【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

クルド公爵邸戦(3魔人Side)

 クルド公爵邸の屋根上で狙撃をしていた弓士アンゼは、自身の特技である超長距離狙撃には絶対の自信を持っていた。
 そして神の目とも呼ばれているアンゼの右目は、相手を頭上から見下ろす力も持っており高度な精密射撃をも可能としている。
 そんな男が突然、立ち上がると弓を放っていた方向を見て。 

「ば! ばかな!? ありえん! 私の初撃を防いだばかりか避けながら近づいているだと? 一体何者だ!?」

 アンゼは叫ぶ。
 あり得ない。
 こんな馬鹿な事があっていいものか?
 こちらの攻撃を、視てから避けている。
 そんな事が人間に可能なはずが……。

「アンゼさん、あの男は私を半殺しにした男ですよ? あのくらいはできますとも! そう! 完璧では無かったとはいえ絶対防御を彼は素手で破壊したのですから!」

 動揺しているアンゼの後ろに一人の男が立ちながら悠然と言葉を発している。
 アンゼは、その男――メローゼに視線を向ける。
メローゼは右手に水晶球を携えており、ユウマとリネラスの姿を映し見て微笑んでいた。

 メローゼは、ユウマを高く評価していた。
 問答無用で、最後まで人の話を聞かずに殴ってくるユウマにメローゼは魅了される。
 あれほど、容赦ない攻撃を仕掛けてくる人間など見た事がない。
 だからこそ、何れユウマはクルド公爵邸に攻めてくる予感をメローゼは持っていた。

「二人とも何をしている?」
「オルカですか?良いのですか?クルド公爵様をお守りしていなくて?」

 メローゼの言葉に無限の槍を持つ男オルカは頷くと、クルド公爵邸に向かってきているユウマとリネラスを映している水晶球に視線をむける。 

「ま、まさか!? こいつ……!?」
「どうかしたのですか?」

 メローゼが眉元を顰めてオルガへと語りかける。
 オルガは、メローゼとアンゼを見た後に――。

「黒髪黒眼の魔法師……そして、カレイドスコープの兵士から聞いた話を総合すると、コーデル商会ハインツの話にあったユウマで間違いないな。そうか、こいつがガムルとマリウスを殺った男か」

 オルガの言葉に、メローゼだけではなくアンゼまでもが目を見開く。
 さらにオルガは話を続ける。

「どうやら、ユリーシャ姫がネイルド公爵領を手に入れたという噂は眉唾物と思っていたがどうやら間違いではないようだな。それに、ユリーシャが率いる解放軍の部隊が急に動き出したのも間者から報告がきている。もしかしたら……」

 オルガはそこで一旦、口を閉じる。
 そして少し再考すると――。

「解放軍と今、攻めてきているユウマは裏で繋がっている可能性があるな」

 ネイレド公爵領を手に入れ動きの無かった解放軍が動く。
 それもネイルド公爵領から、総大将のユリーシャが直接、軍を率いてクルド公爵領に向かってきている。
 明らかに、クルド公爵に何かが起きるという事を理解しているようにだ。

「それは、面白いですね」

 オルガの考察にメローゼは口角を上げる。
 面白い。誠に面白いと。ユウマという男は面白いとメローゼは思う。
 そして思い至る。

「もしかしたら……この男、ユウマこそがユリーシャ陣営の噂になっている無名の最強魔法師かもしれませんね」

 メローゼのあまりな突飛すぎる想像力にオルガとアンゼは噴き出した。
 最強の魔法師を、王族の護衛ではなく単独で使う馬鹿などいるわけがない。
 それはあまりにも滑稽すぎる話であったからだ。
 二人の態度に機嫌を悪くしたメローゼはオルガを見る。

「そろそろクルド公爵様の元へ戻った方がいいのではないですか?」
「問題ない。最強の男がクルド公爵を守っているからな」

 メローゼの言葉にオルガが間髪入れず答えると、アンゼとメローゼは顔をしかめた。
 たしかにあの男は強い……いや強すぎる。

「本当にいいんですか? あのロウと言う男、間違いなく危険ですよ?」
「アイツは何か目的があるのだろう? なら利害が一致している間は裏切る事はないはずだ。そうクルド公爵様も言っておられた。」

 メローゼとオルガが話している間にも、アンゼはユウマの動向を見ながら矢を射っていたがまったく当たる気配すら感じない。
 明らかに、普通のSランク冒険者ではないのをアンゼは感じとった。

「オルカ、メローゼ、出番だ! クルド公爵邸まで1キロメートルを切ってきやがった。攻めてくる奴はSランクどころの騒ぎじゃねえ。正真正銘の化け物だ!」

アンゼの言葉にオルガが唇を舐める。

「よかろう、我が無敗無限の槍の想像! その力を奴に見せてやろう!」

 オルガは、大声で宣言をすると空中から無数の槍を空間から生み出すと同時に、ユウマに向けて数千の槍を射出した。



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