ノーリミットアビリティ
第39話 満足
「何だと!?」
舞華が叫ぶ。
昇華もいつもの微笑んだ顔を驚愕に変え、珊瑚も目を見開いている。
だが、シークはそんな二人の反応を見ながら話を続ける。
「んでまあ、秋沙先輩がお前らに俺のことを教えない理由だが……恐らくジン義兄さん……ヴァリエールの次期当主の方から何かしら情報封鎖がいってんだろ」
「ちょっ、ちょっと待て!言っている意味が分からない!お前がヴァリエール家の次男だと?ご長男様がいらっしゃると言う話は聞いている。だが、弟がいるだなんて聞いたことがない!」
「あー、俺は拾われたんだよ。三年前にな。捨て子だったんだ……」
「拾われたって……。じゃ、じゃあシャーリーがお前に突っかかっていたのって……」
「そう言うことだ。納得出来なかったんだろうな。俺のことを知っているのはヴァリエール家の直臣の中でも古い家柄の人間だけだが、そんな奴らでも俺のことを嫌がる人間はいる」
古い家柄の、例えばホロウ家のような家から非常に優秀な子どもが生まれたとして、その子を養子として育てたいならば問題はなかっただろう。
しかし、どこの馬の骨とも分からないような子どもを引き取ってきたのだ。簡単に受け入れられるわけがない。
「昔は家柄が何だって言うんだ、とか思ってたんだが、まあ最近は彼らの気持ちも分からんでもない」
肩をすくめながらシークは呟く。
「だが……いや、えっと……ああもう!何から聞けばいいのか分からなくなってしまった!」
「もう、舞華ったら……。そんな時は、えいっ!」
突然舞華の背後に回り込んだ珊瑚が舞華の胸を思いっきり鷲掴む。
「ひゃあ!ちょっ!珊瑚、それは本当にやめろって、……んっ」
「ああー、本当に舞華は大きいなー」
舞華の胸は小さいとはいえ珊瑚の手に収まらないほど成長しており、珊瑚の手に揉まれるたびに形を変えていた。
「おぉ……」
自然とシークの視線はそこにいき、つい感嘆の声が口から漏れてしまった。
「おぉ、じゃないよ!」
「す、すまん……」
奈落山に怒られたシークは素直に謝罪する。
一方で舞華も珊瑚に対して反撃する。
「い、いい加減にしろ!」
「痛っ!」
音が鳴るほど強烈なゲンコツを珊瑚に落とし、拘束を振りほどく。
「全く……。ゴホン、お見苦しいところを見せた」
「いや……」
「いや別に構わないぞ」
「……」
奈落山の相槌に被せる。
シークをジト目で見る。
「そ、そうか。ならいい。だが確認が取れるまで信用するわけにはいかない」
「分かってるよ。俺とヴァリエールの名前を出して秋沙先輩に聞いてみろ。もう誤魔化したりはしねぇはずだ」
「分かった。それと、昨日は不意打ちをしてすまなかった」
「構わねぇよ。怪我もしなかったしな」
「そういってくれると……ありがたい」
「一応補足させていただきますが、舞華は普段からあのようなことをしているわけではありませんわ」
「わーってるよ。本当に気にしてないから安心しろ。それに……俺もお前らに謝んなきゃならんことがある」
「ん?お前が私達に?」
シークは頭を下げて三人に謝る。
「正直、お前らのこと舐めてた。天職を使わなくても問題なく勝てると思っていた」
「……それで?」
「強かったよ。お前ら、すげぇコンビネーションだったよ。世界で最も絆の強い一族の名は伊達じゃねぇって感じた」
「……んふっ」
「?」
聞こえてきた空気の漏れる音に驚いて頭をあげて舞華を見る。
だが、顔を上げてみると、舞華は先程と同じようにキリッとした顔をしていた。
よくみると、瞼がピクピクしている。
「それが分かったのならば、今回の戦いは意味のあるものだったということだ。ふふふ、シークも精進するといい!では、失礼する!」
「お、おう……。テンション上げすぎだろ」
「うふふ、では、私達はこれで失礼させていただきます」
「じゃーねー」
舞華に続いて、昇華と珊瑚もそれに続いて寮へと帰っていった。
「奈落山も来てくれてありがとな」
「ううん、私も結構楽しかったし、結果的に舞華達とも仲良くなれたわけだから終わりよければ全て良しだよ!」
「そうか」
「ただ……ひとつ分からないことがあるんだけど」
「何だ?今なら結構何でも答えてやれるぞ」
「ふふふ、それは魅力的なお話だね。だけど今はとりあえず一つだけ……」
そこで一拍置いて続ける。
「何で変人種だって言ったんだい?あのまま黙っていれば誰も気付かなかっただろうし、勝てていたんだよね?」
「あーそのことか……」
頭をかきながらバツの悪そうな顔をする。
