【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

エルフガーデン(6)

「思ったより時間がかかったな」

 俺は、空に昇っている星を見て一人呟く。
 現在、俺達はレグラントの町で物資を購入してから、四次元イルカバックに物資を詰めてからエルフガーデンに向かっており、エルブンガスト渓谷を帆馬車で走っているところだ。

「ユウマさんは結構タフですよね」

 帆馬車の中から、ユリカは毛布の上でうつ伏せになって俺に語りかけてくる。
 毛布は、レグラントの町で購入した物で冬を過ぎたということもありかなり安く購入する事ができた。

「タフというか、俺が寝たら誰が運転というか馬を動かすのかと……」

 俺はユリカに言葉を返しながら帆馬車の中を見る。
 帆馬車の中では、セレンとリンスタットさんが横になって寝ている。
 セレンはずっとクルド公爵邸で捕まっていて、その後は殆ど【移動式冒険者ギルド宿屋】でリネラスの特訓というか洗脳というか将来、ギルド職員にするための勉強をさせられていた。
 そしてリンスタットさんは、ずっと子供達の面倒を見ていて息抜きをする余裕もなかったから、人の町にいくのは久しぶりだったこともあり、かなりはしゃいでいた。
 二人とも、ストレス発散と共にかなり疲れてしまっているのだろう。

「そうですね」
「ああ、それよりも……だ」
「はい、レグラントの町の様子ですね?」
「ああ」

 俺は、ユリカの言葉に頷く。
 今回、レグラントの町でエルフガーデンのエルフはどう思われているかの情報を集めるために行ったのだが、エルフは近辺の町や村では、あまりいい感情を持たれてはいないようだ。
 その性欲の強さから、「エルフじゃなくてサキュバスなんじゃないのか?」と、まで言われるくらいだった。
 それよりも問題が――。
「エルンペイア王については、問題がある王だという認識はあったが、ユリーシャ姫も大概だな」
「そうですね」

 ユリカは沈んだ声で頷き返してくる。
 レグラントの町で聞いた限りユゼウ王国内で、ユリーシャが率いる解放軍についてあまりいい噂を聞かない。
 政治についても無頓着で内乱の為の物資の吸い上げだけをして、殆ど治安維持をせずに若い男を兵士として徴兵する形をとっているために、町の治安も急速に悪化している。

「しかし、なんというか胡散くさい連中だとは思っていたが本当に胡散くさいな……」
「それでも、ユウマさんは戦わないんですよね?」

 ユリカの言葉に俺は頷くしかできない。

 たしかに両軍を壊滅させる事は出来るだろう。
 問題は、その後に国を運営できるかと問われれば否としか答えられない。
 国を運営するためには何千人もの人材が必要な訳で、俺にはそれだけの伝手もノウハウもないからだ。
 それなのに、横から首を突っ込んで勝利を掴んだとしても、それは一時的な物であって
持続できる物ではない。
 なら最初から手を出さないほうがいい。

「――戦いが長引くと多くの人が不幸になりますよね」
「そうだな。だが、その後に国を纏められずに地方の有力者や貴族が反乱を起こしても多くの人間が犠牲になる。そうしないために解放軍は頑張っているんだろう……」
「本当に、ユウマさんは解放軍が正しいと――ユリーシャ姫が正しい事をしていると思っていますか?」
「わからん。為政者が何を考えて行動してるかなんて、そいつの立場になってみないと何とも言えないからな」
「そうですか……」

 ユリカは力なく項垂れてしまうが、こればかりは俺にもどうしようもない。
 いくら俺の魔法がすごいと言っても万能ではないし、あくまでも俺の魔法は俺の知識の中にある物理や化学に沿った魔法だ。
 その魔法で国が纏められるのか? と、問われてもハッキリ言って無理だな。
「まぁ……ユリーシャが、解放軍が早くエルンペイア王を倒すと信じておくしかないな」
「そうですね」

 ユリカは、それだけ言うと無言になってしまう。
 しばらくすると寝息が3つに増えていた。
 どうやら、ユリカも寝てしまったよう。
 やはり久しぶりに町に行った事もあり疲れたんだろうな。




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