【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(26)




 ダンジョンの階段を降りたところで妹が足を止める。
 すると、俺の顔を見てきた。

「お兄ちゃん、床の一部だけ黒いの」
「魔法の影響だな。さっき俺が使った雷の魔法は、物体に抵抗があった場合に熱を発生させる。そのことで物質が変化して色合いが変わることがあるんだ」
「へー。」
「そうだ、たとえば寒い日に手を擦り合わせると手が暖かくなるだろう?」
「うん」
「つまりだ。物体というのは互いに擦り合わせることで熱を生み出すことが出来る。そして、それは全ての物質に共通する」
「……アリア、良く分からない」

 妹がムスッとした表情をして話かけてくる。
 たしかに説明内容としてはザックリとしすぎている気がする。
 俺の場合は生まれた時から、多くの知識が存在していたが、妹の場合には、それがない。
 基礎と呼べるべきものが無いのに、どうやって説明していいものか……。俺は自分が上手く説明できないことに溜息をつく。

「自分では納得して理解しているつもりでも人に説明するのは難しいな」
「別にいいの。でもお兄ちゃんの魔法ってすごいの」
「そう……だな――」

 アライ村に居た時には気がつかなかった。

 ――嫌。
 エメラダだけが、俺の魔法の異常性に気がついていたか……。

「それよりもエルフと会うの?」
「ああ、サマラというエルフだがダンジョンで村を守れるくらいに強くなりたいと言ってきたから、ダンジョンで修行できるように便宜を図ったんだ。エリンフィートからも頼まれたからな」
「エリンフィートって、セレンちゃんやセイレスさんを見捨てたエルフの族長のこと?」
「まぁ、人聞きは悪いけど間違ってはいないな」

 俺の答えに妹が興味無さそうに「ふーん」と答えてくる。
 
「えっとね! 良く分からないけど、エリンフィートって人の事は、私は好きになれないの」
「ふむ……」

 まぁ、エリンフィーとは土地神だから人じゃないけどな! と言う突っ込みはしないでおく。

「――さてと、とりあえず周囲を調べるとするか」

 周囲に魔物やサマラ達が居ないかどうかを【探索】の魔法を発動させて調べていく。
 かなり遠い位置――、サマラ達と以前に別れた大部屋に彼女達うの反応を見つけることが出来た。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

 魔法を発動させて迷宮内を調べていると俺の裾を妹が掴んで引っ張ってくる。

「どうかしたのか?」
「えっとね。リネラスさんや、スラちゃんから聞いていたのと迷宮の雰囲気が少し違うと思ったの」

 妹が、自分自身の唇に人差し指を当てながら周囲を見渡し話しかけてくる。
 
「雰囲気か……。たしかに海の迷宮リヴァルアと比べたら違うのかもしれないな」
「海の迷宮リヴァルア? それって、リネラスさんが言っていた……、お兄ちゃんが攻略した迷宮のこと?」
「そうだな……。海産物系の魔物がたくさんいた。そして美味しかった」
「美味しいって魔物を食べたの?」
「そうだな」

 俺の答えに妹の頭の上に乗っていたスライムがプルプルと体を動かしていたが、さすがにスライムを食べるつもりはないし、食べたくない。

「そうなの……」
「ちなみに、ここの迷宮は、そんなに魔物は出てこない」
「そうなの? でも、お兄ちゃんが作った迷宮だし、普通とは違うかも……」
「まぁ、ここは出来立てのダンジョンだからな。普通のダンジョンとは少しばかり赴きが異なるかも知れないな」
「そうなの?」
「ああ、たぶんな……、それより外とは時間の流れが違うから速く進むぞ」
「わかったの」

 妹が迷子にならないように手を繋いだままサマラ達が居る部屋の方へ向かう。
 しばらくして途中で封鎖されている通路が見えてきた。

「お兄ちゃん、これは?」
「さて、なんだろうな……」

 さすがに逃走防止用の壁とは妹には言えない。
 俺は魔法で通路を封鎖していた壁を撤去して部屋の中へと入った。
 そこには以前と同じ広大な空間が存在している。

 ――ただし、その広大な空間の状態は昔とは異なっていた。

「お兄ちゃん……、エルフって知的な種族って聞いていたの……」
「痴的なら分からなくもないな」
「何だかお兄ちゃんの言葉のニュアンスが少し違う気がするの」
「気のせいだろ」
  
 俺は目の前でレッドドラゴンを追いかけ回しているエルフ達を見ながら妹の問いかけに言葉を返す。

 それにしても――。
「ヒャッハー、ドラゴンは殲滅だー」と、叫んでいるエルフ達を見ると、これからエルフガーデンは大丈夫なのだろうか? と、少しばかり心配になってしまうな。 





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  • ウォン

    ヒャッハー

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