【書籍化作品】無名の最強魔法師
絡み合う思想と想い(16)
「どうするのじゃ?」
「クエストを受けようか?」
「別に良いが、町を一つ養うほどの水の確保じゃぞ? 金貨300枚では割りに合わないと思うのじゃが……」
おいおい、分かっていて俺にクエストを受けさせようとしているのかよ。
強かなやつだな。
まぁ、こちらも纏ったお金が大至急ほしい。
利害の一致というところで問題ないだろう。
「問題ない。伊達にSランク冒険者はしてないからな」
「ふむ……それでは現場まで案内しよう」
コークに案内されたところは、フィンデイカ村の溜池――小さいが貯水池とも言える。
以前は、殆ど水がなかったが今は8割ほど水が張られており、すぐに水が足りなくなるということは無さそうだ。
「この池がフィンデイカ村の水に関しての生命線になっているのじゃが、夏場は水が枯れてしまうのじゃ、何とかならんかの?」
「何をしてもいいのか?」
「何をしても良いが、どうするつもりじゃ?」
「決まっている!」
俺は地面に手をつけたまま、地面の構造を魔法で操作する。
それと同時に、周囲には地震が発生し、足元に亀裂が走っていく。
「な、なんじゃ!? お主、何をしたのだ?」
「少し黙っていろ! 舌を噛むぞ!」
俺はコークの襟元をつかむと身体強化魔法を発動したまま地面を蹴りつけて跳躍する。
村の遥か上空まで跳躍したところで足元へ視線を向けた。
そこには地面が崩壊していく姿があり、しばらくしてから巨大なクレーターが出来上がる。
地面へ降り立つと「これは、一体……、どういうことだ?」とコークが詰め寄ってくるが俺は「水を入れるためには受け皿が必要だろ?」と肩を竦めながら即答した。
さらには頭の中で大気の原始配列を変換し分子の再結合を行う化学式を思い浮かべる。
そして力ある意思を命令として下す。
すると、上空から水が降り注いできた。
それは、まるで滝であり轟音が辺りを包み込む。
あとは、対岸が霞むまで拡大されたクレーターに、水が蓄えられれば俺の仕事は終わりだ。
前回も同じことをしたから大体の作業終了時間は予測がつく。
それにしても、さっきからコークが俺を睨んで来ているんだが、何か問題でもあったのだろうか?
「何か問題でもあったか? とりあえず何でもしていいと言われたから行ったんだが?」
俺の言葉に、コークが大きなため息をつくと「……お主、本当に……人間か?」と問い掛けてきた。
どこから、どう見ても人間以外の何に見えるというのか?
たかが湖を作っただけで人間か? と言われるとは思わなかったな。
まぁ俺のほうとしても貰えるモノがもらえれば問題ないから、別に何を言われようと気にしない。
その日、達成金の半分である金貨150枚を冒険者ギルドでもらった俺はリネラスと合流してフィンデイカ村に唯一、存在する商館に泊ることになった。
さすがにイノンの両親が経営している宿屋に泊まるのはリスクが高すぎる。
せっかく順調にいっているのに、危ない橋を渡る必要はないだろう。
そして、リネラスと俺は現在、商館が用意してくれた食事を口にしていた。
食堂も併設されているらしいが、誰が俺たちの話を聞いているか分からない。
不特定多数の人間がいる食堂に居くのは得策ではないだろう。
「さすが、ユウマというか何というか……、精神世界なのに湖なんて作って大丈夫なの? それよりも、よくそんな大規模な魔法が使えたわね?」
「そういえば、そうだな……」
リネラスのときは、小規模の魔法を使う時さえ色々と制約があったというのに、イノンの時は自由に魔法を使うことができる。
これは、人によるものなのか…・・・それとも、別に何かがあるのか。
「とりあえず、私は明日からイノンとユリーシャって子供の話を市場中心に重点的に探ってみるわ。ユウマは路地裏とかきな臭い場所での探索をお願いね」
「分かったが、リネラス……」
「――な、何よ?」
「下手な真似をして撒き戻しだけはするなよ?」
俺の言葉にリネラスは小さく溜息をつくと「それは私のセリフだから! ユウマこそ問題を起こさないでね!」と釘を刺してきた。
やれやれ、俺は手を出されなければやり返さない平和主義者だと言うのに酷い言われようだ。
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