【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(25)




 エリンフィートとセレン、セイレスを横目に俺は中庭へ移動する。
 俺が食堂から抜け出す時も誰も俺に語りかけてくることは無かった。
 まぁ――、クルド公爵邸での問題は全てエリンフィートの失態だからな。
 色々な問題が絡み合っていたとはいえ。

「お兄ちゃん!」
「うお!?」

 誰も追いかけてくるとは思わなかっただけに、後ろから声を掛けられたことに俺は驚いた。

「ど、どうしたんだ? アリア」
「お兄ちゃんが食堂から出て行ったから、どこにいくのかなって思ったの」
「ああ、それか……。今からダンジョンに潜ろうと思っていてな」
「ダンジョンっておにいちゃんが作ったやつ?」
「まぁな……」

 最初は、リネラスが私腹を肥やそうとしてダンジョンコアを起動しようとしていたが、出来ずにいた。
 そして、彼女の巧みなお願いによりを聞いて俺がダンジョンを作ったわけだが……。
 俺が思ったとおりモンスターが配置できず放置状態になった。
 つまり、当初の海産物を手に入れて食料にするという案が水泡に帰してしまっている。

 俺から言えば黒歴史といっていい。
 
「アリアもいく!」

 妹が右手を上げて自己主張してくる。
 
「ダメだ。ダンジョンは何があるか分からないからな。大事なアリアに何かあった父さんや母さんに何て言ったらいいのか……」
「大丈夫なの! スラちゃんだっているし!」
「うーむ」

 さすがに、俺が作ったスライムが優秀だと言っても連れて行っていいかどうかは判断に迷う。
 もしアリアに何かあったらダンジョンを丸ごと消し去っても釣り合わない。
 妹は、頭の上に乗せているスライムと話をしているが――。

「お兄ちゃん!」
「どうした?」
「スラちゃんが、私ならダンジョンに入っても大丈夫って言っているの!」
「ふむ……」

 俺は妹の頭の上に乗っているスライムに視線を向ける。
 すると、スライムは体をぷるぷると振るわせた。

 ――ぼく、悪いスライムじゃないよ! とか言っているのだろうか?
 スライム言語は俺には分からないが、妹が俺に嘘をつくわけがないからな……。

「仕方ない。アリアが、そこまで言うなら着いてきてもいいけど……、いくつか約束しろよ?」
「何?」
「まず、危ない物には近づかない」
「うん」
「変な生き物には触らない」
「うん」
「俺から離れない」
「うん」
「この3つが守れるなら着いてきていいぞ」
「大丈夫! 私、お兄ちゃんとの約束は絶対に守るから!」
「――そ、そうか……」

 そこまで言い切られると俺の方としても無理には断れないな。
 
「それじゃ、ほら――」
「うん!」

 妹は俺が差し出した手を握りしめてくる。
 それと同時にこっそり妹が来ているワンピースの繊維をナノカーボンチューブへと魔法を使い変化させた。
 もちろん、妹の柔肌が傷つかないように内側には薄い絹の繊維を張り付けてある。

「ふっ……」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」

 一瞬、俺の裁縫魔法スキルもかなりのレベルまで上がったなと自画自賛してしまったところだ。
 妹と手を繋いだまま階段を下りていく。
 ある一定まで階段を下りると景色が切り替わる。
 空間が切り替わった証拠だ。
 ここからは、ダンジョンエリアに入ったことになる。

 俺は階段の下に手を向ける。
 気配察知の魔法を展開しているが、とくにサマラ達の反応はないし魔物と思わしき反応もないが、念のためだ。

「ライトニング!」

 俺は、階段斜め下方に向けて電子振動を発生させ作り出した電気の塊を打ち出す。
 雷と同じ効果を持つ光がダンジョン内の階段を黒く焦がしながら下方に落ちていく。

「お、お兄ちゃん!? いまのは?」
「ああ、へんな病原菌がいたら困るからな。アリアは大事な妹だからな」
「大事! えへへ……」

 何だが知らないが、手を繋いでいただけなのに妹が俺の腕に抱きついてきた。
 やはり、ダンジョン内では多少、緊張があるのかも知れないな。
   
「アリア、すまないな」
「――ふぇ?」
「いや――。俺にとって上にいる奴等は仲間だが、アリアにとってそうじゃないだろ?」
「そんなことないの! お兄ちゃんが大事にしているならアリアも大事にするの! でも、アリアとしては、アリアを大事にしてほしいかな……」
「そうかそうか」

 俺はアリアの頭を撫でる。
 すると妹は嬉そうな表情を俺に見せてきた。





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