【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

それでも俺はやっていない!

 ウミゾーを倒した翌日。
 俺とイノンは、海の港町カレイドスコープを散策していた。

「ユウマさん!今日は二人きりですね!」

 イノンが嬉しそうに俺に話しかけてくると体を寄せてきた。
 かなり近くに寄ってきていることでイノンから良い匂いがする。

「これから、どうしましょうか?」と話しかけられ――。

「あ、ああ……そ、そうだな。まずは情報収集をしないといけないな」

 動揺してしまった俺は、しどろもどろになりつつ答える。すると、「そうなると市場で聞くのが一番いいのかも知れませんね!」と、イノンは腕を組んできた。
 そんなイノンの様子を見ながら、溜息をつくと町の市場へと向かう。

「それにしても……兵士の姿を見ないな?」

 先日は、町に入る際に兵士が町の出入り口に立っていた。
 それなのに今日はまったく見かけない。

「そうですね……」

 イノンは俺の言葉に相槌だけ打ってくると腕を組んできた。
 市場に足を踏み入れると、そこは先日のように閑散としてはいなかった。
 いくつもの露店が並び、昆布や魚介類を中心の品物を扱う店舗が多い。

 閑散としていた昨日までとはまるで別物だ。
 販売している商品は、昨日のウミゾーの体表の色に近いコンブが9割で残り1割がサザエやウニとなっている。
 それにしても、昨日のウミゾーの姿形がどこにも見当たらないのだがどうしたのだろうか?
 少しだけ気になる所だな。

 市場を歩いているだけでは、現状の確認が取れないな。
 とりあえず、知り合いの兵士の居場所を聞くとするか……。
 俺は近くの露店の主人に話を聞く事にする。

「すまない! 兵士の方を探しているんだが? どこにいるか教えてくれないか?」
「――兵士? いないよ! 昨日のアレで逃げたよ!」

 怒りを滲ませながら吐き捨てるように、兵士は町から逃げ出したと言って来た店主に俺は金貨を1枚放り投げる。

「そうか。わるかったな……」

 どうやら、騎士や兵士、3魔人は昨日のウミゾー襲撃に対処しきれずに逃げ出してしまったようだ。
 これでは情報が得られないな……。

「ユウマさん、ユウマさん」
「ん? イノン、どうしたんだ?」
「昨日のアレって何ですか?」

 ふむ、正直に話すべきか……。
 だが一応、アライ村を出てからの俺は、常識人で通ってるからな。
 俺のせいでウミゾーが町を襲ったなどと知れ渡ったら俺のイメージダウンに繋がりかねん。

「そうだな、巨大な魔物が襲ってきたんだ。それを倒した、それだけだ」
「すごいですね! さすがですね!」

 イノンが手放しで俺の事を褒めてくれる。
 なんだか……罪悪感がすごいな。

「どうしたんですか? すごく疲れたような顔をしていますけど?」
「いや、なんでもないんだ。イノンは、偉いなーと純真だと思っていてな。20代後半とは思えないほどだ」
「……え?」

 イノンが足を止めて振り返ってくる。
 どうかしたのだろうか?

「ユウマさん、私は19歳ですよ?」
「19歳なのか?」
「はい!」

 さすがは西洋人風な顔。
 20歳後半だと思っていたイノンの年齢がまさかの19歳。
 おどろきだ!

「とりあえず近隣で、クルド公爵邸の場所を教えてもらうとしよう」

 その後、俺とイノンは食糧と、地図を売ってくれる店を見つけ出し宿屋に戻ると、そこにはリネラスが厳しい表情をしたままカウンター席に座っていた。
 そして俺の方へ視線を向けてくると。

「ユウマ。少しいいい?」

 いつもと違う事務的な固い声……一体! どうしたのだろうか?

「実はね……今日、町に買い忘れた物を買いに行ったんだけどね。その時に、町を海神が襲ってきたという話を聞いてね……よく町が無事でしたねって話したら海神は何者かに倒されたと聞いたの。で! それでね、その海神だけどね、海底ダンジョンから魔物が出て来ないように抑えている守り神なんだけど、ユウマは何か知らない?」
「知らないな。 第一、本当に倒したのか分からないんじゃないのか?」
「それでね、倒した人の特徴を聞いてたらね……黒髪の黒目の少年って言ってたんだけど、ユウマは何か知らない?」

 リネラスが俺を疑った視線で見てくる。

「何を言っているんだ! そんな決めつけたような言い方! 良くないとおもうぞ! 第一、俺が安易に自分の保身のためだけに魔法で!そんな事をするような人間に見えるか!? それに自分の魔力が海神を引き付けたと言う理由だけで何も考えずに倒すような真似をするとでも?」
「あ、うん……もう犯人分かったからいいよ……」



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