ノーリミットアビリティ
第32話 天條院家
天條院家。
他の綺條院、牙條院、法條院、士條院の四家を併せて、通称五條院家とも呼ばれるヘ世界最大の貴族である。
その中でも炎の神を宿す神器を代々受け継ぐ、五條院家の纏め役が天條院家である。
彼らは、十人(現在は十人揃っていないのだが)の神憑の家でも最大の権力と財力を併せ持っていた。
そして何より、次期神憑筆頭候補である天條院秋沙は、ジンのように身分を隠していないのだ。
彼女がこの学園の三年生であることは、少し上級生に聞けばすぐに分かることでであり、それだけの知名度もある。
今回の件を何とかするのにうってつけの人物であった。
「と言っても結局はシャーリー自身を変えないと意味がないわよ?こんなものは一時凌ぎにしかならないのだから」
「ああ、分かってる」
「それで、秋沙様とのコンタクトは取れそうなの?」
「それは大丈夫だ。ツテはある」
「貴方いつもの間に……、いえ、そう言えば奈落山さんの横に確か……」
「そういうことだ。まあもし失敗したらお前に頼むわ!じゃあな!」
「あっ、ちょっと、待ちなさい!ちょっ、シーク!」
ボロボロにされたせめてもの仕返しにヒツジの話を最後まで聞かずにシークは走り出した。
シークはその足で、一度寮へと戻る。
「おかー、どうだった?」
最初にシークを出迎えたのはレインだった。
「なんとか人を集める目処は立ったぜ」
「お、本当か!?誰だ?」
「秘密だ。後でのお楽しみにしとけ」
「えぇー」
レインが渋ると、アルトが自室から出てくる。
「そうだよ、レイン。僕達は今回のことは何も出来ないんだから静かに見ていないと」
「うぇーい……」
納得出来ないが仕方なくといった感じで同意した。
「おかえり、シーク」
「おう、アルト。防蔓は?」
「防蔓君かい?僕達が来た時には既に部屋に篭っていたよ?」
「分かった」
シークは相槌を一つうつと、自室のドアを開ける。
その瞬間、この数日で嗅ぎ慣れた清涼感のある新鮮な空気が流れ込んできた。
部屋全体を落ち着いた明るい緑色に装飾され、彼方此方に植物の緑が溢れていた。
もちろんシークが植えたものではない。
防蔓の趣味である、インドアガーデンの賜物である。
今も防蔓は扉に背を向け、熱心に枝木を綺麗に整えている。
「相変わらず熱心だな、防蔓」
「あっ、シーク君!お帰りなさいです!」
「おう、ただいま」
声を掛けると防蔓は満面の笑みでシークを迎えてくれた。
「あっ、喉乾いていませんか?昨日のジュース、まだありますよ!」
「おう、じゃあ一杯頼むわ」
「はい!」
そう元気よく答えた防蔓は道具を片付けて部屋を出て行く。
外からはレインとアルトにも飲むか聞いている声が聞こえる。
「はぁー、疲れた……」
今回はヒツジに徹底的にシゴかれた肉体的な疲れだ。
「あいつ、手加減なしでボコボコにしやがって……マジで許さねぇ」
一人愚痴りながら、汚れた服を籠の中に入れ、新しい服に着替える。
部屋を出ると、丁度防蔓がお盆に載せた黄色いコップに入った昨日と同じ野菜ジュースをレインとアルトに差し出しているところだった。
「シーク君もどうぞ!」
「ああ、助かる」
防蔓が手渡してきたコップを受け取り、一気に飲み干す。
「あー、うめぇー生き返るー。ヒツジにボロボロにされた身体に染み渡るぜ」
「ありがとうございます!」
自分の領地で取れた野菜で作ったジュースを褒められて嬉しいのか、防蔓はご機嫌だった。
その後、夕食の時間まで暇を潰した四人は、夕食の合図とともに部屋を出て食堂へと向かう。
食堂には四人はいつも通り、奈落山達を見つけ、その横に座る。
「練習お疲れ様、シーク」
「ああ……本当に疲れたぜ」
「ふふふ、ヒツジ先輩にこってり絞られたみたいだね?」
「惜しいところまでいってたんだけどな」
嘘だ。完全なるワンサイドゲームだったのだが、少し見栄を張ったのだった。
「それはそうと……」
話にひと段落ついたところで、シークは本題、奈落山の前に座る二人の少女、牙條院舞華と綺條院昇華に顔を向ける。
