ノーリミットアビリティ
第59話 歴史と対抗策
「全科目で満点も一番多かった!」
ナーシルはそう高らかに断言した。
「は、はぁ?あり得ないです!他の教科で平均85点を取っている私がこの点数なんですよ?」
「それは君が歴史を暗記科目と断じ、他のことを何もしてこなかったからでしょう?」
「なっ!?」
少女のその反論をナーシルはバッサリと切り捨てる。
その言葉に周りの生徒達からも反論が飛ぶ。
「歴史は確かに暗記科目というのは常識である。しかし、超能力者とは個性そのもの!先人達が作った路線をただ歩いているだけでは何の意味もないのだ!」
「お、仰っていることはごもっともです!しかし、それとこの問題とどういったご関係があるのでしょうか!」
「もちろん関係ある!私は歴史という、ある種答えの決まった回答で個性を出すにはどうすればいいのかを私なりに考えた結果である。そしてそれ以上に……私は歴史から君達に学んで欲しいのだよ。同じ惨劇を繰り返さないために」
ナーシルは、先程までの緩やかなのんびりした声音を変える。
「君はここに書かれているこの『ダーラードの大虐殺』を見てどう感じたんだい?」
『ダーラードの大虐殺』とはおよそ六千年前、各国が建国された当初、混乱に乗じて悪魔崇拝をする闇の一党によって引き起こされた千人以上の死者を出したテロ事件のことである。
「そ、それは……可哀想だな……と……」
「君はその程度の認識でこの事件を終わらせて、歴史を学んだと言えるのかい?」
「……」
とうとうその少女は意気消沈してしまい、座ってしまう。
「私が君たちに学んで欲しいのは歴史の真実である。だからこそ華美に装飾された良いことしか書いていない本ではなく、このような虐殺までしっかりと書かれた教科書を選んだ!」
確かにこの教科書には、表世界ならば確実に規制されているような、超能力者が過去に行った大虐殺などの非道な歴史が赤裸々に書かれていた。
「歴史をただ覚えるだけで何も学ばないのであれば、それは学んだとは言えないのではないだろうか?そう考えた結果、私が行きついた教育方針がこれだ。この一年でしっかりと意味のある歴史を学んで欲しいと思う!では、補習を始める」
ナーシルはそう言って黒板に文字を書いていった。
(……変わった教師の多い学校だな、本当に……)
黙ってそれを聞いていたシークはそう思わずにはいられなかった。
補習を終えたシークはすぐさま闘技会の練習のために、闘技場へと向かった。
「遅れてすまない」
「この大事な時期に補習とは……少し弛んでるぞ!気を引きしめろ!」
「わ、悪い……」
先輩の一人に怒られてしまった。
補習になった原因が、友人に罰ゲームを受けさせるためと聞いたら雷が落ちてくるだろう。
因みに操られていたと思わしき、シークの前任者は目が覚めても体のダルさが消えず、本調子に戻るまでシークが代役としてでることが決まった。
本人曰く、行方不明になった前日に眠った後からの記憶は全くないらしく、本人からしたら気付いたら数日経っていて、頬などがこけていた、とのことだ。
学園側はこの事件を正式に発表し、謝罪。暫くの間、保護者達への説明に奔走していた。
今は大分落ち着きを取り戻し、いつもの学園風景に戻っていた。
そんな中、シークはいつも通りヒツジにしごかれていた。
「貴方、そんなんじゃ試合で勝てないわよ?分かってるの?」
「いや、そもそも一年生に組代表を任せること事態に問題があるだろうが。それに負けても一番問題のない次鋒だろ?」
闘技会は全部で五戦行われ、三戦目のみペアだが、基本的には一人で戦うことになる。
シークは二戦目、次鋒を任されたのだが、次鋒は勝利に一番関係ない立ち位置と言われ、新人が入ることが多い。
「でも、それが負けても良い理由にはならないわ。そんな意気込みじゃ本当に負けるわよ?」
「お前がそんなに言うほど強かったのか?」
昨年もヒツジは闘技会に参加していた。
その経験談をシークとしては参考にしたかった。
ヒツジは珍しく少し悩んだ後、真面目に答えた。
「強く……はなかったわね。けど、私でも油断していたら負けていた試合はいくつもあったわ」
「強くはないのに負けそうだったのか?」
矛盾していそうな答えにシークは戸惑う。
「ええ……。そうね、普段ならこんなこと言わないけれど、特別に一つアドバイスをしてあげるわ」
「ああ」
珍しく素直にアドバイスをくれようとしているヒツジに驚きながらもシークは真剣に聞く姿勢に入る。
「私達は普段、守る訓練をしているわよね?」
「ああそうだな。ジン義兄さんを守ることが最低限の条件だから攻撃は二の次だ」
「そう……私達は守ることに特化しているの。常に背後を気にして全体を把握しようとする。後ろに誰かいた方がむしろ戦いやすいといってもいいわ」
ジンを殺そうとしたシークの存在にコスモスが気付いたように、彼らは常に背後からの奇襲を気にしなければならない。
常に全体を見て、最低限何かあった時のための逃走ルートを確保する。
シークやヒツジ達、ジンの側近に求められているのはそんな戦い方だった。
「だけど、それがどうしても癖として現れる。私達にとってそれは決して悪いことではないんだけど、一対一が決まっている、他者の介入があり得ない場でのそれは私達にとってハンデとなる」
一度の戦闘で終わる実戦と違って、毎回同じ人間が試合で出てくる。
当然、相手は対策を練り、それを実行してくる。
「最初はいいけど、次回からしんどくなるから覚悟しておきなさい」
「……」
