ノーリミットアビリティ
第52話 月光刀・月詠
「何で、シークがここに……」
「あんな置き手紙しといて、来ねぇと思ってるならお前は大馬鹿野郎だ」
視線はまずは真っ直ぐに禿頭の男に向けながら、シークは吐き捨てるようにいう。
「私は……私は、お前にあんなに酷い事を言ったのに……」
「酷い事?お前は俺を意味もなく殴ったか?臓器売買目的のクソ野郎どもに俺を売り払おうとしたか?してねぇよな?なら、お前のしたことは酷い事には入らねぇよ」
「シーク……お前……」
シークの口から出た壮絶な言葉に、シャーリーは思わず息を飲む。
実は、シークはジン達に養子にさせられる前に、一度だけ孤児院に入ったことがある。
理不尽な暴力と、あまりにも酷い生活環境に耐えかねたシークは一ヶ月と経たずにそこから逃げ出した。
「それでもどうしても納得できないって言うなら、後で俺が怒ってやる。まずは……」
切っ先をシャーリーに向けられているドス黒い短剣を弾き飛ばし、周りを見渡しながら、
「こいつらを始末する!」
禿頭の男は弾いた衝撃で後ろに飛ばされ、着地する。
そして、暫くそのままの姿勢でプルプルと震えたかと思うと、静かに嗚咽をその口から漏らす。
気持ちが悪い。
本能的にそう思ってしまうような、低く、そして不規則な音を口から発していた。
そして、突如顔を上げたかと思うと、天を仰ぎながら叫ぶ。
「素晴らしい!!なんと美しい友情!力強い眼差し!ああ、素晴らしいデスね喜ばしいデスね!私はなんと運がいいのデスか!ああ、神よ、我らが主よ!貴方のその素晴らしいお慈悲に心から感謝するのデス!」
涙を流しながら天を仰ぎ祈るその姿に、シャーリーは恐怖を覚える。
「狂ってる……」
そんなシャーリーの呟きも今は禿頭の男の耳には入らない。
「どんな恐怖も恐れることのない少女に、それを助ける為、仲間を犠牲にしてこの場にたどり着いた貴方はまるで騎士のようデス!こんな素晴らしい魂を戴けるとは!我が神は、やはり私を愛している!」
「……もういいか?聞くに耐えねぇからそろそろ終わらせてくれ」
最後まで言わせようとしたのだが、禿頭の男の言葉があまりにも不快だった為、シークは口を挟む。
「あいつらを勝手に殺すんじゃねぇよ。それと……いちおう勧告しといてやる。今からお前らを殺す。死にたくなければ降伏しろ」
「おお、おお!おおお!この状況を見て尚そんな言葉が出てくるとは、素晴らしい!是非、名前を教えてもらいたいデス!」
「……シーク」
「シーク!いい名前デス!素晴らしい名前デス!」
「やめろ、気持ち悪い」
シークのあからさまな侮辱に対しても、もともと真っ青なその顔色を変えることなく、寧ろ嬉々とした表情で聞いてもいない自身の名前を天高く言い放つ。
「私は堕天教団が司教の一人、ジャック・スペルデス!」
「堕天教団、だと?あの悪魔崇拝の?」
「否!我々は悪魔崇拝ではないのです!我が主、ルシフェル様こそ至高の天使様であり、この世の全てを支配するに相応しいお方なのデス!忌まわしきヴァリエールにその名声を地に堕とされた復讐を、主に変わって我々が行うのデス!」
「そうか……なら、交渉決裂だ。死ね」
そう言うと、シークは右手に持っていた太刀を振りかざす。
「……っ!??」
次の瞬間、シーク達を囲んでいた目深にフードコートを着ていた黒装束の集団内、四つの首が飛んでいく。
一瞬遅れて吹き上がる血飛沫によって、彼らの頭が切り離されたと気付く。
「……やっぱ最初の一撃で頭は取れねぇか」
ジャックだけは右手を首の部分に持ってきており、首から上を切り落とされるのを防いでいた。
「な、何をしたのデスか、貴方は?!」
「面倒くせぇ匂いのするやつから削っていく」
そう呟き、更にもう一振り太刀を振り回す。
すると、先程と同じように、黒装束の教団の人間の首が五つ程、空中に舞った。
「お前……それ……」
間近で見ていたシャーリーは見えていた。
