ノーリミットアビリティ
第46話 亀裂
その日を境に、シーク達の輪は少しギクシャクした。
もともと奈落山とレインはそれほど会話する仲ではなかったし、悪口を言い合っているわけでもない。
ただ何となく、空気がいつもより重かった。
(うーん……どうすりゃいいんだ?)
二人の間で板挟みとなっているシークは頭を悩ませる。
奈落山も意図的にレインから視線を離そうとするし、レインもアルトと防蔓としか話そうとしない。
この空気を何とかしようと、まず奈落山に言ってみたのだが返事が芳しくなかった。
曰く、悪いと思っていないことで謝ることはできない、だそうだ。
レインはもっと露骨に嫌がる。
俺は事実を言っただけだ。俺は悪くない、の一点張りだ。
(単純に考えたらレインが悪いんだよなぁー。奈落山に突っかかったわけだし。でもそれをいうと絶対怒るしな……)
双方に理由がある為、どちらが悪いと一方的に決めつけることは出来ない。
しかし、どちらかが謝らないと始まらないのだ。
改めて人間関係って難しいな、と感じるシークだった。
授業が終わり、日に日に激しくなるヒツジのしごき、否、闘技会の訓練でボロボロになったシークは疲れた体を引きずりながら部屋の扉を開ける。
「あ、シーク君!おかえりー!」
珍しく防蔓が台所に立っており、ミキサーを使って何かを作っているようだった。
「おう、ただいま。っと、どっこいしょ。あー疲れたー」
部屋に備え付けのソファーに雑に座りながらぼやく。
そしてそのまま首だけを後ろに持っていき、防蔓を見る。
「んで、お前は何やってるんだ?」
「あ、シーク君が疲れているかと思いまして滋養の高いジュースを作ってました」
「へー。もしかして野菜ジュースのレパートリーとかあんの?」
「はい!百種類くらいありますよ!」
「えっ、スゲーな!もしかしてそれって癒雲木家秘伝のジュースとか?」
「いえ、そうではなくて、ただの僕の趣味ですよ」
少し恥ずかしそうにしながら防蔓は言った。
「へー、飲み物作りが趣味って……また変わってんな」
料理が趣味というのは多々聞いたことがあるのだが、飲み物限定というのは初耳だった。
「えへへ、よく言われます。料理も嫌いではないのですけど……」
そう言いながら、防蔓は出来立ての野菜ジュースを持ってくる。
「どうぞ!」
「ああ、サンキュー」
手渡しで受け取った白いコップに入った紫色の液体を眺めながら、シークはふと気になった質問をする。
「でも、お前、俺が帰ってきた時、いつも部屋でガーデニングしてなかったか?」
「えっ!?」
目をまん丸にして驚く防蔓に、シークは逆に驚く。
「そんな驚くか?」
「い、いえすいません。ガーデニングも趣味なんです!」
「ふーん」
それにしてはガーデニングの割合が高い気がするが、シークは気にせずジュースに口をつけ、一気に飲み干した。
暫くして、レインとアルトが帰ってくる。
「おかえり。どこ行ってたんだ?」
「別にどこだっていいだろ」
「あ?おい、その言い方は……」
ソファーで寛いだままレインに話し掛けるが、当のレインはそっぽを向いてそのまま部屋へと直行してしまう。
「ご、ごめんね!ちょっとレイン、色々あってイライラしているところだったから」
「……あとで詳しく説明しろよ?」
「うん、分かってる。というか説明しなきゃいけないことだかしね」
「は?」
アルトの意味深な言葉にシークが聞き返すが、その前にアルトもさっさと部屋の中に戻ってしまった。
取り残されたシークは呆然としたまま、
「何なんだ?」
と呟いた。
その日からレインはアルトと二人だけで行動するようになり、シーク達から距離を置くようになった。
シークから話しかけても、レインは露骨に無視するし、アルトは申し訳なさそうな顔をしてごめん、と言うだけだった。
シークが帰ってきてもレイン達は部屋におらず、少し遅い時間に帰ってきては部屋に引きこもる。
そんな日が数日続いたある日の夕方、防蔓が作り置きしてくれたジュースを白いコップに入れて飲みながら、備え付けのテレビでヘリオス国内のテレビ番組を見ていた時だった。
突然、部屋の扉を乱暴に叩く音が室内に響き渡った。
「シーク!シークはいる?!」
「いるぞー。今行くからちょっと待ってろ」
彼女らしくないその声音にシークは顔を驚きながら、早足でドアに近づいていき、扉を開ける。
「奈落山、どうした?わざわざ男子寮なんかに来て」
奈落山の額からは汗が流れており、相当焦っているのが分かる。
「はぁはぁ、これ!これを見て!」
「何だこれ?」
渡されたのは、クシャクシャになった一枚のノートの切れ端だった。
「いいから読んで!」
「わ、分かったよ!焦らせんな。なになに……」
その異様な空気を察したシークは奈落山の汗で少し滲んだ文字を読む。
「……何だと?」
そこには、シャーリーがこの学園を去り、実家に帰ることを伝える旨が書いてあった。
「っざけんな!」
シークは思わず叫び、寮を飛び出した。
もともと奈落山とレインはそれほど会話する仲ではなかったし、悪口を言い合っているわけでもない。
ただ何となく、空気がいつもより重かった。
(うーん……どうすりゃいいんだ?)
