ノーリミットアビリティ

ノベルバユーザー202613

間話 痛くて辛い日々

痛い、苦しい。
それが幼少期の記憶だった。

ホロウ家は千年以上続き、ヴァリエール家に代々仕える一族だった。
それ故、数多くの血の繋がった家がある。
一般的に、宗家と分家と言えば、宗家を長男が継ぎ、家を継がなかった兄弟達が分家となる。
しかし、ホロウ家は違った。
いかに多くの者達を現砂神ヴァネッサの神憑、ヴァリエール家の当主直近の部下にするかによって本家が決まる、と言う方式だった。
当主直近の部下は当主が直々に決める為、裏金などといった汚職は存在しない。
それ故、本家を名乗る家が度々代わるのだ。

そんな家柄で、偶々本家を名乗っていた家の次女に生まれた私は、常日頃から強くあれ、気高くあれ。
そう言われて育ってきた。
ホロウ家以外にも複数の家がヴァリエール直近の侍従を狙っており、また、名家の出ではない者も選出される。その倍率は一万人に一人とも十万に一人とも言われている。
それ程狭い道であり、例年、家から三人も侍従を出せば、ほぼ間違いなく本家を名乗れる程だった。

その一人になる為、強くなるために物心がついた時から木刀を振っていた。毎日、大人が音をあげるような修行をこなしていた。
いや、正確にはこなせてはいなかった。
何故なら、こなす前にいつも気絶してしまうから。
夜は泥のように眠り、朝早くから叩き起こされ、筋肉痛で痛む身体を抑えての日課の素振り千回が待っている。その後すぐランニング十キロや組手など過密なトレーニングをさせられていた。
それは学校に遅れるギリギリの時間まで続いた。
そして毎日必ず何処かに傷を付けている私に話しかける同級生はいなかった。
表立って悪口を言う同級生はいない。
しかし、聞こえてくるのだ。
可哀想だの、痛そうだのと言った安い同情と嘲笑の声が。
恥ずかしくてたまらなかった。周りの女の子達は傷一つない綺麗な肌をしているのに、私の肌は包帯と絆創膏が欠かせなくなっていた。

「何で……何で私がこんな目にあわなきゃいけないの?」

帰ればまたキツいトレーニングが待っている。弱音を吐ける友人も居らず、家族は皆、私に強くなれと言う。
唯一私の話を聞いてくれる姉は、既に全寮制のセントラルに入学しており、家にはいない。
辛い日々だった。何の為に、誰の為に私はこんな目にあっているのだろう?

ヴァリエール家のため?ホロウ家の家督相続の為?
少なくともそれらは私の為じゃない。
顔も知らない誰かのためになんて、私は頑張れない。
こんな辛い日々を過ごすくらいなら……死んだほうがマシだ。

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