「二対三で戦うって決めた以上、ルールにはのっとるべきだろう?人によっては肉体は一つなんだから一人という解釈をするが、俺は違う。しかも、あいつらを舐めて使わないと決めていた能力を使わされた。なら俺の負けだろう?」
シークの個人の実力を見る目は間違っていなかった。
例えば、シーク達の実力を数値化が出来たとしたら、シークと奈落山の合計数値は間違いなく舞華達三人の合計を上回っていた。
しかし、舞華達はそれらを補って余りある連携プレーを見せ、そしてシーク『だけ』では対処しきれない数値では測れない強さを見せつけた。
「……」
「俺が隠形を使えばあいつらじゃまず対処出来ないという自信はある。そこに更に変人種までいれれば勝ちは盤石だろう。だけどさ……それは違うだろ。巻き込んでおいてこんな負け方で悪かった。お前は納得出来ないだろうが……」
話している間、一言も発さない奈落山から少し目を離しながら、心象を伝える。
「……」
「……」
暫く二人の間に沈黙が続く。
そんなに怒っているのか、と心配になるが、ならば罵倒も受け入れるべきだと思い、待ち続ける。
そんな時だった。
「……ぷっ、くく」
「え?」
「くく、くは、あっはっはっは。そんなこと気にしてたの?」
「なっ……」
真剣に謝ったのだが、当の奈落山は大笑いだった。
ひとしきり笑った奈落山は、涙を拭いながらシークの方を見る。
「全く……待ち合わせにギリギリに来たり、人を巻き込んでおいて碌に作戦も立てないような愚か者かと思えば、変なところで真面目だし几帳面だよね」
「……悪かったな」
少し不貞腐れる。だがその次の瞬間、
「ぎゅー!」
「うおっ!?」
一瞬影が目の前に現れたかと思うと、シークの鼻腔をそろそろ嗅ぎ慣れた匂いが突き刺し、体を女子特有の柔らかい体に包まれる。
数秒後、バッと勢いよく離れた奈落山は頬を真っ赤に染めながらも満面の笑顔をシークに見せる。
「お、お前、何を!?」
「ふふふ、今の私の中の溢れる気持ちを表現したらこうなった」
「……意味分からん」
「子どものシークには分からなくていいよ!じゃ、私も寮に戻るね!バイバイ!」
「あ、おい!ちょ、……本当に行っちまいやがった。何なんだ、あいつ」
帰る道は同じなんだから一緒に帰ればいいだろ、などと悪態をつきながら、シークも寮への道を歩いて行った。
舞華が叫ぶ。
昇華もいつもの微笑んだ顔を驚愕に変え、珊瑚も目を見開いている。
だが、シークはそんな二人の反応を見ながら話を続ける。
「んでまあ、秋沙先輩がお前らに俺のことを教えない理由だが……恐らくジン義兄さん……ヴァリエールの次期当主の方から何かしら情報封鎖がいってんだろ」
「ちょっ、ちょっと待て!言っている意味が分からない!お前がヴァリエール家の次男だと?ご長男様がいらっしゃると言う話は聞いている。だが、弟がいるだなんて聞いたことがない!」
「あー、俺は拾われたんだよ。三年前にな。捨て子だったんだ……」
「拾われたって……。じゃ、じゃあシャーリーがお前に突っかかっていたのって……」
「そう言うことだ。納得出来なかったんだろうな。俺のことを知っているのはヴァリエール家の直臣の中でも古い家柄の人間だけだが、そんな奴らでも俺のことを嫌がる人間はいる」
古い家柄の、例えばホロウ家のような家から非常に優秀な子どもが生まれたとして、その子を養子として育てたいならば問題はなかっただろう。
しかし、どこの馬の骨とも分からないような子どもを引き取ってきたのだ。簡単に受け入れられるわけがない。
「昔は家柄が何だって言うんだ、とか思ってたんだが、まあ最近は彼らの気持ちも分からんでもない」
肩をすくめながらシークは呟く。
「だが……いや、えっと……ああもう!何から聞けばいいのか分からなくなってしまった!」
「もう、舞華ったら……。そんな時は、えいっ!」
突然舞華の背後に回り込んだ珊瑚が舞華の胸を思いっきり鷲掴む。
「ひゃあ!ちょっ!珊瑚、それは本当にやめろって、……んっ」
「ああー、本当に舞華は大きいなー」
舞華の胸は小さいとはいえ珊瑚の手に収まらないほど成長しており、珊瑚の手に揉まれるたびに形を変えていた。
「おぉ……」
自然とシークの視線はそこにいき、つい感嘆の声が口から漏れてしまった。
「おぉ、じゃないよ!」
「す、すまん……」
奈落山に怒られたシークは素直に謝罪する。
一方で舞華も珊瑚に対して反撃する。
「い、いい加減にしろ!」
「痛っ!」
音が鳴るほど強烈なゲンコツを珊瑚に落とし、拘束を振りほどく。
