【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

託された思い(13)

「おにいちゃーん」

 妹を乗せた黒く変色した丸いスライムが、地面を蹴って体を揺らしながら近寄ってくる。
 そのたびに、丸い形をしたスライムの上に寝そべった妹の体が上下に弾む。

「お前、どうして……ここにいるんだ?」
「むー……」
「アリア、どうして……ここにいるんだ?」

 そうだった。
 妹は、名前で呼ばないと不機嫌になるんだったな。

「決まってるの! おにいちゃんを追ってきたの!」
「追って来たって……」

 俺は、妹を守るためにアライ村を出たんだが……。
 妹まで村から出たら、俺がウラヌス十字軍の眼を逸らした意味が無くなってしまうんだが……。

「おにいちゃんは、アリアに会いたくなかったの?」
「いや、そうじゃ……すごく会いたかったナー」

 俺の言葉を聞いてる途中で涙目になったアリアに俺は思わず言葉を変えて答える。
 はぁ……。
 リネラスのこともあるのに、一体どうすればいいんだろう。

「それよりも、アリアはどうやってここまで来たんだ? 俺がここに居るってよく分かったな? もしかして俺が作ったスライムが魔力か何かを辿って来たわけもないよな」

 土地神であるエリンフィートは、外世界の様子を察知しているらしいが、スライムにそんな機能を俺は持たせてないからな……。

「おにいちゃんの匂いを辿ってきたの!」
「俺の匂いを!?」

 そうか……。
 スライムが俺の匂いを辿ってくるとは……。
 勝手に進化するようシステムを組んだ気がする。
 また、妙な方向に進化したものだな。

「アリアなら、お兄ちゃんの一年前の匂いでも嗅ぎ分けられるから!」
「お前がかよ!」

 思わず素で突っ込んでしまった。
 我が妹ながら、色々と突っ込みどころが満載というか何と言うか……。
 それよりも……だ。

「アリア、村を出る時に誰かに俺の後を追いますとかきちんと言ってきたのか?」

 俺の言葉に一瞬、きょとんと妹は呆けたあと「ううん、言ってないよ?」と、首を傾げながら答えてきた。
 さらには……。

「だって、村から出ることをあいつらじゃなくてお父さんやお母さんに言ったら、絶対止められるし! それなら言わないで出てきたほうがいいし……」
「はぁー……。言ってきてないのか……」

 父親も母親も妹のことは、可愛がっていたからな。
 居なくなったと知ったらというか……今頃、大慌てだろうな……。
 しかし――。
 俺はチラッと妹の方を見る。
 すると、いつの間にか妹はスライムの上で器用に正座をして顔を俯かせていた。
 どうやら、反省はしているようだな……。

「アリア?」
「……」

 俺の言葉に妹は体を緊張させる。
 どうやら怒られると思っているようだな。
 俺が妹を怒るわけないのに。

「まぁ、俺も村から出る時に、何も言わずに出てきたからな。アリアを怒る資格はないからな」
「おにいちゃん?」
「まぁ……今度、村に帰ったときに一緒に謝ってやるから」

 たぶん、謝っても俺一人だけが怒られる可能性が非常に高いが、その辺は諦めるとしよう。
 きっと、「また、ユウマが何かしてアリアを連れ出したんでしょう!」と母親とかが言ってきそうだ。
 まぁ、俺だけが怒られる分には特に問題ないし。

「うん!」

 どうやら、怒られないと思ったのか妹はスライムから飛び降りると俺に抱きついてきた。

「ひさしぶりのお兄ちゃんの――」
「お、おい!」

 俺は、妹からバッと離れる。

「アリア、どれだけ風呂に入ってないんだ?」

 妹の匂いがとてもひどい匂いになっている。
 ちょっと一言では言い表せない。

「えーと……お兄ちゃんが村を出ていってすぐに追いかけたから……その後、お風呂に入ってないの!」
「……お風呂に入ろうな?」
「ええー……」
「ええー……。じゃないからな? そんな匂いをした女の子なんて俺以外には嫁の貰い手がないぞ? ほら! ついてこい! 風呂場に案内するから!」
「別に入らなくても大丈夫!」
「お風呂に入らない子は妹として認めないぞ?」
「――!? すぐに入る!」

 妹は慌てて俺の言葉に元気よく答えてきた。



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