【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(26)




 ウラヌス教国が信仰している神たるウラヌス――、その従属神であるルーグレンスを視界におさめながら一歩ずつ近づく。

「――き、貴様は一体……、何者だ! ただの魔法師ではないはずだ! メディデータの精神世界に干渉し、そして力を振るう存在など……、普通の魔法師に出来るわけがない! 魔王ですら聖者ですら不可能なはずだ! 貴様は一体!」

 外の世界で戦っていた時とはうって変わって余裕が消えているルーグレンスは、幼女として存在しているイノンを盾に俺から離れようと後退りするが――、すぐに壁に突き当たる。

「何故だ! 何故! 世界が私の干渉を受け入れない! 何故だ! エルメキアは一体何をしているのだ!」
「エルメキアなら――」

 俺は、小さく息を吐く。

「俺が殺した」
「――な!? 貴様が……。あれが精神世界で敗れるというのか……、そんなバカな……」

 俺は、イノンとユリーシャと距離を詰めながら動揺を見せるルーグレンスに体と精神を食われて操られているユリーシャを見たあと――。

 ――身体強化の魔法を発動。

 体内の細胞全てが、一瞬で強化され生体電流の流れから全てが高周波電圧へと切り替わる。
 それにより思考速度と移動速度が常人の数十倍に跳ね上がり――。

「――なっ!?」

 従属神ルーグレンスが、視認するよりも早くイノンとユリーシャに肉薄する。
 左腕でイノンをユリーシャから引き剥がしながら右手の掌底でユリーシャの鳩尾を打ち付ける。
 それと同時に、空気の塊である【風破】を展開――、衝撃を発生させることでユリーシャの体を壁ごと吹き飛ばし宿屋から遥か後方へと吹き飛ばす。

「ぐはっ――、バカな……、この世界で魔法だと……。しかも肉体強化の魔法まで使ったと言うのか……。法則を――、世界の法則を無視している……。このままでは……」

 血を吐きながらルーグレンスは俺を睨みつけてくる。

「待て! 止まれ! この体は、貴様の仲間――、イノンの姉の体と精神だぞ! 私を殺せば! どうなるかくらいは分かっているだろう!」

 無言で、ユリーシャの顔に蹴りを入れて吹き飛ばす。
 ガードなんてさせないしさせるつもりもない。

「ああああ――。き、きさま……、仲間の――ゴフッ」

 最後まで言わせる前に腹を殴り空中に吹き飛んだところで、俺も跳躍し後頭部に蹴りを落とす。
 
「仲間が何だって?」

 俺は肩を竦めながら言葉を返す。

「――ガハッ……、なん……だと……」
「お前自身が言ったんだろう? ユリーシャの精神と肉体を食らったと――、なら――、そいつはもうユリーシャの精神でも肉体でもない。それに――、貴様は俺に喧嘩を売った」
「バカな……、人間は仲間を攻撃できないはずでは……」
「生憎だったな。俺は、俺の敵になる者は徹底的に潰すつもりなんでな。貴様は、ここで殺す!」
「ひいっ!」

 恐怖で錯乱したのかユリーシャの体が突然、崩れるようにして――、その場に倒れる。

「リネラス! ユリーシャのことは任せた」
「――え? ユウマ!? 私を置いていくつもりなの!?」

 宿屋で、幼女たるイノンと此方を見てきていたリネラスが間髪入れずに答えてくるが――。

「ユリーシャの精神体の治療は終えた。あとは――、お前もこの世界ですることがあるんだろう? 俺は、従属神ルーグレンスを追う」
「……分かったわ」

 リネラスが頷くのを確認すると同時に、俺は元の世界への帰還を行う。

 


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