ノーリミットアビリティ
第55話 終幕
泣き止んだシャーリーを連れながら、シークはゆっくりと歩いていく。
涙の跡で目が腫れ、少しぐずっているものの、彼女の美しさは少しも陰ってはいなかった。
そして、闘技場を出たところで、
「おー、無事かー?」
シーク達が出てくるのを待っていたレインとアルトが声をかけてくる。
「お前らこそ……激闘だったみたいだな」
レインとアルトの制服はボロボロになっており、レインは直撃は避けられたものの、弾丸をかすめた跡で身体中から血を滲ませていた。
アルトも右腕を斬られ、即席の包帯を巻いていた。
「大丈夫だったか?」
「ああ、俺らの方は何とかな」
「僕の方も二人いたけどちゃんと倒したよ」
「そうか……それを聞いて安心したぜ」
レイン達の言葉を聞いて、シークは胸をなで下ろす。
「で、そっちは……うまくいったようだな?」
仲良く手を繋いでいるシーク達を見て、レインはニヤニヤと笑いながら聞いてくる。
「おお、まあな。シャーリー、この二人はお前のために戦ってくれたんだ。お礼を言っとけ。あ、レインにはサンキュー、くらいでいいぞ」
「何でだよ!頑張ったんだからもうちょっと……」
「くすくす」
シークのジョークにレインが突っ込むと、それを見てシャーリーが笑う。
そして一歩前に出て頭を下げたのだ。
「関係のない私を助けるために来てくれてありがとう」
「お、おう……」
「うん、どういたしまして」
レインは恥ずかしそうに、アルトは笑顔で頷いた。
そんな四人の背後から近づいてくる複数の影。
奈落山とジンにヒツジ、それにフラグマやコスモスだった。
「やぁ、お待たせ……、って、もう終わっているみたいだね」
「奈落山か、ああ、もう終わったぞ。……で、何でジン義兄さん達がここに来てんだ?」
「それは……」
「僕がこの手紙を読んで、ここにくる途中だったからさ」
奈落山の言葉をかぶせるようにジンは懐から一枚の紙を取り出す。
内容は簡単に言えば脅迫文だった。
闘技場へ来い。来なければシャーリーを殺す、と血文字で書いてあった。
「それで何で本人が来ちゃうんだよ」
「身内の危機となったら見過ごせないよ。それに……シャーリーには期待しているからね」
そういうとシャーリーに向き直り、
「怪我はなかったかい?」
「は、はい!」
シャーリーは熱に浮かされたようにジンを見上げながら頷く。
(……元気じゃねぇか!いや、別にいいけどさ)
シークは何とも言えない気持ちになり不貞腐れる。
「ふふふ、シークもよく頑張ったね。お疲れ様」
「るせぇ……」
頭を撫でてくるジンの手を払いのける。
「後は僕達の方でやっておくから、寮に戻ってゆっくり休んでおいで」
「わかった。後は頼む」
そんなジン達のやりとりの横では、シャーリーとヒツジが向かい合っていた。
「ヒツジ、様……」
「シャーリー」
シャーリーは幾分か怯えた表情で、ヒツジは凛とした佇まいで見合う。
「あ、あの……私、やっぱり……」
「次はないわよ。私達の存在意義はジン様の……ヴァリエールの意思を守り、その理想を実行させること。不満はもとより不祥事を起こすような人間は必要ないのよ」
シャーリーの父親が最後に言おうとしていた言葉だ。
ヴァリエールは天才などという言葉で一括りにさせることがおこがましい程の人間である。
その戦術眼についていけるものは身内以外には居らず、それ故にどうしてこんなことを、といった普通の人には理解のできないことをすることがあるのだ。
そこで理解が出来ない、納得ができないからと言って手を止める人間や文句を言う人間は不必要だとヒツジは言っているのだ。
シャーリーはシークを見て、そしてその言葉を聞いて、やっとの事で理解をした。
「はい!申し訳ありませんでした!」
少し怯えながらも、気丈に頭を下げた。
その姿を見て納得したのか、ヒツジはそれ以後静かにジンの横に佇む。
「シャーリーちゃん!大丈夫だった?怪我はない?」
顔を上げたシャーリーにコスモスが抱きつく。
「姉さん……」
「もう、ずっと心配してたんだから!」
「すいません……」
「もう、大丈夫なのね?」
「はい。ご迷惑おかけしました」
コスモスは涙をぬぐいながら離れていき、シャーリーに手を振りながら、今度はシークに向き直る。
「シャーリーちゃんを救ってくれてありがとうね。あの子、張り詰めた糸みたいな生活をしてたから」
「ああ……だが、もう大丈夫だろ」
「ええ、本当にありがとう」
横でジンがレイン達にお礼を言い終わったのを最後に、ジン達は闘技場内へ、シークは寮へと戻っていった。
「ちゃんと愛されてんじゃねぇか」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でも」
シークの呟きは満点の星空の下、涼しい風の中に消えていった。