すると、視線に気付いた舞華と昇華は話をやめてシークの目を真っ直ぐに見ながら問い掛ける。
「何だ?私達に何か用か?」
「ああ」
真面目な顔つきになったシークを見て、舞華は目を細める。
「それで悪いんだが、後で少し付き合ってくれないか?」
そういった瞬間、舞華の目つきがさらに細まり、睨むようにシークを見る。
昇華も一見何も変わっていないように見えて、目の奥が少し怖くなっている。
「そう睨むな。別に変なことを頼もうってわけじゃねぇから。シャーリーの事でちょっと頼みたいことがある」
「それはこの場では話せないことなのか?」
「ああ、俺とお前達だけで話がしたい」
シャーリーの名前を出すと、舞華と昇華は動揺で少し視線が揺らいだ。
彼女達はシャーリーと同部屋なのだから、今のシャーリーの状態はシークよりも余程詳しいだろう。
しかし、何とかしようにもこの件に関して殆ど何も知らされていない舞華や昇華にできる事は殆どないのだ。
学園に来てからのシャーリーの事で彼女達が知っていることといえば、シャーリーが異様なほどシークを目の敵にしていたことと、落ち込む直前、どうやらシークと戦ったらしいということだけだ。
何も知らない人間が手を出していい事ではないと悟った彼女達は、結局今日まで何も出来ず、歯痒い思いをしていたのだった。
暫くの沈黙の後、舞華はゆっくりと口を開く。
「……珊瑚も、呼んで構わないだろうか?」
シークが連絡を取りたい秋沙の横には、彼女達の姉である牙條院湖赤と綺條院湖白の二人しかいない。
その二人にコンタクトを取るのに、法條院珊瑚は来る必要は無いはずなのだが、彼女達は珊瑚の同席を望んだ。
シークが頼みたい事は、出来るだけ知っている人間が少ない方がいいのだが……。
「ああ、もちろん構わないぞ」
しかし、シークは珊瑚の同席を許可した。
予想はしていた。恐らく、いや、まず間違いなく舞華は珊瑚も呼ぶだろうと思っていた。
何故なら……牙條院舞華はシークをこれ以上ない程警戒しているからだ。
他の綺條院、牙條院、法條院、士條院の四家を併せて、通称五條院家とも呼ばれるヘ世界最大の貴族である。
その中でも炎の神を宿す神器を代々受け継ぐ、五條院家の纏め役が天條院家である。
彼らは、十人(現在は十人揃っていないのだが)の神憑の家でも最大の権力と財力を併せ持っていた。
そして何より、次期神憑筆頭候補である天條院秋沙は、ジンのように身分を隠していないのだ。
彼女がこの学園の三年生であることは、少し上級生に聞けばすぐに分かることでであり、それだけの知名度もある。
今回の件を何とかするのにうってつけの人物であった。
「と言っても結局はシャーリー自身を変えないと意味がないわよ?こんなものは一時凌ぎにしかならないのだから」
「ああ、分かってる」
「それで、秋沙様とのコンタクトは取れそうなの?」
「それは大丈夫だ。ツテはある」
「貴方いつもの間に……、いえ、そう言えば奈落山さんの横に確か……」
「そういうことだ。まあもし失敗したらお前に頼むわ!じゃあな!」
「あっ、ちょっと、待ちなさい!ちょっ、シーク!」
ボロボロにされたせめてもの仕返しにヒツジの話を最後まで聞かずにシークは走り出した。
シークはその足で、一度寮へと戻る。
「おかー、どうだった?」
最初にシークを出迎えたのはレインだった。
「なんとか人を集める目処は立ったぜ」
「お、本当か!?誰だ?」
「秘密だ。後でのお楽しみにしとけ」
「えぇー」
レインが渋ると、アルトが自室から出てくる。
「そうだよ、レイン。僕達は今回のことは何も出来ないんだから静かに見ていないと」
「うぇーい……」
納得出来ないが仕方なくといった感じで同意した。
「おかえり、シーク」
「おう、アルト。防蔓は?」
「防蔓君かい?僕達が来た時には既に部屋に篭っていたよ?」
「分かった」
シークは相槌を一つうつと、自室のドアを開ける。
その瞬間、この数日で嗅ぎ慣れた清涼感のある新鮮な空気が流れ込んできた。
部屋全体を落ち着いた明るい緑色に装飾され、彼方此方に植物の緑が溢れていた。
