ノーリミットアビリティ
第24話 挑戦状
結局その後、シャーリーが教室に現れることはなく、奈落山だけが遅刻して授業に参加した。
二時間目以降、教室内はシャーリーの話題で持ちきりだった。
当然だ。つい昨日まではたった一日で、その名を悪い意味で広めた人間が、次の日には少しの恐喝で涙を流したのだ。
シャーリーの実力はあの場にいた他の一年生により証明済みであり、その気の強さをコキノス組中に知らしめた人間がたった一夜のうちに豹変したのだ。
生徒達の間では様々な憶測が飛び交っていた。
その中には限りなく真実に近いものもある。
シャーリーが意気揚々と闘技場に向かうのを見たものがいたのだ。
そして、シークが闘技場に向かうのを見た者も多い。
二つの噂、事実を組み合わせれば自ずと答えは見えてくるものだ。
シークが一方的にシャーリーを倒した。
四時間目が終わる頃には、噂はそんな結論にに至っていた。
「……」
昼食の最中、シークはずっと無言だった。
昨日に引き続き、何も分かっていないシャーリーに同情したり、自分の肩を持ったりしていることに言いようのない不快感を感じていた。
「なぁシーク、カリカリすんのは止そうぜ?周りの空気まで悪くなる」
「じゃあレイン、お前があれ、止めてこいよ」
「無理に決まってるだろ。人の口に戸は立てられないっていうことわざを知らんのか」
「チッ……」
レインの注意を無視して、シークは再び食事を始める。
すると、それを見ていた奈落山が今度はシークに注意をする。
「シーク、今のはレインの言う通りだと思うよ。あんまりカリカリするのは良くないと思うんだけど……」
「……そうだな。すまん。ちょっと気持ち切り替えるわ」
「お前!俺への当たりが強過ぎんだろ!何で奈落山の注意は素直に聞いて、俺には舌打ちなんだよ!」
「え?お前、俺になんか言ってたのか?」
「……お前、頭は鶏並みだよな」
「ははは、レインは冗談で場を和ますのが本当に上手いな!」
「……」
レインのおかげで場が和んだシーク達に数人の一年と思われる男子達が近付いてくる。
「すまない。少しいいかな?」
「ん?」
声を掛けられたシークがそちらを見ると、育ちの良さそうな雰囲気を持つ男子達がキラリとした笑顔を放ちながらシーク達を見ていた。
「シーク・トト君だね。僕は模擬戦闘の授業で同じクラスだったリーベル・ホールだ。以後お見知りおきを」
少し気取った感じで礼をとったリーベルは、またもやキラリとした笑顔を送ってくる。
「……あ、ああ、もちろん覚えてるぞ!俺の名前はシーク・トト。よろしく」
「お前、絶対覚えてなかっただろ」
「うるさいぞ、レイン」
シークの歯切れの悪い言い返しに、すかさずレインが突っ込む。
しかし、リーベルはそれが聞こえたのにも関わらず、笑っていた。
「ははは、まあ構わないさ。あのクラスで一番輝いていたのは間違いなく君だからね」
「お、おう……」
そんな事を男に言われても少しも嬉しくないシークは少し引き気味に返事をする。
だが、嫌味と言うわけでもないため邪険に扱うのも気がひける。
困ったシークを見た奈落山が横から口を挟む。
「それで、リーベル君は一体シークにどんな用事があったのかな?」
「おっと、目的を忘れる所だった」
そう言ってリーベルは少し長い髪を軽くかき上げる。
「いちいちキザなやつだな」
「……だな」
「ふ、二人とも聞こえるよ!」
レインが耳打ちしてきたことにシークが同意する。
間近で話した為、もしかしたら聞こえていたのかもしれないが、リーベルは気分を害すことはなくそのまま話しを続ける。
「今日の午後の授業で模擬戦闘がある。そこで!君に頼みがあるんだ」
「……何だよ」
もう嫌な予感しかしないが逃げるわけにもいかず、話をすすめさせる。
「次の模擬戦闘からはペアは基本的に自由に出来るんだ。そこで僕は君を指名する。それを受けて欲しい」
「あ?何でだよ、嫌に決まってんだろ」
毎度のことながら、シークは即答で拒絶する。
すると、リーベルは先程までの役者のような気障ったらしい行為をやめ、居住まいを正す。