シークの闘技会に怪しい雲行きがかかった。
ナーシルはそう高らかに断言した。
「は、はぁ?あり得ないです!他の教科で平均85点を取っている私がこの点数なんですよ?」
「それは君が歴史を暗記科目と断じ、他のことを何もしてこなかったからでしょう?」
「なっ!?」
少女のその反論をナーシルはバッサリと切り捨てる。
その言葉に周りの生徒達からも反論が飛ぶ。
「歴史は確かに暗記科目というのは常識である。しかし、超能力者とは個性そのもの!先人達が作った路線をただ歩いているだけでは何の意味もないのだ!」
「お、仰っていることはごもっともです!しかし、それとこの問題とどういったご関係があるのでしょうか!」
「もちろん関係ある!私は歴史という、ある種答えの決まった回答で個性を出すにはどうすればいいのかを私なりに考えた結果である。そしてそれ以上に……私は歴史から君達に学んで欲しいのだよ。同じ惨劇を繰り返さないために」
ナーシルは、先程までの緩やかなのんびりした声音を変える。
「君はここに書かれているこの『ダーラードの大虐殺』を見てどう感じたんだい?」
『ダーラードの大虐殺』とはおよそ六千年前、各国が建国された当初、混乱に乗じて悪魔崇拝をする闇の一党によって引き起こされた千人以上の死者を出したテロ事件のことである。
「そ、それは……可哀想だな……と……」
「君はその程度の認識でこの事件を終わらせて、歴史を学んだと言えるのかい?」
「……」
とうとうその少女は意気消沈してしまい、座ってしまう。
「私が君たちに学んで欲しいのは歴史の真実である。だからこそ華美に装飾された良いことしか書いていない本ではなく、このような虐殺までしっかりと書かれた教科書を選んだ!」
確かにこの教科書には、表世界ならば確実に規制されているような、超能力者が過去に行った大虐殺などの非道な歴史が赤裸々に書かれていた。
「歴史をただ覚えるだけで何も学ばないのであれば、それは学んだとは言えないのではないだろうか?そう考えた結果、私が行きついた教育方針がこれだ。この一年でしっかりと意味のある歴史を学んで欲しいと思う!では、補習を始める」
ナーシルはそう言って黒板に文字を書いていった。
(……変わった教師の多い学校だな、本当に……)
黙ってそれを聞いていたシークはそう思わずにはいられなかった。
補習を終えたシークはすぐさま闘技会の練習のために、闘技場へと向かった。
「遅れてすまない」
「この大事な時期に補習とは……少し弛んでるぞ!気を引きしめろ!」
「わ、悪い……」
先輩の一人に怒られてしまった。
補習になった原因が、友人に罰ゲームを受けさせるためと聞いたら雷が落ちてくるだろう。
因みに操られていたと思わしき、シークの前任者は目が覚めても体のダルさが消えず、本調子に戻るまでシークが代役としてでることが決まった。
本人曰く、行方不明になった前日に眠った後からの記憶は全くないらしく、本人からしたら気付いたら数日経っていて、頬などがこけていた、とのことだ。
学園側はこの事件を正式に発表し、謝罪。暫くの間、保護者達への説明に奔走していた。
今は大分落ち着きを取り戻し、いつもの学園風景に戻っていた。
そんな中、シークはいつも通りヒツジにしごかれていた。
「貴方、そんなんじゃ試合で勝てないわよ?分かってるの?」
「いや、そもそも一年生に組代表を任せること事態に問題があるだろうが。それに負けても一番問題のない次鋒だろ?」
闘技会は全部で五戦行われ、三戦目のみペアだが、基本的には一人で戦うことになる。
シークは二戦目、次鋒を任されたのだが、次鋒は勝利に一番関係ない立ち位置と言われ、新人が入ることが多い。
「でも、それが負けても良い理由にはならないわ。そんな意気込みじゃ本当に負けるわよ?」
「お前がそんなに言うほど強かったのか?」
昨年もヒツジは闘技会に参加していた。
その経験談をシークとしては参考にしたかった。
ヒツジは珍しく少し悩んだ後、真面目に答えた。
「強く……はなかったわね。けど、私でも油断していたら負けていた試合はいくつもあったわ」
「強くはないのに負けそうだったのか?」
矛盾していそうな答えにシークは戸惑う。
「ええ……。そうね、普段ならこんなこと言わないけれど、特別に一つアドバイスをしてあげるわ」
「ああ」
珍しく素直にアドバイスをくれようとしているヒツジに驚きながらもシークは真剣に聞く姿勢に入る。
「私達は普段、守る訓練をしているわよね?」
「ああそうだな。ジン義兄さんを守ることが最低限の条件だから攻撃は二の次だ」
「そう……私達は守ることに特化しているの。常に背後を気にして全体を把握しようとする。後ろに誰かいた方がむしろ戦いやすいといってもいいわ」
ジンを殺そうとしたシークの存在にコスモスが気付いたように、彼らは常に背後からの奇襲を気にしなければならない。
常に全体を見て、最低限何かあった時のための逃走ルートを確保する。
シークやヒツジ達、ジンの側近に求められているのはそんな戦い方だった。
「だけど、それがどうしても癖として現れる。私達にとってそれは決して悪いことではないんだけど、一対一が決まっている、他者の介入があり得ない場でのそれは私達にとってハンデとなる」
一度の戦闘で終わる実戦と違って、毎回同じ人間が試合で出てくる。
当然、相手は対策を練り、それを実行してくる。
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