【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

親類の絆(22)


 彼、リネラスの祖父が歩き森の中へ向かって歩いて俺から離れていく。
 俺に何かを伝えたいことがあったから彼は、俺に話しかけてきたはず――。
 すぐに後を追う。
 森の中は、すでに漆黒の闇に閉ざされていて、目の前を歩く男の後ろ姿が見えるのみ。

「一体、何を伝えたいんだ?」

 俺は前を歩いている男に話しかけるが、答えが返ってくることはなく仕方なく後ろを着いていくことしかできない。
 どのくらい歩いたのか分からなくなったところで――。

「ここだ」

 男は立ち止まりある一点を指差しながら俺に話しかけてきた。
 リネラスの祖父に近づき横に並んだあと、指差されている場所へと視線を向けると――。

「あそこは……」

 俺は目の前に存在している広場を見て眉間に皺を寄せる。

「あれは、私の罪でありエリンフィート様が、隠されている内容になる」
「どういうことだ? ここはリネラスの記憶の中ではないのか? なら、何でエリンフィートが隠しているものをリネラスの記憶が知っているんだ?」
「それは簡単だ――。私は、リネラスの記憶にある存在ではないからだ」
「何を言って――」

 おかしい。
 いや、最初から、ずっとおかしいと思っていた。
 この男だけは、リネラスの記憶というか深層心理世界の中では異端だった気がする。
 なら……。

「エリンフィート様から聞いたのだろう? 魔法というのは精神エネルギーだと、そして精神というのは人間の本質、記憶を投影した物。そして君が利用した白色魔法石。それに遣われていた従属神は、私だったのだよ。だから君は私の存在を自身の世界に取り込んだ。だからリネラスの記憶を使い君が作った世界に、私は存在している」
「まて! 従属神ってウラヌス教国の神に仕えている者だろう? それなのに何故、あんたが従属神になっているんだ? 何故だ?」
「決まっている。神という存在は人の想念が作り出したモノであって、その本質は世界を構成している精神エネルギーと似通っている。そして、力ある存在というのは、その本質は限りなく世界を構成しているモノに近い。とくにエルフや君の妹は……。そして彼らはある情報が欲しがった。だから――彼らは私を襲った」 
「まて! それじゃ、リネラスが見せた記憶との剥離があるぞ?」
「何も、間違ってることなんてない。ただ、私が投石程度では死んでは居なかったということだ。さて、話を続けるとしよう」

 男は、広場に向けて歩き出す。
 その後を着いていく俺に男は話かけてくる。

「君も冒険者として活動しているから分かると思うが、基本的に外界と遮断されているダンジョンというのは、ダンジョンコアを利用して作られている。それは、ダンジョンコアを中心として世界を編み上げていくからだが……。このエルフガーデンの集落にある場所も同じくダンジョンコアで作られている。もちろん、そのダンジョンコアは私が仲間達と共に冒険者として活動した時に手に入れたモノに他ならない」
「なら……エルフガーデンに存在したダンジョンというのは――」
「そうだ、私が作ったものだ。エリンフィート様は、魔物が出てこないように土地神の力を使って守っていたに過ぎない」
「なら、どうして壊された時に、あれほど――」

 あれほど、エリンフィートは怒っていたのか? という言葉が喉元までこみ上げてきたが、男の表情を見て俺は呑み込んだ。
 その悲嘆な表情には、悲しみしか見ることが出来なかったから。

「決まっている。従属神に食われた私は従属神となっていた。そして……エリンフィート様は、私が知っていた情報をウラヌス十字軍に渡ることを恐れた。だが、自身の眷属を殺すことなどあの方は行うことは出来なかった。だから私を迷宮深くに封印した。閉塞感のあるエルフガーデンを何とかしようとした私の案を、冒険者ギルドの誘致のためにダンジョンを作ったことを許可して私の罪ごと彼女は背負って……」
「それじゃ、何か? エルフガーデンは……」
「そうだ、全て閉塞感のあるエルフ達を何とかしようとした結果が今の歪んだエルフガーデンの価値観を作り上げたのだ」




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