「全く……。ゴホン、お見苦しいところを見せた」
「いや……」
「いや別に構わないぞ」
「……」
奈落山の相槌に被せる。
シークをジト目で見る。
「そ、そうか。ならいい。だが確認が取れるまで信用するわけにはいかない」
「分かってるよ。俺とヴァリエールの名前を出して秋沙先輩に聞いてみろ。もう誤魔化したりはしねぇはずだ」
「分かった。それと、昨日は不意打ちをしてすまなかった」
「構わねぇよ。怪我もしなかったしな」
「そういってくれると……ありがたい」
「一応補足させていただきますが、舞華は普段からあのようなことをしているわけではありませんわ」
「わーってるよ。本当に気にしてないから安心しろ。それに……俺もお前らに謝んなきゃならんことがある」
「ん?お前が私達に?」
シークは頭を下げて三人に謝る。
「正直、お前らのこと舐めてた。天職を使わなくても問題なく勝てると思っていた」
「……それで?」
「強かったよ。お前ら、すげぇコンビネーションだったよ。世界で最も絆の強い一族の名は伊達じゃねぇって感じた」
「……んふっ」
「?」
聞こえてきた空気の漏れる音に驚いて頭をあげて舞華を見る。
だが、顔を上げてみると、舞華は先程と同じようにキリッとした顔をしていた。
よくみると、瞼がピクピクしている。
「それが分かったのならば、今回の戦いは意味のあるものだったということだ。ふふふ、シークも精進するといい!では、失礼する!」
「お、おう……。テンション上げすぎだろ」
「うふふ、では、私達はこれで失礼させていただきます」
「じゃーねー」
舞華に続いて、昇華と珊瑚もそれに続いて寮へと帰っていった。
「奈落山も来てくれてありがとな」
「ううん、私も結構楽しかったし、結果的に舞華達とも仲良くなれたわけだから終わりよければ全て良しだよ!」
「そうか」
「ただ……ひとつ分からないことがあるんだけど」
「何だ?今なら結構何でも答えてやれるぞ」
「ふふふ、それは魅力的なお話だね。だけど今はとりあえず一つだけ……」
そこで一拍置いて続ける。
「何で変人種だって言ったんだい?あのまま黙っていれば誰も気付かなかっただろうし、勝てていたんだよね?」
「あーそのことか……」
頭をかきながらバツの悪そうな顔をする。
「二対三で戦うって決めた以上、ルールにはのっとるべきだろう?人によっては肉体は一つなんだから一人という解釈をするが、俺は違う。しかも、あいつらを舐めて使わないと決めていた能力を使わされた。なら俺の負けだろう?」
シークの個人の実力を見る目は間違っていなかった。
例えば、シーク達の実力を数値化が出来たとしたら、シークと奈落山の合計数値は間違いなく舞華達三人の合計を上回っていた。
しかし、舞華達はそれらを補って余りある連携プレーを見せ、そしてシーク『だけ』では対処しきれない数値では測れない強さを見せつけた。
「……」
「俺が隠形を使えばあいつらじゃまず対処出来ないという自信はある。そこに更に変人種までいれれば勝ちは盤石だろう。だけどさ……それは違うだろ。巻き込んでおいてこんな負け方で悪かった。お前は納得出来ないだろうが……」
話している間、一言も発さない奈落山から少し目を離しながら、心象を伝える。
「……」
「……」
暫く二人の間に沈黙が続く。
そんなに怒っているのか、と心配になるが、ならば罵倒も受け入れるべきだと思い、待ち続ける。
そんな時だった。
「……ぷっ、くく」
「え?」
「くく、くは、あっはっはっは。そんなこと気にしてたの?」
「なっ……」
真剣に謝ったのだが、当の奈落山は大笑いだった。
ひとしきり笑った奈落山は、涙を拭いながらシークの方を見る。
「全く……待ち合わせにギリギリに来たり、人を巻き込んでおいて碌に作戦も立てないような愚か者かと思えば、変なところで真面目だし几帳面だよね」
「……悪かったな」
少し不貞腐れる。だがその次の瞬間、
「ぎゅー!」
「うおっ!?」
一瞬影が目の前に現れたかと思うと、シークの鼻腔をそろそろ嗅ぎ慣れた匂いが突き刺し、体を女子特有の柔らかい体に包まれる。
数秒後、バッと勢いよく離れた奈落山は頬を真っ赤に染めながらも満面の笑顔をシークに見せる。
「お、お前、何を!?」
「ふふふ、今の私の中の溢れる気持ちを表現したらこうなった」
「……意味分からん」
「子どものシークには分からなくていいよ!じゃ、私も寮に戻るね!バイバイ!」
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