二人の間で板挟みとなっているシークは頭を悩ませる。
奈落山も意図的にレインから視線を離そうとするし、レインもアルトと防蔓としか話そうとしない。
この空気を何とかしようと、まず奈落山に言ってみたのだが返事が芳しくなかった。
曰く、悪いと思っていないことで謝ることはできない、だそうだ。
レインはもっと露骨に嫌がる。
俺は事実を言っただけだ。俺は悪くない、の一点張りだ。
(単純に考えたらレインが悪いんだよなぁー。奈落山に突っかかったわけだし。でもそれをいうと絶対怒るしな……)
双方に理由がある為、どちらが悪いと一方的に決めつけることは出来ない。
しかし、どちらかが謝らないと始まらないのだ。
改めて人間関係って難しいな、と感じるシークだった。
授業が終わり、日に日に激しくなるヒツジのしごき、否、闘技会の訓練でボロボロになったシークは疲れた体を引きずりながら部屋の扉を開ける。
「あ、シーク君!おかえりー!」
珍しく防蔓が台所に立っており、ミキサーを使って何かを作っているようだった。
「おう、ただいま。っと、どっこいしょ。あー疲れたー」
部屋に備え付けのソファーに雑に座りながらぼやく。
そしてそのまま首だけを後ろに持っていき、防蔓を見る。
「んで、お前は何やってるんだ?」
「あ、シーク君が疲れているかと思いまして滋養の高いジュースを作ってました」
「へー。もしかして野菜ジュースのレパートリーとかあんの?」
「はい!百種類くらいありますよ!」
「えっ、スゲーな!もしかしてそれって癒雲木家秘伝のジュースとか?」
「いえ、そうではなくて、ただの僕の趣味ですよ」
少し恥ずかしそうにしながら防蔓は言った。
「へー、飲み物作りが趣味って……また変わってんな」
料理が趣味というのは多々聞いたことがあるのだが、飲み物限定というのは初耳だった。
「えへへ、よく言われます。料理も嫌いではないのですけど……」
そう言いながら、防蔓は出来立ての野菜ジュースを持ってくる。
「どうぞ!」
「ああ、サンキュー」
手渡しで受け取った白いコップに入った紫色の液体を眺めながら、シークはふと気になった質問をする。
「でも、お前、俺が帰ってきた時、いつも部屋でガーデニングしてなかったか?」
「えっ!?」
目をまん丸にして驚く防蔓に、シークは逆に驚く。
「そんな驚くか?」
「い、いえすいません。ガーデニングも趣味なんです!」
「ふーん」
それにしてはガーデニングの割合が高い気がするが、シークは気にせずジュースに口をつけ、一気に飲み干した。
暫くして、レインとアルトが帰ってくる。
「おかえり。どこ行ってたんだ?」
「別にどこだっていいだろ」
「あ?おい、その言い方は……」
ソファーで寛いだままレインに話し掛けるが、当のレインはそっぽを向いてそのまま部屋へと直行してしまう。
「ご、ごめんね!ちょっとレイン、色々あってイライラしているところだったから」
「……あとで詳しく説明しろよ?」
「うん、分かってる。というか説明しなきゃいけないことだかしね」
「は?」
アルトの意味深な言葉にシークが聞き返すが、その前にアルトもさっさと部屋の中に戻ってしまった。
取り残されたシークは呆然としたまま、
「何なんだ?」
と呟いた。
その日からレインはアルトと二人だけで行動するようになり、シーク達から距離を置くようになった。
シークから話しかけても、レインは露骨に無視するし、アルトは申し訳なさそうな顔をしてごめん、と言うだけだった。
シークが帰ってきてもレイン達は部屋におらず、少し遅い時間に帰ってきては部屋に引きこもる。
そんな日が数日続いたある日の夕方、防蔓が作り置きしてくれたジュースを白いコップに入れて飲みながら、備え付けのテレビでヘリオス国内のテレビ番組を見ていた時だった。
突然、部屋の扉を乱暴に叩く音が室内に響き渡った。
「シーク!シークはいる?!」
「いるぞー。今行くからちょっと待ってろ」
彼女らしくないその声音にシークは顔を驚きながら、早足でドアに近づいていき、扉を開ける。
「奈落山、どうした?わざわざ男子寮なんかに来て」
奈落山の額からは汗が流れており、相当焦っているのが分かる。
「はぁはぁ、これ!これを見て!」
「何だこれ?」
渡されたのは、クシャクシャになった一枚のノートの切れ端だった。
「いいから読んで!」
「わ、分かったよ!焦らせんな。なになに……」
その異様な空気を察したシークは奈落山の汗で少し滲んだ文字を読む。
「……何だと?」
そこには、シャーリーがこの学園を去り、実家に帰ることを伝える旨が書いてあった。
「っざけんな!」
シークは思わず叫び、寮を飛び出した。
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