シークが刀を振り、そして振り切るその瞬間、刀身が一瞬だけ消えていたことに。
「月光刀・月詠。第三階位に属する神器だよ」
月光刀・月詠。
奈落山家に代々伝わる神器、絶刀・空撃と並び、四階位存在する神器の格の中で第三階位に属する刀。
ノアの大洪水以降、太陽剣・天照と雨弓・鈿女命と共に行方の分からなくなっていた刀の一つであり、凡そ二千年ほど前にその所在が明らかになった刀だ。
その所有者は、地球と呼ばれる表世界の東の地、邪馬台国と呼ばれていた国を遥か昔に治めていた、卑弥呼と呼ばれる女性だった。
それ以降、この三つの神器を扱える者は居らず、卑弥呼の死後、彼女が眠る古墳に封印されていた。
神器はただの優れた武器というだけではなく、神から与えられた恩寵、超能力と言うべき能力が備わっている。
月光刀の能力は『影伝い』。
影を自由に操り、影の中を自由に移動できる能力。
刀身を影の中に潜ませ、彼らの首のすぐ横に出現させ、その切っ先を五十センチ先で影の中に潜り込ませ、次の標的でまた繰り返す。
一人につき刀身を五十センチ使い、一度に五人の首を落とせるのだ。
「クク、クカカカカ、クキカカカカカ!!」
その言葉を聞いた。ジャックが突如として喉の奥を震わせるような気味の悪い音を出し始めた。
「素晴らしい!素晴らしいのデス!まさか神器に選ばれし者に出会えるとは!何たる幸運!貴方のような高潔な魂を奪えるとは素晴らしい!今宵は私の為にあるのデス!」
歯をむき出しにし、天高く吠えるように嗤うジャック。
「お前の話はさっき聞いたよ」
だが、シークはジャックの言葉には耳を貸さず、冷静に、そして冷酷に三振り目を放つ。
「避けるのデス!」
シークの挙動に気付いたジャックが叫ぶ。
それと同時に黒装束の集団が一斉に飛び上がる。
だが……。
「カッ……?」
月光刀の刃は確かに避けたはずだ。
しかし、今度は三人の黒装束の男達の身体がバラバラに切り落とされる。
「な、何をしたんだ、お前……」
驚いた表情で尋ねてくるシャーリーをチラリと覗き見ながら、シークは前に集中する。
「ほぉ?」
ジャックは冷静に状況を把握しようとしている。
「我が同志達よ!その場から動かず、遠距離の攻撃を繰り出しなさい!」
黒装束の男達はジャックの命令に無言で従い、四方から同時に攻撃をされる。
強力な水流を口から出す水系能力者、指先から石の弾丸を出す錬金系能力者、植物を地面から生やしその植物が種を弾丸として弾き出す生命系能力者、投げたナイフを自在に操り一斉にシークへと飛ばした念力系能力者。
四方からの一斉攻撃が起こり、シークを中心に爆発を起こす。
「さぁ、どうデスか!我が同志達の攻撃は!一溜まりもないでしょう?」
そう叫ぶジャックの視界に入ったのは、砂煙が晴れた後に出てきた真っ黒な球体だった。
「大した事ねぇな?お前らの全力って奴は」
黒い球体が上から順にゆっくりと地面に落ちるように剥がれていく。
その中から出てきたのは無傷で佇むシークと、座り込むシャーリーだった。
そして。驚く彼らの一瞬の硬直を、シークは見逃さなかった。
四振り目、放つと同時にジャックも叫ぶ。
「避けなさいっ!」
死を回避するため、反射的に飛び上がった彼らは、先程と同じように身体をバラバラにされて地に落ちていく。
「……糸、デスねぇ?」
その様子を見たジャックが、とうとうシークの能力に気付いた。
「限りなく細く、そして強靭な糸を使い、私の同志達が空中に飛び上がる瞬間の反発力を利用してその身体を切り落とした、と言う事デスね?」
「ふん、正解だよ。だが、気づくのが遅かったな?お仲間さんもあと二人しか残ってねぇぜ?」
「確かに我が同志達が死んでしまったことは残念デス。しかし、悲しむことはない!彼らは死んでもその魂は我が主に献上され、死後永遠にそのお側でお仕えするのデス!」
「そうかよ。んじゃ、仲良く三人であの世に行っとけ!」