そして、ワントーン低い、真剣な声になる。
「それは僕達が君が闘技会入りする事に納得出来ないからだ」
「……お前、俺と奈落山の戦いを見たろ?そんな酷かったか?」
「いや、素晴らしい戦いだったよ。だけど僕はヘリオス人で彼女はアネモニア人だ。残念ながら彼女に勝っても僕達は君をまだ認められないんだよ」
「んな事言ったらイタチごっこだろうが。お前達に勝っても次が現れる」
「いや、それはない。もし君が僕に勝てば君に指導を受けにくる者はいても、僕やシャーリーのように実力が認められないからと言って挑戦を挑む者は現れなくなるはずだ」
「どこにそんな根拠があるんだよ」
何故か自信満々に答えるリーベルに、シークは懐疑的だ。
「まず一つ目、君はかの有名な奈落山家を倒し、そしてその実力を知らしめた」
だが、それだけでは納得しない人間がいる。
「それが僕達、将来ヴァリエール家次期当主であられるジン様直属の護衛を目指している者達さ」
それを聞き、シークの眉が少し上がる。
「どういう事だ?お前、何を知って……」
「少なくとも君以上にシャーリーに詳しいのは確かだよ。何故なら僕はシャーリーと同じ初等学校に居たんだからね」
「なん、だと……!?」
「もし君が僕に勝てたら、僕の知る限りの彼女の情報を渡す。どうだい?」
「……俺が負けたらどうすればいい?」
「何も。あえて言えば、奈落山に勝ったのは偶然だったという情報が広まる、というデメリットがあるかな」
リーベルは飄々としながらも、真剣な雰囲気を出している。本気なのだろう。彼とてコキノス組最精鋭の一人だ。
そして、シークは知らなかったがホロウ家と同様、ヴァリエール家に仕える一族の一つだった。
シャーリー程ではないにしろ、リーベルもシークに対して不快な感情を持っているのだ。
「……その条件を出された以上、俺は容赦はしないぞ?」
「覚悟の上さ。どうだい?受けてくれるだろうね?」
「分かった。お前との勝負、受けよう」
「そうか!では、次の授業、楽しみにさせてもらおう」
そう言うと、リーベルは気障ったらしく身を翻し、食堂を出て行った。
二時間目以降、教室内はシャーリーの話題で持ちきりだった。
当然だ。つい昨日まではたった一日で、その名を悪い意味で広めた人間が、次の日には少しの恐喝で涙を流したのだ。
シャーリーの実力はあの場にいた他の一年生により証明済みであり、その気の強さをコキノス組中に知らしめた人間がたった一夜のうちに豹変したのだ。
生徒達の間では様々な憶測が飛び交っていた。
その中には限りなく真実に近いものもある。
シャーリーが意気揚々と闘技場に向かうのを見たものがいたのだ。
そして、シークが闘技場に向かうのを見た者も多い。
二つの噂、事実を組み合わせれば自ずと答えは見えてくるものだ。
シークが一方的にシャーリーを倒した。
四時間目が終わる頃には、噂はそんな結論にに至っていた。
「……」
昼食の最中、シークはずっと無言だった。
昨日に引き続き、何も分かっていないシャーリーに同情したり、自分の肩を持ったりしていることに言いようのない不快感を感じていた。
「なぁシーク、カリカリすんのは止そうぜ?周りの空気まで悪くなる」
「じゃあレイン、お前があれ、止めてこいよ」
「無理に決まってるだろ。人の口に戸は立てられないっていうことわざを知らんのか」
「チッ……」
レインの注意を無視して、シークは再び食事を始める。
すると、それを見ていた奈落山が今度はシークに注意をする。
「シーク、今のはレインの言う通りだと思うよ。あんまりカリカリするのは良くないと思うんだけど……」
「……そうだな。すまん。ちょっと気持ち切り替えるわ」
「お前!俺への当たりが強過ぎんだろ!何で奈落山の注意は素直に聞いて、俺には舌打ちなんだよ!」
「え?お前、俺になんか言ってたのか?」
「……お前、頭は鶏並みだよな」
「ははは、レインは冗談で場を和ますのが本当に上手いな!」
「……」
レインのおかげで場が和んだシーク達に数人の一年と思われる男子達が近付いてくる。
