【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

絡み合う思想と想い(7)

「くそっ……」

 俺は額に手を当てながら考える。
 リネラスの祖父が、今回のユゼウ王国内の冒険者ギルド崩壊の一端に絡んでいるのは間違いない。
 問題は、その魔物を生み出す場所が分からないことだ。
 こんなことならリネラスの精神世界に入り込んだときに、出会ったあの男――。
 リネラスの祖父を問い詰めておくべきだった。
 そうすれば、ウラヌス十字軍が、どうして魔物を生み出す建物に固執しているか分かって……。
 いや、まてよ?

「まさか……」

 無意識に俺は、口元を手で隠す。
 ――よく考えろ。 
 魔物を生み出す施設。
 どうしてウラヌス十字軍が魔物を生み出す施設を欲したのか。
 魔物を生み出す場所を手に入れても制御できなければ意味がない。

 だが、唯一つだけ、それを可能にする方法がある。
 それは妹の魔物を従わせる特性を使うこと。
 つまり……。

「そういうことか……」

 俺は椅子から立ち上がる。

「どうかしたのですか?」
「いや、話はだいたい分かった。すまない」

 俺の言葉に、リンスタットは頭を左右に振ると。

「いいえ、私や父のせいでユウマさんや他の人に迷惑を掛けてしまって申し訳ありません」
「……」

 彼女の謝罪に、どう言葉を返していいか迷う。
 ただ、こちらも無関係ではないことが分かった以上、頷くだけはしておく。

 俺は、リネラスの母親との会話に区切りをつけて移動式冒険者ギルド宿屋の建物内に入る。

「お兄ちゃん!」

 建物に入ると妹が抱きついてくる。

「どうした?」
「リネラスさんが探していたけど……」
「そうか――」
「何かあったの?」
「いや、大丈夫だ。怪我の治療をしたから、その確認のために男がいると不味いだろう?」「怪我の治療、私以外の裸を見る? それは確かにダメ……なの……」
「何を言っているのか考えたくないが、リネラスが呼んでいるんだな?」
「うん!」

 妹の頭を撫でて分かれたあと、俺はイノンの部屋の扉を開けた。
 すると、椅子に座っていたリネラスが俺に気が着いたのか、その青い瞳を俺に向けてくる。

「ユウマ、遅い!」
「すまない、少し気になったことがあって調べものをな……。それよりも、怪我のほうは完治していたのか?」
「うん、どこにも怪我の跡は残っていなかったけど」
「ふむ……」

 俺はリネラスの言葉に首を傾げる。

「怪我は完治しているのに、眠りから目覚めないのか?」
「――あっ!?」

 リネラスは、立ち上がると「たしかに、どうして目が覚めないの?」と一人呟いている。
 リネラスの時は、瀕死だった事とエリンフィートの問題もあって、彼女は目を覚ますことは無かった。
 だから精神世界に入って起こす必要があったが――。
 イノンは、それとは違う気がするのだ。

「ユウマ、どうするの?」
「どうするも何も、目が覚めないならやることは一つだろう?」

 俺はリネラスの手を握り締める。
 彼女は一瞬「あっ!」と、いう声を上げていたが今は、それよりもすることがある。
 治療の魔法を掛けて目を覚まさないという事は、それなりの理由があるのだ。

「やれやれ、どうやらリネラスの時と同じで何かしらの問題があるようだな」
「――うっ……」

 リネラスが言葉に詰まっているが、俺が強く抱きしめると顔を真っ赤にした。
 まぁ強く抱きしめたのは密接しておかないと魔法が失敗する可能性もあるからだが。

 今回は、エリンフィートがいない。
 そんな状態で、イノンの精神世界に入る魔法を発動させるためには、かなりのリスクを負う。

「最後の確認だが、本当にイノンの精神世界に入っていいんだな?」

 俺の問いかけに、リネラスは地から強く頷いてくる。
 即答で返してくるとは思っていたが本当に即答されると少しだけ考えてしまうな。
 リネラスの決意に俺も頷いたあと、頭の中でリネラスの精神世界に入った時の様に魔法を発動させた。

 そして……。

「ここは……」

 見渡す限りの草原、遠くからは川のせせらぎが聞こえてくる。

「ここはフィンデイカの村?」

 先ほどまで抱きしめてリネラスが周囲を見渡すと俺に考えを肯定するかのように頷いてきた。






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