そう言うと、シークは弾丸のようにジャックへと飛び出していった。
「あんな置き手紙しといて、来ねぇと思ってるならお前は大馬鹿野郎だ」
視線はまずは真っ直ぐに禿頭の男に向けながら、シークは吐き捨てるようにいう。
「私は……私は、お前にあんなに酷い事を言ったのに……」
「酷い事?お前は俺を意味もなく殴ったか?臓器売買目的のクソ野郎どもに俺を売り払おうとしたか?してねぇよな?なら、お前のしたことは酷い事には入らねぇよ」
「シーク……お前……」
シークの口から出た壮絶な言葉に、シャーリーは思わず息を飲む。
実は、シークはジン達に養子にさせられる前に、一度だけ孤児院に入ったことがある。
理不尽な暴力と、あまりにも酷い生活環境に耐えかねたシークは一ヶ月と経たずにそこから逃げ出した。
「それでもどうしても納得できないって言うなら、後で俺が怒ってやる。まずは……」
切っ先をシャーリーに向けられているドス黒い短剣を弾き飛ばし、周りを見渡しながら、
「こいつらを始末する!」
禿頭の男は弾いた衝撃で後ろに飛ばされ、着地する。
そして、暫くそのままの姿勢でプルプルと震えたかと思うと、静かに嗚咽をその口から漏らす。
気持ちが悪い。
本能的にそう思ってしまうような、低く、そして不規則な音を口から発していた。
そして、突如顔を上げたかと思うと、天を仰ぎながら叫ぶ。
「素晴らしい!!なんと美しい友情!力強い眼差し!ああ、素晴らしいデスね喜ばしいデスね!私はなんと運がいいのデスか!ああ、神よ、我らが主よ!貴方のその素晴らしいお慈悲に心から感謝するのデス!」
涙を流しながら天を仰ぎ祈るその姿に、シャーリーは恐怖を覚える。
「狂ってる……」
そんなシャーリーの呟きも今は禿頭の男の耳には入らない。
「どんな恐怖も恐れることのない少女に、それを助ける為、仲間を犠牲にしてこの場にたどり着いた貴方はまるで騎士のようデス!こんな素晴らしい魂を戴けるとは!我が神は、やはり私を愛している!」
「……もういいか?聞くに耐えねぇからそろそろ終わらせてくれ」
最後まで言わせようとしたのだが、禿頭の男の言葉があまりにも不快だった為、シークは口を挟む。
「あいつらを勝手に殺すんじゃねぇよ。それと……いちおう勧告しといてやる。今からお前らを殺す。死にたくなければ降伏しろ」
「おお、おお!おおお!この状況を見て尚そんな言葉が出てくるとは、素晴らしい!是非、名前を教えてもらいたいデス!」
「……シーク」
「シーク!いい名前デス!素晴らしい名前デス!」
「やめろ、気持ち悪い」
シークのあからさまな侮辱に対しても、もともと真っ青なその顔色を変えることなく、寧ろ嬉々とした表情で聞いてもいない自身の名前を天高く言い放つ。
「私は堕天教団が司教の一人、ジャック・スペルデス!」
「堕天教団、だと?あの悪魔崇拝の?」
「否!我々は悪魔崇拝ではないのです!我が主、ルシフェル様こそ至高の天使様であり、この世の全てを支配するに相応しいお方なのデス!忌まわしきヴァリエールにその名声を地に堕とされた復讐を、主に変わって我々が行うのデス!」
「そうか……なら、交渉決裂だ。死ね」
そう言うと、シークは右手に持っていた太刀を振りかざす。
「……っ!??」
次の瞬間、シーク達を囲んでいた目深にフードコートを着ていた黒装束の集団内、四つの首が飛んでいく。
一瞬遅れて吹き上がる血飛沫によって、彼らの頭が切り離されたと気付く。
「……やっぱ最初の一撃で頭は取れねぇか」
ジャックだけは右手を首の部分に持ってきており、首から上を切り落とされるのを防いでいた。
「な、何をしたのデスか、貴方は?!」
「面倒くせぇ匂いのするやつから削っていく」
そう呟き、更にもう一振り太刀を振り回す。
すると、先程と同じように、黒装束の教団の人間の首が五つ程、空中に舞った。
「お前……それ……」
間近で見ていたシャーリーは見えていた。
