【書籍化作品】無名の最強魔法師
エルフとの交渉(中編)
俺はあわててリネラスの方を見る。
するとリネラスは体を震わせたかと思うと帆馬車の従者席の横からから下りてしまう。
「リネラス?」
俺は、名前を呼びながら手を伸ばす。
するとリネラスは一瞬、思い詰めたような表情を俺に見せてくると、リネラスはエルフガーデンの森の中へと走り去ってしまう。
一体何がどうなっているんだ? 理解が追いつかない。
とりあえず魔物が魔物がいる場所に、戦う力がないリネラスを行かせるわけには――。
従者席から降りようとしたところで俺は立ち止まる。
「くそっ――!」
すぐに追いかけようとしたが、帆馬車内にはイノン、セレン、セイレス、ユリカと戦闘要員で無い者ばかり。
そして、目の前には、エルフガーデンに住まうエルフ達が居り村に案内すると言ったが本当に味方か分からない現状では、4人を置いてリネラスを追う事は出来ない。「ユウマさん! リネラスを追ってください!」と、イノンが言ってくるが、動く事は出来ない。
目の前の連中が完全にこちらの味方だと言う保障が無い限り、俺の行動には制限が掛かってしまう。
「サマラ! どうして、リネラスを――俺の仲間を傷つけるような物言いをしたんだ? もしリネラスに何かあったら分かっているだろうな?」
俺は頭の中で、鎌鼬の現象を組み立てる。そして、エルフガーデンの木々の向けて【風刃】の魔法を発動。
発動した【風刃】の魔法は【真空の刃】を生み出し、20メートルを超える大木の斬り倒す。
倒木の音から、サマラが後ろを振り返る。
「バ……バカな!? こんな魔法など見たことが!?」
倒れた大木を驚愕の面持ちで見た後に視線を俺へと向けてきた。
後ろに控えていたエルフ達は、「エルフガーデンの神聖な森に手を出すなど」と、次々と怒りの声を上げてくるがそんな事は俺の知った事ではないがエルフ達の瞳には、怒りの感情がハッキリと浮かんでいる。
俺は、エルフを一瞥したあと、俺に話しかけてきたサマラへと視線を向けた。
「サマラと言ったな? お前、この落とし前をどう付けてくれるんだ?」
俺の言葉に怯えた様子を見せたサマラは一歩、俺から下がると「な、なんのことだ――?」と恍けてくる。
「おい、とぼけるなよ? 俺のリネラスを出来そこないと言っただろ? それでリネラスは離れて行ったんだが……もし、リネラスに何か問題が起きたらお前は、どう責任を取れるかって聞いているんだぞ?」
苛立つ俺の声を聴いていたエルフ達は、どうして俺が怒っているのか理解できていないのだろう。
一人の女エルフが弓を構えて射ってくる。
そのさいに「よくも! 神聖なる木々を!」と叫んでいるが仲間を侮辱されて黙っているほど俺は人間は出来ていない。
飛来してくる矢を見ながら【身体強化】の魔法を発動し手を振るい風圧で矢を粉々に破壊する。
「――う、嘘でしょ!?」
どのエルフも、俺が起した現象を理解できずに凍りついている。
「手を出したのはそっちだからな!」
俺は、矢を放ってきた女エルフの元へと一足飛びに近づくが、誰も俺の移動速度を追えていない。
そして、そのまま女エルフの腹を殴る。
腹を殴られたエルフは、地面と並行に吹き飛び後方の大樹にぶち当たると「カハッ」と言いながら意識を手放し地面に倒れ伏す。
「や、やめろ! こ、こいつの魔力は!」
サマラが必至に止めようとしているが、戦端が一度でも開かれれば簡単には止まりはしない。
それに俺も止めるつもりもない。
こいつらを殲滅してからリネラスを追った方がはるかに楽だからな。
エルフ達は弓矢を構えて俺に向けて放ってくる。
その全ての矢を素手で弾き飛ばしながら一人の女エルフの懐に飛び込む。
「悪くおもうなよ!」
俺の言葉を聞いた女エルフは、ナイフを取り出とす。
そして俺に向けて突き出してくるが、その前に俺の拳が女エルフの顔にけめり込む。
俺に殴られた女エルフの体は後方の大樹にまで吹き飛ぶと樹木にめり込んで止まった。
その様子を見ていたエルフ達は一斉に動きを止めた。
エルフ達の表情には恐怖が、ありありと浮かんでいる。
サマラはと言えば「マルタ!」と、俺が殴り飛ばしたエルフを見て叫んでいるが、まぁ俺の知ったことではないな。
「さあ、とことんやり合おうか? 俺とお前ら、どちらかが全滅するまでな!」
さっさと殲滅してリネラスを追うとするか。
俺は右手をエルフ達に向けると、エルフ達は弓を地面に置くと膝をついて一斉に頭を下げて「降伏致します」と、告げてきた。
「降伏は必要ない」
相手を殲滅した方がこちらの行動に制限がなくなる。
さっさと殲滅した方がいいと考えていると洋服の裾を引っ張られた。
振り返ると、そこにはセイレスが俺の服の裾を掴んでいた。
「セレンか? どうかしたのか?」
「お兄ちゃん。お姉ちゃんがね、弓矢を置いて膝をつくのはエルフの中では服従の仕草だって言ってるの」
「そうなのか?」
「うん!」
セレンは、俺の言葉に頷くと帆馬車の方へ指さしてくる。
セレンの指先には、帆馬車の従者席にセイレスが立っていて黒板を掲げていた。
そこには「ユウマさん! 服従してきた相手に手を出してはいけません! 落ちついてください!」と書かれており、それを見て俺は深くため息をついた。
「サマラ、お前たちの降伏を受け入れよう」
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