もちろんシークが植えたものではない。
防蔓の趣味である、インドアガーデンの賜物である。
今も防蔓は扉に背を向け、熱心に枝木を綺麗に整えている。
「相変わらず熱心だな、防蔓」
「あっ、シーク君!お帰りなさいです!」
「おう、ただいま」
声を掛けると防蔓は満面の笑みでシークを迎えてくれた。
「あっ、喉乾いていませんか?昨日のジュース、まだありますよ!」
「おう、じゃあ一杯頼むわ」
「はい!」
そう元気よく答えた防蔓は道具を片付けて部屋を出て行く。
外からはレインとアルトにも飲むか聞いている声が聞こえる。
「はぁー、疲れた……」
今回はヒツジに徹底的にシゴかれた肉体的な疲れだ。
「あいつ、手加減なしでボコボコにしやがって……マジで許さねぇ」
一人愚痴りながら、汚れた服を籠の中に入れ、新しい服に着替える。
部屋を出ると、丁度防蔓がお盆に載せた黄色いコップに入った昨日と同じ野菜ジュースをレインとアルトに差し出しているところだった。
「シーク君もどうぞ!」
「ああ、助かる」
防蔓が手渡してきたコップを受け取り、一気に飲み干す。
「あー、うめぇー生き返るー。ヒツジにボロボロにされた身体に染み渡るぜ」
「ありがとうございます!」
自分の領地で取れた野菜で作ったジュースを褒められて嬉しいのか、防蔓はご機嫌だった。
その後、夕食の時間まで暇を潰した四人は、夕食の合図とともに部屋を出て食堂へと向かう。
食堂には四人はいつも通り、奈落山達を見つけ、その横に座る。
「練習お疲れ様、シーク」
「ああ……本当に疲れたぜ」
「ふふふ、ヒツジ先輩にこってり絞られたみたいだね?」
「惜しいところまでいってたんだけどな」
嘘だ。完全なるワンサイドゲームだったのだが、少し見栄を張ったのだった。
「それはそうと……」
話にひと段落ついたところで、シークは本題、奈落山の前に座る二人の少女、牙條院舞華と綺條院昇華に顔を向ける。
すると、視線に気付いた舞華と昇華は話をやめてシークの目を真っ直ぐに見ながら問い掛ける。
「何だ?私達に何か用か?」
「ああ」
真面目な顔つきになったシークを見て、舞華は目を細める。
「それで悪いんだが、後で少し付き合ってくれないか?」
そういった瞬間、舞華の目つきがさらに細まり、睨むようにシークを見る。
昇華も一見何も変わっていないように見えて、目の奥が少し怖くなっている。
「そう睨むな。別に変なことを頼もうってわけじゃねぇから。シャーリーの事でちょっと頼みたいことがある」
「それはこの場では話せないことなのか?」
「ああ、俺とお前達だけで話がしたい」
シャーリーの名前を出すと、舞華と昇華は動揺で少し視線が揺らいだ。
彼女達はシャーリーと同部屋なのだから、今のシャーリーの状態はシークよりも余程詳しいだろう。
しかし、何とかしようにもこの件に関して殆ど何も知らされていない舞華や昇華にできる事は殆どないのだ。
学園に来てからのシャーリーの事で彼女達が知っていることといえば、シャーリーが異様なほどシークを目の敵にしていたことと、落ち込む直前、どうやらシークと戦ったらしいということだけだ。
何も知らない人間が手を出していい事ではないと悟った彼女達は、結局今日まで何も出来ず、歯痒い思いをしていたのだった。
暫くの沈黙の後、舞華はゆっくりと口を開く。
「……珊瑚も、呼んで構わないだろうか?」
シークが連絡を取りたい秋沙の横には、彼女達の姉である牙條院湖赤と綺條院湖白の二人しかいない。
その二人にコンタクトを取るのに、法條院珊瑚は来る必要は無いはずなのだが、彼女達は珊瑚の同席を望んだ。
シークが頼みたい事は、出来るだけ知っている人間が少ない方がいいのだが……。
「ああ、もちろん構わないぞ」
しかし、シークは珊瑚の同席を許可した。
予想はしていた。恐らく、いや、まず間違いなく舞華は珊瑚も呼ぶだろうと思っていた。
何故なら……牙條院舞華はシークをこれ以上ない程警戒しているからだ。
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