないはずだ。それに――」

 俺は、東北の方へと視線を向ける。
 その方向は、エルフガーデンに入る際に通る谷であり入口のある方角――、エルブンガストが存在する方向。

「エルンペイア王が率いる国軍は、まだ残っているみたいだからな……」
「それって――」
「ユゼウ王国を支配している実質の支配者だろう?」
「そうだけど……」
「そして、エルフガーデンに攻めて来たってことは俺の敵ってことだ」
「ユウマ、待って!」
「――ん?」
「どうするつもりなの?」
「どうするも何も相手は俺達を殲滅する為に来たんだ。――なら、俺がすることは一つだろう? 殲滅戦を仕掛けてくる相手には殲滅戦で仕返す。自分達が、有利だからと殺しにきているのに、自分達が殺されないと考えるのは――、傲慢っていうものだろう?」
「――ユウマの力なら、追い返す事も……」
「エリンフィート。アライ村に居た時の俺なら、それを考えたかも知れないが――、いまの俺は、そんな甘いことを考えはしない。敵対してくるなら徹底して叩く。それ以外は、必ず禍根を残す」

 エリンフィートが何とも言えない表情をするが――、俺に何を求めようと考えは変わらない。
 俺には守る者が居るし、何より中途半端に手心を加えて仲間に危害があれば、それは――。

「お前は、エルフガーデンに戻っていろ」

 身体強化魔法を発動。
 そして――、エルンペイアの軍に向けて俺は走り出す。




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