【書籍化作品】無名の最強魔法師
情報操作
1時間前に、アライ村を襲ってきたウラヌス十字軍の連中は現在、《拘束》の魔法で動きを封じている。
怪我が酷い者は、《回復》の魔法で怪我を治した。
捕らえた兵士だけで40人程。
これだけウラヌス十字軍の兵士が確保できればイルスーカ侯爵軍が来ても攻めてきたという実証ができる。
あとはどれだけ、イルスーカ侯爵軍が来るまで時間を稼げるかだが……と考えたところで、俺は考え違いしていた事を思い出す。
アライ村長は村から出て行ったが、彼が村の窮地を必ずしも侯爵様へ報告にいくとは限らないのだ。
そうすると、打てる手立ては打っておいた方がいい。
俺はすぐに立ちあがり、考える。
まず、どうしてこんな何もない辺鄙な村をウラヌス十字軍は狙ってきた?
数千もの軍を動かす程の価値がある物がここには存在している?
だが、それが何かの判断がつかない。
「どういうことだ?」
仮定を積み上げる事は出来るが、そこから結論を導きだすことができない。
一度、兵士から事情を聞く必要があるな……。
兵士から事情を聞いて、情報を精査した上で考える必要がある。
そんな風にを考えていると、《探索》の魔法に反応がある。
光点の色は緑。
アライ村の住民の色だな。
後ろを振り、緑色の光点が誰かを確認する。
すると俺の父親であるバルガスとリリナの父親のヤンクルさんの姿がそこには在った。
「「これは、どういうことだ?」」
2人して俺の捕えている40人の男達を見て声をあげてきた。
俺は二人を見ながらため息をついた。
「親父、ヤンクルさん。どうしてここに? 避難しておくようにリリナから言われませんでしたか?」
俺の言葉に答えたのは親父だった。
「ユウマがいつも問題を起こすからだろう?
村の連中は、お前がまた魔物でも連れてきたのかと驚いていたぞ。そこで俺とヤンクルさんが村の代表として見にきた」
なるほど……。俺は親父の言葉を聞いて頷く。
それと同時に、親父の不審な目を見て、もう隠し事が出来ないことを自覚した。
武装してないとはいえ40人の兵士を無傷で捕まえているのだ。
疑問に思わないほうがおかしい。
だから俺は極力分かりやすく説明することにする。
「これは、ウラヌス十字軍の兵士たちです」
俺の言葉に親父もヤンクルさんもすぐには理解してくれない。
成人前の男がこれだけの人数を一人で倒せるとは思えないのだろう。
そもそも、武器も鎧もつけてない人間を他国から侵攻してきた兵士だと思う方がおかしい。
俺はアライ村長から預かった村長譲渡書を親父に渡す。
「アライ村長は、現在ウラヌス十字が攻めてきた事を、イルスーカ侯爵様へ知らせに村から出ています。念のために妻のユカさんや息子さんも連れて行っています。そして、そこに倒れている彼らは俺の魔法で拘束しています」
俺の言葉を聞きながら親父の顔色が悪くなっていく。
そしてヤンクルさんは親父を横から神妙な顔つきで見ていた。
俺は、ヤンクルさんの顔を見て確信する。
「ヤンクルさんは、リリナから大まかな話を聞いていますか?」
俺の言葉にヤンクルさんは頷く。
どうやらヤンクルさんは、ある程度の事情を知っているようだ。
俺とヤンクルさんが話をしていると。
「ユウマ!お前の話が本当だとして……どうやって、これだけの人数を捕縛でき……そうか!さっき言っていた魔法の事か?」
親父が話しかけて来た。
俺は、その言葉に頷く。
だが親父は半信半疑のようだ。
何故なら、ずっと魔法が使える事を両親や村の人間には教えてこなかった。
ウカル様が使う魔法と、俺が使う魔法では根本的に魔法内容が違う。
余計な事に巻き込まれないように魔法が使えるという事は秘密にしていた。
だが、ヤンクルさんはすでに俺が魔法を使えることを知っている。
「それで、ユウマ君。ウラヌス十字軍は、どうして攻めてきたんだ?」
俺はヤンクルさんの言葉に「分かりません。ですがアース神教を邪教だから解放するなどと言っていました」と、答えたがヤンクルさんはしばらく考えたあと口を開くと。「私の知っている限りでは、たしかにアース神教とウラヌス教との仲は悪いが、わざわざ十字軍をだしてまで、この村を攻めてくる理由としては弱いと思う」と話してきた。
「なるほど……」
俺は頷きつつも考える。
現実的にウラヌス十字軍は攻めてきている。
そうなるとウラヌス十字軍は何かを隠しているということになる
俺とヤンクルさんが、ウラヌス十字軍の目的の話をしていると、親父が横から話しかけてきた。
その声色には苛立ちが含まれていた。
「ヤンクルさん!アンタ、まさか……ユ、ユウマが魔法を使える事を知っていたのか?」
親父は眉元を顰めながら俺を見た後に、ヤンクルさんを睨んでいる。
俺は溜息をつきながら、親父とヤンクルさんの間に入ろうとすると。
「知っていた。弟子入りの許可をしたあの日。私はユウマ君の魔法を見た。巨大熊であるタルスノートに襲われ怪我をした。その足を……病に冒された足を切断しないといけない所を、ユウマ君の魔法で治療してもらった」
親父は俺に視線を向けてくる。
「それは本当なのか?ユウマ!」
親父の言葉に俺は頷く。
「どうして黙っていた?俺はそんなに頼りない父親なのか?」
頼りない父親か……。
俺は頭を振る。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
俺は、自分でも分からない大量な知識があるから……。
親父と母親を本当の肉親とは思っていなかったかも知れない。
だからこそ、俺は誰にも魔法が使えるという事を妹以外には教えてない。
「だから……」
俺は、口を閉じた。
人を信じて教えるのは簡単かも知れない。
でも俺には、それはできなかった。
そう。だれにも……。
「分かった。話せる時になったら話せばいい」
親父の言葉に俺は頷く。
俺と親父のやりとりを黙って見ていたヤンクルさんは――。
「それで、これからどうするんだい?」
――と話しかけてくる。
俺は頷きながら――。
「これは、あくまで俺の予想ですけど、ウラヌス十字軍は数千人います。ここに捕縛したのは40人ですので……「つまり全体から見ても軍隊の被害が少ない、つまり襲ってくる可能性が非常に高いということだね?」……」
話の途中から割り込んできたヤンクルさんが結論を述べた。
「そういうことです。ですから……。まずは、イルスーカ侯爵軍が到着するまでに時間稼ぎを行いたいと考えています。それと村の皆には内密にしておいてください。数千のウラヌス十字軍が攻めてきていると知られたらパニックになってしまいますから」
ヤンクルさんは俺の話を聞きながら頷いてくれる。
「わかったよ。そしたら私は、避難している村民にうまく話をとおしておこう。バルザックさんも手伝ってくれないかな?」
ヤンクルさんの言葉に親父が頷いている。
「それではお願いします。親父も居た方が説得力ありますから……一応魔物が攻めてきたということでお願いします」
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父親の名前バルザックだった?