シークが刀を振り、そして振り切るその瞬間、刀身が一瞬だけ消えていたことに。
「月光刀・月詠。第三階位に属する神器だよ」
月光刀・月詠。
奈落山家に代々伝わる神器、絶刀・空撃と並び、四階位存在する神器の格の中で第三階位に属する刀。
ノアの大洪水以降、太陽剣・天照と雨弓・鈿女命と共に行方の分からなくなっていた刀の一つであり、凡そ二千年ほど前にその所在が明らかになった刀だ。
その所有者は、地球と呼ばれる表世界の東の地、邪馬台国と呼ばれていた国を遥か昔に治めていた、卑弥呼と呼ばれる女性だった。
それ以降、この三つの神器を扱える者は居らず、卑弥呼の死後、彼女が眠る古墳に封印されていた。
神器はただの優れた武器というだけではなく、神から与えられた恩寵、超能力と言うべき能力が備わっている。
月光刀の能力は『影伝い』。
影を自由に操り、影の中を自由に移動できる能力。
刀身を影の中に潜ませ、彼らの首のすぐ横に出現させ、その切っ先を五十センチ先で影の中に潜り込ませ、次の標的でまた繰り返す。
一人につき刀身を五十センチ使い、一度に五人の首を落とせるのだ。
「クク、クカカカカ、クキカカカカカ!!」
その言葉を聞いた。ジャックが突如として喉の奥を震わせるような気味の悪い音を出し始めた。
「素晴らしい!素晴らしいのデス!まさか神器に選ばれし者に出会えるとは!何たる幸運!貴方のような高潔な魂を奪えるとは素晴らしい!今宵は私の為にあるのデス!」
歯をむき出しにし、天高く吠えるように嗤うジャック。
「お前の話はさっき聞いたよ」
だが、シークはジャックの言葉には耳を貸さず、冷静に、そして冷酷に三振り目を放つ。
「避けるのデス!」
シークの挙動に気付いたジャックが叫ぶ。
それと同時に黒装束の集団が一斉に飛び上がる。
だが……。
「カッ……?」
月光刀の刃は確かに避けたはずだ。
しかし、今度は三人の黒装束の男達の身体がバラバラに切り落とされる。
「な、何をしたんだ、お前……」
驚いた表情で尋ねてくるシャーリーをチラリと覗き見ながら、シークは前に集中する。
「ほぉ?」
ジャックは冷静に状況を把握しようとしている。
「我が同志達よ!その場から動かず、遠距離の攻撃を繰り出しなさい!」
黒装束の男達はジャックの命令に無言で従い、四方から同時に攻撃をされる。
強力な水流を口から出す水系能力者、指先から石の弾丸を出す錬金系能力者、植物を地面から生やしその植物が種を弾丸として弾き出す生命系能力者、投げたナイフを自在に操り一斉にシークへと飛ばした念力系能力者。
四方からの一斉攻撃が起こり、シークを中心に爆発を起こす。
「さぁ、どうデスか!我が同志達の攻撃は!一溜まりもないでしょう?」
そう叫ぶジャックの視界に入ったのは、砂煙が晴れた後に出てきた真っ黒な球体だった。
「大した事ねぇな?お前らの全力って奴は」
黒い球体が上から順にゆっくりと地面に落ちるように剥がれていく。
その中から出てきたのは無傷で佇むシークと、座り込むシャーリーだった。
そして。驚く彼らの一瞬の硬直を、シークは見逃さなかった。
四振り目、放つと同時にジャックも叫ぶ。
「避けなさいっ!」
死を回避するため、反射的に飛び上がった彼らは、先程と同じように身体をバラバラにされて地に落ちていく。
「……糸、デスねぇ?」
その様子を見たジャックが、とうとうシークの能力に気付いた。
「限りなく細く、そして強靭な糸を使い、私の同志達が空中に飛び上がる瞬間の反発力を利用してその身体を切り落とした、と言う事デスね?」
「ふん、正解だよ。だが、気づくのが遅かったな?お仲間さんもあと二人しか残ってねぇぜ?」
「確かに我が同志達が死んでしまったことは残念デス。しかし、悲しむことはない!彼らは死んでもその魂は我が主に献上され、死後永遠にそのお側でお仕えするのデス!」
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