【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

深層心理の迷宮(4)

「――んっ。……ここは?」

 辺りを見渡し自分が、今、どんな状況に置かれているのかを確認する。
 周囲は、10人の大人が両手を繋いだくらい太い木々が大地に根差して生えていた。
 ゆっくりと近づいていき、高さ50メートルはあろうかという大木に手を触れようとしたが――。

「触れられない?」

 大木に触れようとした手は、そのまま木をすり抜けてしまう。
 何度か試しても触れることはできない。

「地面には触る事が出来るが……草や木には触る事ができないのか?」

 念のため、【探索】の魔法を発動させるが、魔法が発動する感覚が無い。
 それに【探索】の魔法に必要な【身体強化】の魔法も発動し無い事から、魔法が使えないと言っていたエリンフィートの言葉は本当のようだ。

「仕方ない。どちらにしても、ここで目を覚ましたって事は、この近辺にリネラスはいるはずだ……きっと、たぶん……」

 歩き始めてから、ふと気が付く。
 エルフガーデンの中では、【探索】の魔法を使って行動していたこともあって、エルフガーデンの地理がまったく分からない。

「……どうしたものか」

 歩きながら自問自答する。

「そういえば……」

 俺は近くの木々を見上げてヤンクルさんに習った事を思い出す。
 そして周囲の木々を見渡したあと、上空を見上げる。

「たしか、ヤンクルさんが冒険者の心得として森の中で迷った時に使うように教えてくれたことがあった」

 その時は、たしか葉の育成具合の方向から方角を割り出せると教わった。

「たしか、大きな葉が茂っている方が南の方向だと」

 ふむ……俺は上空を見ながら腕を組む。
 幹の途中に、枝が生えてはいるが木々の高さが高すぎて、葉が一方的に偏って茂ってるような場所がない。
 そうすると……あとは、枝の振りが少ない方が北だと言ってた気が――。

「こっちが北ってことは、向こうが南か? 問題は、今はどのあたりにいるかって事だが……エルフガーデンの東側にエルヴンガストの渓谷があった。ということは、エルヴンガストに向かった方が良いのかもしれない」



 ――長い。

 どれだけ歩いたのだろうか?
 もう何時間も――。
 何十時間も歩いた気がする。

「そういえば……日がまったく沈まない」

 つまり時間経過がない?
 ということは、木々の生え方から方角を割り出す事もできない?
 周囲の風景が、まったく変わらない。
 どこまで歩いても、高さ何十メートルもの木々がどこまでも続いているだけであり、それが、さらに俺の焦燥感と掻き立てる。

 足がもつれ、倒れかけたところで、子供の声が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 まったく気が付かなかった。
 意識を集中していたというのに、まったく近づいてくることを知覚できなかった。

「リネラス! また、リンスタットさんに怒られるよ?」
「サマラは、いつもうるさい」
「リネラス? サマラ?」

 目の前にいるのは、まだ5歳くらいの女の子。
 二人とも小さい。

「ごめんなさい。でも、お兄ちゃんは男の人だよね? エルフガーデンに居ても大丈夫なの?」
「そういえば……」

 エルフガーデンには、男をメインに攻撃してくる魔物というか植物がいたんだった。
 ということは……。

「お兄ちゃん、あぶない!」

 サマラが、警告してきたが、俺は振り返る事すらできず何らかの攻撃――。
 おそらく木の実だと思うが、頭に直撃を受けて意識を飛ばした。



「おい、大丈夫か? おい!」

 どのくらい寝て――気絶していたのだろうか?
 野太い男の声で、俺は目を覚ました。
 そこには、逞しい髭を蓄えた男が、俺を覗き込んでいた。




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