「すまない。少しいいかな?」
「ん?」
声を掛けられたシークがそちらを見ると、育ちの良さそうな雰囲気を持つ男子達がキラリとした笑顔を放ちながらシーク達を見ていた。
「シーク・トト君だね。僕は模擬戦闘の授業で同じクラスだったリーベル・ホールだ。以後お見知りおきを」
少し気取った感じで礼をとったリーベルは、またもやキラリとした笑顔を送ってくる。
「……あ、ああ、もちろん覚えてるぞ!俺の名前はシーク・トト。よろしく」
「お前、絶対覚えてなかっただろ」
「うるさいぞ、レイン」
シークの歯切れの悪い言い返しに、すかさずレインが突っ込む。
しかし、リーベルはそれが聞こえたのにも関わらず、笑っていた。
「ははは、まあ構わないさ。あのクラスで一番輝いていたのは間違いなく君だからね」
「お、おう……」
そんな事を男に言われても少しも嬉しくないシークは少し引き気味に返事をする。
だが、嫌味と言うわけでもないため邪険に扱うのも気がひける。
困ったシークを見た奈落山が横から口を挟む。
「それで、リーベル君は一体シークにどんな用事があったのかな?」
「おっと、目的を忘れる所だった」
そう言ってリーベルは少し長い髪を軽くかき上げる。
「いちいちキザなやつだな」
「……だな」
「ふ、二人とも聞こえるよ!」
レインが耳打ちしてきたことにシークが同意する。
間近で話した為、もしかしたら聞こえていたのかもしれないが、リーベルは気分を害すことはなくそのまま話しを続ける。
「今日の午後の授業で模擬戦闘がある。そこで!君に頼みがあるんだ」
「……何だよ」
もう嫌な予感しかしないが逃げるわけにもいかず、話をすすめさせる。
「次の模擬戦闘からはペアは基本的に自由に出来るんだ。そこで僕は君を指名する。それを受けて欲しい」
「あ?何でだよ、嫌に決まってんだろ」
毎度のことながら、シークは即答で拒絶する。
すると、リーベルは先程までの役者のような気障ったらしい行為をやめ、居住まいを正す。
そして、ワントーン低い、真剣な声になる。
「それは僕達が君が闘技会入りする事に納得出来ないからだ」
「……お前、俺と奈落山の戦いを見たろ?そんな酷かったか?」
「いや、素晴らしい戦いだったよ。だけど僕はヘリオス人で彼女はアネモニア人だ。残念ながら彼女に勝っても僕達は君をまだ認められないんだよ」
「んな事言ったらイタチごっこだろうが。お前達に勝っても次が現れる」
「いや、それはない。もし君が僕に勝てば君に指導を受けにくる者はいても、僕やシャーリーのように実力が認められないからと言って挑戦を挑む者は現れなくなるはずだ」
「どこにそんな根拠があるんだよ」
何故か自信満々に答えるリーベルに、シークは懐疑的だ。
「まず一つ目、君はかの有名な奈落山家を倒し、そしてその実力を知らしめた」
だが、それだけでは納得しない人間がいる。
「それが僕達、将来ヴァリエール家次期当主であられるジン様直属の護衛を目指している者達さ」
それを聞き、シークの眉が少し上がる。
「どういう事だ?お前、何を知って……」
「少なくとも君以上にシャーリーに詳しいのは確かだよ。何故なら僕はシャーリーと同じ初等学校に居たんだからね」
「なん、だと……!?」
「もし君が僕に勝てたら、僕の知る限りの彼女の情報を渡す。どうだい?」
「……俺が負けたらどうすればいい?」
「何も。あえて言えば、奈落山に勝ったのは偶然だったという情報が広まる、というデメリットがあるかな」
リーベルは飄々としながらも、真剣な雰囲気を出している。本気なのだろう。彼とてコキノス組最精鋭の一人だ。
そして、シークは知らなかったがホロウ家と同様、ヴァリエール家に仕える一族の一つだった。
シャーリー程ではないにしろ、リーベルもシークに対して不快な感情を持っているのだ。
「……その条件を出された以上、俺は容赦はしないぞ?」
「覚悟の上さ。どうだい?受けてくれるだろうね?」
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