涙の跡で目が腫れ、少しぐずっているものの、彼女の美しさは少しも陰ってはいなかった。
そして、闘技場を出たところで、
「おー、無事かー?」
シーク達が出てくるのを待っていたレインとアルトが声をかけてくる。
「お前らこそ……激闘だったみたいだな」
レインとアルトの制服はボロボロになっており、レインは直撃は避けられたものの、弾丸をかすめた跡で身体中から血を滲ませていた。
アルトも右腕を斬られ、即席の包帯を巻いていた。
「大丈夫だったか?」
「ああ、俺らの方は何とかな」
「僕の方も二人いたけどちゃんと倒したよ」
「そうか……それを聞いて安心したぜ」
レイン達の言葉を聞いて、シークは胸をなで下ろす。
「で、そっちは……うまくいったようだな?」
仲良く手を繋いでいるシーク達を見て、レインはニヤニヤと笑いながら聞いてくる。
「おお、まあな。シャーリー、この二人はお前のために戦ってくれたんだ。お礼を言っとけ。あ、レインにはサンキュー、くらいでいいぞ」
「何でだよ!頑張ったんだからもうちょっと……」
「くすくす」
シークのジョークにレインが突っ込むと、それを見てシャーリーが笑う。
そして一歩前に出て頭を下げたのだ。
「関係のない私を助けるために来てくれてありがとう」
「お、おう……」
「うん、どういたしまして」
レインは恥ずかしそうに、アルトは笑顔で頷いた。
そんな四人の背後から近づいてくる複数の影。
奈落山とジンにヒツジ、それにフラグマやコスモスだった。
「やぁ、お待たせ……、って、もう終わっているみたいだね」
「奈落山か、ああ、もう終わったぞ。……で、何でジン義兄さん達がここに来てんだ?」
「それは……」
「僕がこの手紙を読んで、ここにくる途中だったからさ」
奈落山の言葉をかぶせるようにジンは懐から一枚の紙を取り出す。
内容は簡単に言えば脅迫文だった。
闘技場へ来い。来なければシャーリーを殺す、と血文字で書いてあった。
「それで何で本人が来ちゃうんだよ」
「身内の危機となったら見過ごせないよ。それに……シャーリーには期待しているからね」
そういうとシャーリーに向き直り、
「怪我はなかったかい?」
「は、はい!」
シャーリーは熱に浮かされたようにジンを見上げながら頷く。
(……元気じゃねぇか!いや、別にいいけどさ)
シークは何とも言えない気持ちになり不貞腐れる。
「ふふふ、シークもよく頑張ったね。お疲れ様」
「るせぇ……」
頭を撫でてくるジンの手を払いのける。
「後は僕達の方でやっておくから、寮に戻ってゆっくり休んでおいで」
「わかった。後は頼む」
そんなジン達のやりとりの横では、シャーリーとヒツジが向かい合っていた。
「ヒツジ、様……」
「シャーリー」
シャーリーは幾分か怯えた表情で、ヒツジは凛とした佇まいで見合う。
「あ、あの……私、やっぱり……」
「次はないわよ。私達の存在意義はジン様の……ヴァリエールの意思を守り、その理想を実行させること。不満はもとより不祥事を起こすような人間は必要ないのよ」
シャーリーの父親が最後に言おうとしていた言葉だ。
ヴァリエールは天才などという言葉で一括りにさせることがおこがましい程の人間である。
その戦術眼についていけるものは身内以外には居らず、それ故にどうしてこんなことを、といった普通の人には理解のできないことをすることがあるのだ。
そこで理解が出来ない、納得ができないからと言って手を止める人間や文句を言う人間は不必要だとヒツジは言っているのだ。
シャーリーはシークを見て、そしてその言葉を聞いて、やっとの事で理解をした。
「はい!申し訳ありませんでした!」
少し怯えながらも、気丈に頭を下げた。
その姿を見て納得したのか、ヒツジはそれ以後静かにジンの横に佇む。
「シャーリーちゃん!大丈夫だった?怪我はない?」
顔を上げたシャーリーにコスモスが抱きつく。
「姉さん……」
「もう、ずっと心配してたんだから!」
「すいません……」
「もう、大丈夫なのね?」
「はい。ご迷惑おかけしました」
コスモスは涙をぬぐいながら離れていき、シャーリーに手を振りながら、今度はシークに向き直る。
「シャーリーちゃんを救ってくれてありがとうね。あの子、張り詰めた糸みたいな生活をしてたから」
「ああ……だが、もう大丈夫だろ」
「ええ、本当にありがとう」
横でジンがレイン達にお礼を言い終わったのを最後に、ジン達は闘技場内へ、シークは寮へと戻っていった。
「ちゃんと愛されてんじゃねぇか」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でも」
シークの呟きは満点の星空の下、涼しい風の中に消えていった。
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