【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

記憶の竪琴(16)




 冒険者ギルドから貰ってきた依頼書を見ながら、近くの依頼主の家に向かう。

 そこはフィンデイカの村の外周部に当たる場所。
 俺が現実世界のフィンデイカの村で湖を作った場所から近い。

「ここの建物に依頼主がいるのか」

 到着したのは小さな通りに面した一軒家。
 まだ新しく見える。
 どこを補修するのか一目見ただけでは分からないな。

 ――ドンドン

「なんだね?」

 何度か扉を叩くと不機嫌そうな声と共に扉が開く。
 出てきた男は髭面の40歳ほどの強面の男。
 横幅は俺の3倍はある。

「フィンデイカ村の冒険者ギルドから依頼を受けてきたんだが?」
「――ん? お前のような子供がか? そっちのやつじゃなくて?」
「ケインは俺の部下のようなものだ。俺が依頼を受けて完遂させている」
「ふむ……、冒険者ギルドマスターのコークには建築に長けている職人を寄越すように言っておいたんだが……、年を取って耄碌したのか……」
「ヤレヤレ、こう見えても俺様は建築についてはちょっとしたもんだぞ?」
「何? どう見てもお前は子供しか見えないぞ?」
「人は見かけだけでは判断したらいけないと言う事を教えてやろう」

 後ろでケインが、どうしてお前はそんなに上から目線で依頼主に話しているんだ! と叫んでいるが、そんなのは知ったことではないな。

「ほう? なら、補修場所を教えてやろう」

 男のあとを着いていく。
 もちろんケインも溜息をつきながら俺と依頼主の後ろをついてくる。

「この建物だ! 今度、店をしようと思うんだがお前さんの自身のある建築技とやらで何とか出来るか見せてもらおうじゃないか」
「どんな仕事に使うんだ? 用途が分からなければ何にも出来ないぞ?」
「ふむ――。今度、酒場をしようと思っている。この村には食事処が少ないからな」
「なるほど、酒場だな!」
「ああ、お前さんの実力とやらを見せてもらおうか? もちろん! 納得をすれば金は払う。納得できないときは――」

 ふっ――、この俺様は巨大な大聖堂すら一人で作った実績があるんだぞ?
 そんな俺が、たかが村人一人からの注文を受けて満足に作れないわけがないだろうに――。

「いいだろう。その時は、ただ働きで建物を進呈してやろう」
「よし、それじゃ2か月後に見にくるから頼んだぞ! それと俺の名前は、コルタックと言うからな」

 そう言うと、コルタックはボロボロの町はずれの倉庫を後にした。
 姿が見えなくなったところで「どうすんだよ! 相手を満足させるって! 細かい打ち合わせもしないで無理だろう!」と、ケインが叫んできた。

「ケイン、お前は何も分かっていないな」
「――何?」
「俺は、こう見えても建築に関しては色々と知識を持っている。そして酒場と言えば決まっている!」
「……何をするつもりだ?」
 




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