【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

戦闘開始(2) 魔王アリアside





「あー、お兄ちゃん。何しているのかな……。ねえ、スラちゃん、お兄ちゃんは性的に襲われていない?」
 
 アリアの問いかけに頭に乗っていたスラちゃんことスライムはぷるぷると体を揺らす。
 スラちゃんとしては、ユウマと敵対関係に近いエリンフィートがユウマと男女の仲になる事は無いと見ていた。

「(問題なし)」
「そう、それならいいんだけど……。お兄ちゃん、カッコいいから……」

 アリアは、そういうとユウマが妹のために作った服――、スカートの中から布切れを取り出す。
 それは広げると男物のTシャツであった。
 もちろんTシャツなんて概念は、この世界には存在していないのでユウマが妹の服を作った時に一緒に作ったもの。

「スー、ハー、スー、ハー」

 アリアがTシャツに顔をつけて何やらかぎ始めた。

「お兄ちゃんの匂いいいよおお」
「(……この妹、早くなんとかしないと駄目だ)」

 スラちゃんは、アリアの頭の上でぷるぷると体を揺らしながら思考する。
 
「(アリア、ユゼウ王国軍と分身が激突した)」
「そうなの?」

 スラちゃんからの報告にTシャツの匂いを嗅いで悦に浸っていたアリアが首を傾げる。
 少しだけ人よりもほんの少しだけ違う嗜好を除けばユウマの妹であるアリアは美少女なのだが……。
 その嗜好が、とても残念な方に全力で天元突破している。
 本人は隠しているつもりであるが、スラちゃんにはバレバレだ。

「(ぷるぷる)」
「どのくらい持ちそうなの?」
「(殲滅前提なら1時間)」
「そう。じゃ殲滅で!」
「(待て! 主よ。ユウマは、殲滅は求めていないのではないのか?)」
「えー。お兄ちゃんの敵はアリアの敵なの! アリアの敵は慈悲なく殲滅が最優先って決まっているの! 中途半端に手心を加えるなんてアリアとお兄ちゃんの将来のために良くないの!」
「(…………わかった)」

 もちろんスラちゃんには相手を殲滅する気は毛頭ない。
 遠距離でスライム達を操りながらユゼウ王国軍を包囲するように指示を分身に出したところで「敵の船発見なの! レッドドラゴン部隊突撃! 薙ぎ払えなの!」と言うアリアの声が空域に木霊する。

 ――そう。
 現在、アリアとスラちゃんは手懐けた無数のレッドドラゴンとワイバーンを従えて空を飛んでいたのだ。

 数百匹ものレッドドラゴンの咆哮が、アリアの命令と同時に周囲に鳴り響くと炎の閃光が空を飛んでいた船を破壊する。
 たった一回の――、無数のドラゴンのブレスでウラヌス教国の1000を超える艦隊は半壊していた。



 そして、その艦隊を指揮していた男――、ウラヌス教国のウラヌス教司祭は一瞬にして艦隊の半数を失ったことに茫然としたあと「ユーガスは居るか!?」と、捲し立てる。

「ベンアウード様」
「ユーガスか! 一体、どうなったというのだ!?」
「詳しいことは分かりませんが、我々の進行を邪魔するかのようにドラゴンが配置されており突然、攻撃を受けました」
「なん……だと……、名乗りも無しなのか? いきなり攻撃をしてきたというのか!? 非常識ではないのか!」
「わかりませんが……、ユウマという男が居るという情報がユゼウ王国の国王側近から入ってきています。おそらく奴かと――」
「奴か!」

 ユーガス・ガルウの説明にベンアウードは手に持っていた司祭の証である杖を甲板上に投げつけた。

「おのれ! このまま本国に帰れるわけがない! このままでは聖女様に申し開きが……。ユーガス! 例のアレを使え!」
「ま、まさか……、試作段階の魔力収束砲を!? まだ実験段階で実践には投入は早いと聖女様が仰って……」
「ええい! うるさいわ! このまま撤退をすれば私の進退に影響するだろうが! さっさと用意をせんか!」
「――は、はっ! お前ら、魔力収束砲の用意をしろ! ドラゴンを殲滅する。 艦隊を旗艦の盾にして時間を稼――「ユーガス様! 強大な魔力収束を感知! 地上です! な、なんだ!? この巨大な魔力は……」……なんだと!?」

 兵士の言葉にウラヌス教国の十字軍騎士であるユーガスだけでなくベンアウードも地上へと視線を下ろす。
 そこには200メートルを超す巨大なスライムが存在していた。



「スラちゃん! ファイナルスライム砲用意! 魔力を収束! 全ての艦隊を殲滅なの! 薙ぎ払え!」

 カッ! と言い音と同時に、巨大化したスラちゃんの口から直径100メートルを超える白い魔力収束砲が放たれる。
 魔力収束砲は、一直線に空域に展開していた空中戦艦を破壊していく。
 それは、無慈悲なまで殲滅していく。
 その様子からは一切の妥協も許さず自分に敵対した相手を一人残らず殲滅すると言う意志が見えた。

 1分も満たない時間で、侵攻していたウラヌス教国の空中戦艦、1000を数える艦隊が消滅した。
 その様子をスラちゃんは見ながら溜息をつくと同時に分裂すると落ちてくる兵士達を自分の体をクッションにして救っていたのだが、それは主であるアリアには内緒であった。



 

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