【書籍化作品】無名の最強魔法師

なつめ猫

俺とリリナとの出会いとキツネ

 4歳の頃の俺は、精神年齢が肉体年齢に引きずられてしまい小さな虫を触ったり野山を駈けずり回って動物や魔物に襲われて逃げたりと色々していた。
 もちろん、子供の足で逃げられる距離なんて高が知れている。
 その都度、死に物狂いで村まで逃げては村の人総出で動物や魔物を討伐してくれた。

 そんな少しやんちゃな幼少期だった俺はよく村の人達から怒られたものだ。

 そんな俺でも我慢できない物があった。
 それは家の中の不衛生な所で、台所の床は地面のままなのだ。
 だから食材とか落ちたりすると大変なことになる。
 でも親父も母親もあまり気にした様子はなく、母親は地面に落ちた食材を拾って少しだけ洗ってはそのまま料理をしていた。
 おかげで貴重なたんぱく質であるお肉を齧ると、口の中でじゃりじゃり音がして味も食感も大変よろしくない。

 そんな事が毎日続いた。
 日本の清潔な台所があればと何度も思っては、すぐに忘れて『ファイアーボール』と言いながら川で小石を投げて俺は遊んでいた。

 そんなある日のこと、川に向かって道を歩いていると道の先に先に一人の少女が両親に連れられて村に向かってくるのを見かけた。
 村の外から来る人を見るのは初めてだった事もありその場で立っていると、少女の姿をはっきりと見る事ができた。
 背の高さは俺より少し低いくらいだと思う。
 ただ、顔はお人形さんのように整っていて背中まで伸ばしてる金色の髪の毛は太陽の光に照らされていてとても綺麗だった。

 両親に連れられて来た少女は、俺と目が会うとすぐに父親だろうと思われる男性の後ろに隠れてしまった。
 男性は俺を見ると顎に手を当てた後にしゃがんで俺の目線に自分の目線を合わせて語りかけてきた。

「君は、この先の村の住民なのかな?」
 男性の問いかけに俺は頷いた。
 今まで、村の中から出た事の無い俺にとっては外から来る人間は新鮮だった。

「そうです。えっと?」
 なんて答えていいか分からない俺は言葉に詰まった。
 初めての外部の人になんて話していいのか迷ってしまう。

「すまないね。私は、ヤンクルという。元冒険者だったんだが……いや、君に話しても分からないかな?」
 俺は否定の意味で頭を振るが、ヤンクルという男性は『ハハハッハ、無理をしなくていいんだよ』と笑いかけてきた。それがまた美形なだけにとてもよく似合っている。

「今日からこの村で住まわせてもらう事になるから、これからは娘とも仲良くしてくれるかい?」
 ヤンクルさんの言葉に頷く。
 滅多な事で俺は、人を嫌いにはならない。
 それは、俺の中にある知識から得た結論でもある。
 誰にもでも平等に接すれば、摩擦は起きないし最悪、離れれば問題ない。
 だから、大丈夫だ。

 おどおど怯えている少女に俺は笑いかける。

「俺の名前はユウマ。これからよろしく!」
 握手をしようと手を差し出すと手を打ち払われた。

「握手なんてしたくないわ!でも名前だけは教えてあげる。私の名前はリリナよ!覚えておきなさいね!」
 いきなりの仕打ちに呆然としていた俺に少女はリリナと名乗ってきた。

 それから、数日が過ぎ今日も俺は川へ探検に出かけていた。
 4歳の子供が出来る事なんて少ないのだ。
 せいぜい手伝えるのは草むしりくらいで、きちんと手入れをした畑にはめったに草は生えない。
 なので午前中は草むしりをして教会の書物を読もうとして追い出されて山でキノコでも採ろうと入ったらウリボウに追いかけられるくらいしかやることがないのだ。

 それで暇になったら川に来て、以前とは違った魔法である『ウォーターボール』と叫びながら、小石を思いっきり川に投げて水しぶきを立てては一人で遊んでいた。
 そんなある日……。

「ねえ?そんな事してて何が楽しいの?」
 いつも一人だと思っていた俺に後ろから声がかけられた。
 小石を振りかぶったままの姿勢で後ろを振り返る。
 そこには、俺のような粗い布地で作られた服とはまったく違う綺麗で細かい布地で作られた服を着こなしている美少女が腕を組んで俺を睨んでいた。

「……えっと……誰だっけ?」
 子供の頃の記憶力は良いと誰が言ったのか忘れたが、俺の場合は子供の体に精神が引きずられて極端に記憶力が悪くなっていた。
 そんな俺の言葉に少女は顔を真っ赤にしていく。

「だから田舎者は嫌いなのよ!そんなに元から住んでた人が偉いの!?」
 少女は叫ぶと両腕を投球フォームのままだった無防備の俺の腹を殴った後、そのまま走り去って行ってしまった。
 そして俺はと言えば、モロに鳩尾を打たれた事もありその場で崩れ落ちた。
 俺が痛みで呼吸が出来ずに地面の上に横になっていると、動物らしきモノが近寄ってきた。
 視線を向けると、それはキツネだった。
 キツネは人には近寄ってこない。
 そんなキツネは俺が動かないのを見ると何を考えたのか俺の顔の前で片足を上げてきた。
 そこでようやく俺はコイツが何をしたいのか理解する。

「おい!やめろ!!」
 俺の抗議の声にキツネは無言で……。

「お帰りなさい、ユウマ!どうしたの!?」
 母親が、びしょ濡れの俺を見て驚いている。

「……ちょっと川で魚を取ろうとしてね……」
 まさかキツネにおしっこを引っ掛けられて川で体を洗ってたなんて言えない!




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